ガラガラ声への憧れ
私は小学校5年生の頃、ガラガラ声の大人にあこがれていた。
一番最初にガラガラ声の人に出会ったのは、当時大ヒット曲“ダンシング・オールナイト”のボーカリスト
もんたよしのりさんだ。
“出会った”と言っても、私が一方的にもんたさんをテレビで拝見しただけなのだが、
首筋に血管をむき出しにして、ガラガラ声で熱唱するあの姿を見て以来、
“大人になったらガラガラ声になりたい”と切望するようになった。
丁度その頃から、“ガラガラ声”をハスキーボイスと呼ぶ事も覚え、
“そう言えばハスキー犬って柴犬よりもガラガラ声かもな”、と勝手に名前の由来まで妄想していたものだ。
そんなもんたさんの人気に陰りが出てきた頃、私は近所の中学校に入学し、
80年代の人気ロックバンド・ハウンドドッグの大友康平さんの大ファンになった。
当時は大ヒット曲のFF(フォルティシモ)がカップヌードルのコマーシャルに起用されていて、
宿題をしていた時も、用を足していた時までも、“愛がぁー、すべてぇさぁー!♪♪”のメロディーが流れては、“あーっ!大友康平だー!”と右手にこぶしをつくり、ガラガラ声の真似をし始めるようになった。
こうして幼少期において2度もハスキーボイスに心を奪われた私なのだが、
変声期を終えた後も私の声がガラガラ声で無いことに気付き、このままではいけないと、
中学二年生頃になった私は自宅でガラガラ声推進運動を行う事を決心した。
ちなみにどんな運動を行ったかというと、“ガラガラ声を作るには辛いものを食べればいい”
と誰かが言っていたので、私はそれを鵜呑みにし、当時毎日カラムーチョを一袋食べる事に没頭していた。
ほんとうは辛子明太子とか激辛キムチあたりがもっと効果がありそうな気がしていたが、
中学生の私に辛子明太子は高価すぎたし、スーパーでキムチを買うのは渋すぎたというのが理由で、
100円のカラムーチョは妥当な選択だったといえよう。
“辛ければ辛い方が効果があるらしい“とこれまた誰かさんに聞いた私は、カラムーチョに七味を振りかけたり、冷蔵庫にあったタバスコをかけては、”ヒィーーッ!と悲鳴を上げ、先の見えない中学生活を送っていた。
そんな地味な運動も、私が高校生になった頃にはすっかりあきらめがついたのだが、
丁度その頃“カラオケボックス”が流行りだし、毎日のようにカラオケボックスに通った懲りない私は、
“歌い過ぎてハスキーボイス”を願ってみたのだが、これまた見事に失敗した。
こうして私のガラガラ声は夢のまま終わり、今となっては、“ガラガラ声ってのも当時の流行だったのかもなぁー、あぁ、よかった普通の声で・・。“
松子デラックスをテレビで見る度、そう思うこの頃である。
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