冠婚葬祭

夢と断念と挫折とコリー

 

 
 

Sydney Creative Photography

♦夢と断念と挫折とコリー♦

 

私は幼い頃から動物が好きな子供であった。

 

本来ならば、ラベンダーの咲く庭でコリーのような大型犬と戯れたりする事が私の幼い頃の夢だったが、田舎の市営住宅で育った私には、それが遠い夢である事は3歳の私でも理解していたと思う。

 

などと言いながらも、あきらめの悪い私は、“じゃ、柴犬でもいいから買ってー!”と、3歳なりに家庭環境を考慮し、ダウングレード作戦を試みてみた。

しかしながら、そんな私の考慮は実らず、あっさりと夢は破れかけたが、"じゃ、ミニ柴でもいいからぁー“と、更にダウングレードを申し出たが、それでも願いは叶わなかった。

 

きっと人はこうして、“断念”する事を学び、“挫折“を経験するのだ。

ちなみにこれが"家庭環境のせい“という事情に後ほど気づく事となり、がっかりさせられたのは言うまでも無い。 人生は”酷な旅“と言えよう。

 

よって私は、コリーの代わりと言ってはなんだが、近所のどぶ川で拾った泥亀を洗面器にいれて飼育していた。 

 

こうして人は“現実“に直面し、時に”ファンタジーあふれるハリウッド映画“を鑑賞しては”約2時間の現実逃避“を満悦するのかもしれない。

 

ちなみに私は、こうして幼い頃から“断念”する事を何度も経験させて頂いたので、後の小学校の通信簿には、“あきらめが早いようです”との先生からのコメントを頂いた。

"担任の山口先生もなかなかやるな“と尊敬のまなざしで見ていたのもこの頃だ。 

 

 

話は脱線したが、もし私がお金持ちのアメリカの子供だったとしたら、仕方ない子猫ちゃんねぇ、良い子にしていたからパパとママからのプレゼントだよ。”などと言って、スティーブンセガール似のパパと、メグライアン似のママが、生まれたてのコリーの子犬をそっと差し出したりするのだろうか。

そして私も"パパもママもだーーい好きぃーー!“などと流暢な英語を話し、キラキラした青い瞳を光らせてハグをしたりするのだろうが、そうは上手くいかないのが現実というものだ。

 

幸か不幸か、私の家はお金持ちでもアメリカでもなければ、セガールやライアン似のパパとママもいない。 どちらかと言えば、焦がした焼き芋とお好み焼きに似た両親が、イナゴだらけの田んぼに囲まれた市営住宅で、うんともすんとも言わない泥亀の甲羅を歯ブラシでゴシゴシしていたというのが実際のところだ。

 

ちなみに当時の泥亀の食事は給食の残りのパンのみみだったと思う。

どうやら“酷な人生”は人だけでは無いようである。不幸にも私に拾われた泥亀は、

“ちぇっ、洗面器でパンのみみかよぉ・・・”と感じていたに違いない。

 

今の私はどうかというと、未だにコリーとたわむれる夢は達成していないが、30歳も半ばを向かえて、今更お庭でコリーとたわむれたりしていると、通行人やご近所さんが心配するといけないのでやめておこうと思うし、今はそれほどコリーに興味も無くなった。

 

断念する事は悲しくて、挫折する事は悔しいが、“興味が無くなった“という気持ちは真っ白であり、新しい夢への始まりかもしれない。

 

こうして私のコリーへの思いは遠い昔の憧れとなり、担任の山口先生の声がどんよりとシドニーの秋空に広がった気がした。

 

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