Y子
31歳。ものごとをあんまり深く考えていないのでストレスは少ない。自分の身に危険が迫ると恐怖のあまり脳がヒートしてしまい、笑い出してしまうクセがある。以前バンジージャンプをした時、飛び降りた瞬間からケラケラ笑っていた。お化け屋敷でも笑い出すので、お化けにビックリされてしまう。19歳でメイクアップアーティストに憧れて専門門学校へ。その後ファッションショーなどの現場で働くが、給料が安すぎて、家の電気、ガス、水道を止められる。それでもコンビニのトイレや銭湯に通いながら粘り強く続けるが、毎日ツナ缶だけで生活していたため、体重が40kgを切ってしまい最後は栄養失調で倒れてしまうという経験を持つ。彼氏ができると何よりも優先してしまうため友達はほぼいないという残念なタイプ。現在セカンドWHでシドニー滞在中。
心細い状況でも満月はキレイだな~
大魔人がドスのきいた低い声で『行くぞ、着いてこい』と言って私を車に乗せた。受付の女性は『さよなら~』などと言いながら笑顔で手を振っている。ちょっと、助けてくれないの? もう6時間も待っていたので、あたりはすでに暗くなっている。私は怖くなった。二人っきりでどこへ?! 売られるのか? どっかに日本人女性を買う客がいてそこに連れて行くつもりなのか? こんな寂れた町で奴隷として生きていくのか…。やっぱりこのオッサンは海賊の一味なんだ。そんなことを考えながら、運転している大魔人を横目でチラチラと見ていると、ギロッとした鋭い目でにらまれてしまった。蛇ににらまれた蛙だ。おそらく車は5分ほど走っただけだったが私には1時間くらいに思えた。目的地に着くとあたりは暗闇に包まれていたが、何やらそこは小屋がたくさん集まった場所だった。ハハ~ン、ここがアジトか。大魔人は明かりのついた小屋の一つに入っていった。それからどっかのオッサンと話をつけたらしく、戻ってくるなり『ついて来い』と言った。もう従うしかない…、信じた私がバカだった。先にファームに来ていたA子もきっとここで売られる日を待っているのだ。だから電話した時もハッキリ教えてくれなかったんだ。あの時に気がつけばよかった…。もう仕方がないと諦めた。が、大魔人は『今日はここで寝ろ、また明日迎えにくる』そう言い残し去っていった。今日のところは何とか助かったみたいだ。私は自分の荷物をかかえ、小屋のなかに恐る恐る入って行くと、ベッドがポツンと置いてあった。ベッドはホコリだらけで叩くといろんなものが出てきそうだ。ひどく疲れていたので逃げ出す元気もなくなり、とりあえずベッドに座った。窓からキレイな月が見えたのでウットリ眺めていたらジブリの『魔女の宅急便』を思い出した。主人公であるキキは一人前の魔女になる修行のため、ひとり見知らぬ町にやってきた。パン屋の一室を借りるが、これからこの町でやっていけるのかと不安な気持ちを抱きながら、ホコリまみれのベッドで初日の夜を過ごす。私もキキのようにベッドのホコリを叩けるホウキがあったらよかったのに…。話し相手になってくれる猫のジジがいたらよかったのに…。そんな現実逃避をしていた。そしてこれからどうなるのかしら…、という不安な気持ちとはウラハラに数秒後には、深い深い眠りについていた。
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