マルチなあなたへ
私が”重曹”の存在を知ったのはつい最近の事である。
元々どういう経緯で重曹の存在を知ったかと言うと、先日歯を磨いていると、歯に茶渋がびっしりついていたので、
“茶渋のとり方”をネット検索したところ、“重曹“が出てきた、とただそれだけの事である。
“どうして今まで重曹という名前さえ聞いた事が無かったのですか?“と、もし誰かに尋問されたとしたら、“重曹と私は全く縁の無い遠い関係だからです。それはオーストラリア人とわらび餅と同じ位遠いです”と証言したかもしれない。
ちなみに‘重曹’の漢字だけを見てみると、ヘビー級のドラム缶か江戸時代の洗濯機あたりを想像してしまいそうだが、英語に直すとBaking SodaとかCarb Sodaと言うらしく、日本語に直訳すると焼きサイダー、炭水化物サイダーとなるので、重曹は私を困惑させた。
そんな妄想に陥った私は、“魔法のジュースを発見した!!新種の三ツ矢サイダーかも知れない!“と、
友人のS子に緊急の電話を入れたところ、”あれって粉状じゃなかったっけ?”と言われたので、私はますます困惑した。
こうなったら重曹が固形なのか液体なのか、下手したら生き物なのかもしれないと、私の中の妄想はどんどん膨らんでいった。
私はその後、重曹が茶渋を取るだけでなく、お料理で活躍したり、洗顔や入浴剤、キッチン周りや臭い消し、そして洗剤などとしても使える事を発見し、マルチタレントな存在であることを知った。 消費者グッズのたけしといったところだ。
そんなマルチな重曹が今すぐ欲しくなった私は、いてもたっても居られなくなり、近くのスーパーに駆け込んだ。
家庭用品でもあり、美容商品でもあるマルチな重曹は、ケーキを作る材料のセクションの一番下に何となく陳列されていて、地味なパッケージにはホコリが被っていた上に、たったの2ドルで売られていたので、ちょっと拍子抜けした。
もし私が重曹だったら、“なんだよー?うるっせーなーっ!”とグレてしまいそうな心境だし、私が重曹の母親だとしたら、“やれば出来る子なんですけどねぇ・・・。でもなかなか認めてもらえなくて・・・。”と言って、涙ぐむだろう。 深刻な母の悩みだ。
それでも私は重曹のマルチパワーに魅せられ、流し台のパイプに流し込んでみたり、お掃除に使ってみたり、お風呂に入れてみたり、お料理でお肉を柔らかくしてみたりと、自宅に居る時は重曹を片手にウロウロするようになった。
そんな重曹が、近い将来大型スーパーマーケットで定番の売れ筋ヒット商品となり、いつの日か大きな脚光を浴びる日が来たとしたら、私は重曹の父の気持ちとなって、さかずきを一杯あげてやりたいなぁと思う。
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