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アルプスの少女ハイジと老婆

 

 
 Sydney Creative Photography

♦アルプスの少女ハイジと老婆♦

私は幼い頃アルプスのハイジが大好きだった。

私には2歳年上の姉がいるのでその影響をかなり受けたと思うのだが、

子供ながらに夢あふれるハイジのストーリーには大変感銘を受け、テレビの再放送を何度も見たものである。

 

青空いっぱいのスイスの山で、野生の動物達を追っかけたり、

ヤギのお乳をそのまま飲んだり、真っ白なパンに大きなチーズを乗せて頂く姿は、

世代を超えた世界中の人が憧れた瞬間だろう。

 

そんなハイジの家が今でもスイスのマイエンフェルトという所に残っていて、

“旅行会社のオプショナルツアーで行けるらしい“と聞いた時、私と姉は大人気ない程、発狂した。

 

あんなメルヘンな物語が、実際にツアーとして催行されているなんて、“世の中はなんてドラマチックなんだ!“と

矢沢栄吉さんのお言葉をかりて、某旅行会社のパンフレットに一礼したのを記憶している。

 

当時私も姉もまだ学生だったので、とてもスイスの山奥までいく資金なかったのだが、

姉が就職して二年目になったある日、“あんたの飛行機代出してあげるから、あんたも来なよ”と私達のハイジツアーは

実現することとなった。

 

あまりに羽振りの良い姉を疑った私は、“あんた偽造テレフォンカードでも売ってんじゃないの?”と

なんども聞きそうになったが、余計な一言で旅行が台無しになってはいけないので、“姉ちゃんは優しいねぇ”

と言っておいた。

 

長い空の旅を追え、その後列車とバスを乗り継ぎ、マイエンフェルトに到着した私と姉は、

早速八木さんというツアーガイドさんに連れられて、山のふもとから2時間程かけて、頂上へ向かって登山した。

登山の途中、“八木(ヤギ)さんというのは本名ですか?“と質問する姉に、八木さんは”えぇ、冗談みたいでしょ?“と

笑った。 どうやら、本名らしい。

 

八木さんは、“ハイジの家にはハイジのモデルになったと言われるスイス人の女性がいて、ハイジのおじいさんや、

犬のヨーゼフもいるので、一緒に写真を撮って頂けますよ。あとヤギの牛乳(山羊乳?)もありますからー“と私と姉の夢を

ますます膨らませた。 

 

途中にはペーターの家やハイジが生まれた家、冬の間ハイジが過ごした家などもあったが、私と姉のハートはそはない、目指すは1つだ。

急な斜面のおかげで無口になっていた姉と私だが、約2時間程斜面を登り続けた頃、見覚えのある木の小屋が見えてきた。

 

“あーーっ!ハイジの家だーーーっ!!!”私と姉は大人気ない大声を張り上げ、最後の力を振り絞って

斜面を加速し、八木さんまでも追い抜いた。

 

ハイジの家はテレビで見たままで、こじんまりした木の小屋の二階には丸い窓があいていて、家の周りには

大きな木々や、ヤギの水飲み場や、ヤギ小屋もあった。山のてっぺんからの景色は真っ青な空と

どこまでもつづく丘の草原がつづき、遠くに見えるアルプス山脈には雪がつもっていて、ハイジツアーは私と姉の期待を裏切る事は無かった。 

 

“うわぁーーっ!テレビの通りぁー!本当にハイジが住んでるみたーーーい!”と大人げない私と姉は

これでもかという程写真を撮りまくり、裸足で草原の坂をごろごろと転がってみたり、子ヤギの横に寝転んで

乳を飲んでる真似をしてピースサインを出したりしていた。

 

狂気の沙汰に近い姉弟の行動を一部始終見ていたガイドの八木さんは、“本当にハイジが好きなんですね。

お写真撮りましょうか?“と、とても親切にして下さった。”これはヤギのミルクです、とってもおいしいですよ“

と、ボトルに入った山羊乳までいただいた。

 

そんな大人気ない姉弟を見兼ねてか、“それではみなさーん、そろそろハイジと、ハイジのおじいさん、

そしてヨーゼフを呼んでみましょうか?“とガイドの八木さんが一声をあげた。

 

“おぉーーーっ!”私と姉はすっかりハイジの存在を忘れていた。テレビで見たままのハイジの小屋や雄大な景色、

それにヤギのミルクまで頂いたのに、その上ハイジのモデルとなった女性やおじいさんに会えるなんてー!

八木さんもなかなかのエンターテイナーである。

 

“それでは皆さんで、ハイジを呼んでみましょう!せーのーぉーー!ハーーイーージィーーッーー!”

 

私と姉はここでも大声を張り上げ木の小屋から登場するハイジの登場を待った。

 

そのとたん、木の小屋のドアがゆっくりと開き、ゆうに80歳は超えたオサゲ髪のおばあさんが杖をついて

出てきた。 

 

“へっ・・・・・・・?・・・・・・・・・・。” 

 

私と姉は一瞬にして顔を見合わせ、彼女がハイジではなく、脇役のクララのお婆さんである事を真摯に願った。 

 

“この方が、ハイジのモデルになった方でーーす!”

 

ガイドの八木さんは盛り上げるように、声を張り上げていらっしゃったが、姉と私、そして本ツアーに参加した皆さんが、

一瞬にして凍りついたのは言うまでもない。

 

よーく考えてみれば、あの物語は私が幼い時に既に存在していたので、もしこのおばあさんがハイジのモデルだったとしたら、年齢的には間違いないだろう。 ハイジも成長してしまったのだ。

 

そのあと、ハイジのおじいさん、犬のヨーゼフ、なぜかペーターも登場した。 

 

お髭が立派なおじいさんはアニメで見たままだったが、ペーターは何故か黒髪の天然パーマの20歳前後の男性で、

似ているところといえば口に棒を加えていたところと、大きな木靴みたいなのを履いているくらいだったし、

犬のヨーゼフはスイスを代表する大きなセントバーナード犬のはずなのに、ひとまわり小さなアイリッシュハウンドが起用されいて、首には“アイスティーあります”と日本語で書かれた看板が下げられていた。

 

おじいさんは小屋の中では、“おーみぃーやーげぇーー!(お土産)”忙しそうに八木さんのお手伝いをしていので、私と姉はますます困惑し、そのままの表情で全体写真を撮影して頂いた。

 

私と姉は、せっかくなので老婆のハイジと記念撮影を撮り、帰りに“ハイジと食べるスイス料理割引券”を直接本人からき下山した。 クーポンには先ほどの老婆が、チーズフォンドゥを両手にニッコリした写真が載っていて、

カタカナで“オイシイナ”と微妙な日本語が書かれていた。

 

こうして姉と私は天と地のハイジツアーを体験し、黒髪のペーターと老婆のハイジに挟まれた記念写真が、

のちに笑いのネタになるとは知る事なく、無事帰国したのであった。

 

シドニー・クリエイティブフォトグラフィーでは、ウェディング撮影を始め、ウェディングビデオ、ウェディングアルバム、

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