♦カールと私♦
私の友人カールはもともとイギリス資本のコンサルティング企業の駐在としてシドニーにやってきたやり手のビジネスマンだ。 そんな彼は、ビジネスでの成功だけにとどまらず数年前にシドニーでオーストラリア女性に出会い、新年早々結婚予定の幸せ組である。
そんな彼はもともとアフリカで生まれ、家族の貧困を理由に2歳の時にイギリス人のご夫婦にひきとられて以来、ロンドンで育ったという経緯があり、平和ボケな私には以前から一目を置く存在であった。 そんな彼でもイギリスからシドニーに引っ越してきたときは、質素なキングスクロスのワンベッドアパートに住んでいて、彼が引っ越してきた当時は、"家庭用品がないといろいろ不便だろう“と、私が普段使用しないトースターや電気ケトルなどを差し上げてみたり、これまた使用済みの食器等を譲ってあげたりしたものであった。
そんなカールとフィアンセのキャサリンから、“最近マンリーに家を買ったから遊びにおいで”とのお誘いを受け、久しぶりにフェリーに乗ってマンリーまで小旅行向かった時である。
せっかく家を購入して引っ越したのだから、手ぶらではいけないと思った大人の私は、私の使用しているパンくずだらけのトースターを一度はじーっと眺めてみたものの、無難なところでお皿のセットをデパートで購入し、大きな写真立てに私が撮影したお気に入りの写真を不器用にラッピングしたものを抱え、私はマンリー行きのフェリーに乗り込んだ。
そんな私をフェリー乗り場に迎えに来てくれたカールは、彼の家がここから歩いてすぐだからと言うので歩き出したが、10分もしないうちにカールが突然立ち止まったかと思うと、“はい到着”と不思議な形をした建物を指差した。
その建物は、台形をひっくり返したガラス張りの建物で、てっぺんにオペラハウスでもくっつけたような突拍子も無い形をしていて、どこかのモダン美術館だか博物館のような大きな4階たてで、ハワイだか、サイパンだかに立てられた真っ白なウェディングチャペルのうような外装であった。
「あらまぁ、何だか不思議な形だねぇ・・ 中はどうなってるの?」とまるで、オペラハウスの内観でも覗きに来た観光客かのような一声を発した私は、口をあんぐりとあけながら建物を見上げた。
そんな私をよそに、入り口の大きなドアを開けたカールはフィアンセのキャサリンを大声で呼んでくれたのである。
我が家だと例えひそひそ話をしても、小さな屁をこいてもお隣さんに気づかれそうなくらい狭いというのに、玄関だけでも私の寝室くらいあるのには驚いた。 さぞかし靴やサンダルさんも幸せであろう。
圧倒されたのは靴やサンダルさんだけではない。不思議な形をしたドアストッパーから始まり、目が痛くなるほど真っ白なキッチンには素敵なクリスタルの花瓶と、まるで外にいるかのように錯覚させられうような大きなガラス窓が上段一面にぐるりと張られていて、これまた突拍子も無いデザインのランプ、そしてトイレットペーパーまでも豪勢に見えて、お尻を拭くのにはとても申し訳ない気さえした。
私も将来彼のような豪邸を購入し、不思議な家具に囲まれて生活している姿を一度は想像してみたが、真っ白なキッチンは瞬く間に真っ黒に汚れ、素敵なクリスタルの花瓶も花をいける事も無く、くずかごと化し、ドアストッパーなどは広告の切れ端を使用するであろうことは大体想像出来たので、私は夢を見るまもなく現実に引き戻された。
私は狭い家で私の身の回りの家具がすぐに手の届く所にあるのが好きだし、高級なトイレットペーパーだと逆に気を使ってしまうので、いつものあれでいいのだと思える私は貧乏性としかいいようがないのが情けない。
貧乏性だけで済めばまだいいのだが、”貧乏暇なし”精神もやたらと子供の事から執着しているようなので、2014年も撮影とブログの更新に追われる生活が続きそうだ。
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