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被災物を被写体にした写真展「時のイコン 東日本大震災の記録」

東日本大震災から5年の節目を記念して、写真家・六田知弘(むだ ともひろ)氏による被災物(津波にのまれ打ち捨てられた物たち)を被写体にした写真展「時のイコン 東日本大震災の記録(Icons of Time: Memories of the Tsunami that struck Japan)」が、2016年3月1日から4月15日までジャパン・ファウンデーション・シドニーにて開催されている。

3月4日(金)には写真展のプレビューとオープニング・セレモニーが行なわれた。

プレビューでは、六田氏が撮影時の経験や写真に対する想いを丁寧に語り、そのリアルな体験談に参加者が熱心に聞き入る様子が印象的だった。

 

プレビュー参加者にツアーを行なう、写真家の六田知弘氏

 

写真展には、六田氏が被災地域にて撮影したおよそ5000点もの写真の中から厳選した50点が展示されており、鎮魂と祈りの気持ちを込めて「時のイコン」と名づけられた写真からは、震災の”時”の重みが伝わってくる。

 

 

(左上写真)震災から約1年半後に撮影された写真。津波にのまれ泥のついた子供の靴から草が生えており、未来への希望が感じられる一枚。今はもう処分され存在しない被災物だ。

(右上写真)真っ白な壁に夕日が反射して木の影が写し出された美しく幻想的な光景。写真には写っていない壁の端には看板が立てかけられ「汚染物質仮置場」と書かれていた。

 

 

        鑑賞する参加者                六田氏に質問する参加者

 

オープニングセレモニーでは、平日の夕方にもかかわらず80名近くの人が集まった。

まず東日本大震災被災者の方への黙祷が行われた後、遠藤直・ジャパン・ファウンデーション・シドニー所長(写真左下)が挨拶。六田氏と参加者に感謝を述べるとともに、オーストラリアでも被災地の写真が鑑賞でき、被災者の人生をうかがい知ることができる貴重な機会であると語った。

 

続いて、東日本大震災発生後、宮城県に救助隊として派遣されたニュー・サウス・ウェールズ州消防庁のロバート・マクニール氏(写真右上)が復興支援の現場を語った。

マクニール氏は76人と犬2匹を率いて南三陸に赴き、過酷な状況下で休むことなく救助活動を実施。現在も継続して日本を訪れ支援活動を行なっている。

南三陸での救助活動3日目、マクニール氏を含む救助隊はある夫婦と出会う。瓦礫の山となり果てた家の下に娘と孫が下敷きになっているという。マクニール氏たちは8時間かけて瓦礫をすべて退かし捜索したが、発見できたのは彼らの娘の衣服とぐしゃぐしゃになった写真だけだった。衣服と写真をできるだけ綺麗にして老夫婦に渡すと、彼らはお辞儀をしてから立ち去った。マクニール氏はこの体験から日本人の誇りと強さを感じるとともに、必ず日本は復興すると確信したと述べた。

 

 

遠藤直・ジャパン・ファウンデーション・シドニー所長     ロバート・マクニール氏

 

マクニール氏のあとに登壇した高岡正人在シドニー日本国総領事は、2014年7月にキャンベラで開催された豪州国会両院総会で安倍内閣総理大臣からマクニール氏に贈られた「マクニールさんが残した“日本人の消防士たちが悲しんでいるとき、その悲しさを共有することができた。言葉の壁は、そこにはなかった”という感想は、私たちの胸を、いつまでも温かい感情で包みます」という言葉を引用しながら、マクニール氏への感謝を述べた。

 

  

    高岡正人・在シドニー日本国総領事         スピーチに聞き入る参加者たち

 

高岡総領事のスピーチ後には、写真展と福島県の伝統工芸品を鑑賞する時間が設けられた。

 

 

               大堀相馬焼                             会津塗りの楽膳

 

六田氏のスピーチでは、東京で写真展を開いていた震災当時の様子、そしてその数週間後に訪れた被災地での体験などがを語られた。

 

                   スピーチをする六田氏

六田氏が震災発生から3週間後に初めて被災地を訪れた頃は、いまだ津波による海水が残り水浸しの状態だった。あまりに悲惨な状態に写真を撮ることができず、唯一撮影できたのは松の木の根元。根本には瓦礫が積もり、幹に残った新しい傷跡を見て、松の木が津波で流されてきたものを食い止めたように感じたと言う。

 

                     松の木の写真

 

それから9カ月後に、水の引いた被災地を訪れた六田氏は、持参した白いスケッチブックの上に被災物をのせ、朝から夕方まで休むことなくカメラで記録。約30日ほどの滞在期間におよそ5000点もの被災物を撮影した。強い波動を発し、まるで処分される前に自分の姿を撮ってくれと訴えかけられているようだったと語る。「ここに展示されている写真を見て、写真に写る今はこの世にないものたちの声に耳を傾けてください。写真家として私が望むのはただそれだけです」と六田氏はスピーチを締めくくった。

 

六田氏の所属事務所の代表取締役、加藤成子氏

 

六田氏のスピーチ後には、彼が所属する事務所の代表取締役、加藤成子氏が、いち日本人として何ができるのかを考えた当時の記憶と、被災地の画ができるだけ多くの人に見てもらえる展示会を設けられた喜びを語った。

 

セレモニー終了後も、再度写真を見て回る人や六田氏に質問する人が多く、終了時間ぎりぎりまで震災について語り合い、震災への関心度の高さを改めて認識することができたイベントとなった。

 

六田知弘氏の写真展は4月15日まで開催。ぜひ足を運んで、六田氏の写真が語る、震災の“時”の重みを感じてみてはいかがだろうか。

■写真展詳細:http://event.jams.tv/view/485

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