2024年日本人会ゴルフ部10月度例会を開催しました
2024年日本人会ゴルフ部10月度例会リポート 開催日:2024年10月20日(日) 開催場所:Mona Vale Golf Club 参加人数:11…
ひとたび話を始めると、インタビュー取材でさえも瞬く間に「お笑い」に変化。コテコテの関西弁と巧みな話術で繰り広げられる「笑子ワールド」の渦に惹きこまれ、耳を傾けずにはいられない。
35歳でいきなり落語の世界に飛び込むや否や、ロンドンで落語の修行を積み、今や落語家として各種メディアに引っ張りだこの笑福亭笑子(しょうふくてい しょうこ)さん。人気テレビプログラムの「オーストラリアズ・ゴット・タレント」で準決勝まで勝ち進んだことも記憶に新しい。
腹話術落語、パペット落語、スタンダップ落語、従来の伝統的な落語とは一味違った独創的なスタイルを武器に、異国の地で新しいことに挑戦することを恐れず、芸の道をまっすぐ進み続けるその原動力はなんなのだろうか。
「笑い」を一心に愛する日本人として、女性として、そして芸人としての確固たる信念に迫る。
神戸生まれ、神戸の港町育ちです。子どもの時は、友達と遊ぶよりも、アコーディオン、竹馬、フラフープを練習するとか、1人で何かするのが好きで。あとは、年に1回の親戚の集まりで、「今年披露するネタは何にしよ?」って、マジック屋さん行って悩んだり(笑)。とにかく人を喜ばすのが大好きでした。今思えば、子どもの時からそういう資質があったのかなって思います。
短大を卒業してからは警察に3年間務め、腹話術で交通安全指導をしていました。楽しかったんですけど、そこは独特な狭い世界。「もっと広い世界を見てみたい」と思った時に、仕事を辞めて、英語を勉強するためにカナダで1年間のワーホリ生活をしようと決めました。
カナダでは、「英語うまくなるために来たのに、ここで日本人と戯れてたらあかん」と思って、日本人がいない環境で働いてばかりいたのですが、寂しさからホームシックになったんです。そんな時は、よく英語ラジオの悩み相談コーナーを聞いて、「この人も頑張っているから私も頑張ろう」って支えになりました。
もともとラジオのアナウンサーになりたかったのもあって、日本に帰国してからは、アナウンススクールに1年間通いました。フリートークやら原稿読みやら、とにかくいっぱい勉強して。そうやってるときにせっかく英語も勉強したんやし、海外でラジオをやりたいなって思っていまして。
アナウンススクール卒業後、関西のラジオ局でレギュラー番組も何本か持っていましたが、その時に所属していた事務所の社長に「シンガポールでラジオ局が開局するらしいから、オーディション受けてみたら?」って言われて。日本の仕事を辞めて、単身でシンガポールに渡り、29歳からの5年半はシンガポールで活動しました。
あまり自分が年齢を気にするタイプではなく、なんかいつも新しいことに挑戦したいっていうのがあって、すごくワクワクしていたんですけど、朝の6時から夜の12時まで働いていて、もうそれはそれは大変でしたね。
日本でラジオをしていた時には、ディレクターさんたちがいてくれたおかげで、自分はしゃべるだけでよかったんですけど、シンガポールではアナウンサーやのに、音楽を自分で流したり、マイクを調節したり、全部一人でやらなきゃいけない。勉強にもなったんですけど、レギュラーを週に5本持ってたので、寝る間がなくて。
でもこの仕事がきっかけで、後に芸人を目指すことになったんです。
今の私の師匠、笑福亭鶴笑(しょうふくてい かくしょう)*が自分の番組に来てくれはって、その時に師匠のパペット落語を初めて観て。「うわー、なんやコレ!」って、それはもう衝撃でした。
落語がもともと好きやったわけではないんですが、落語の概念を変えて、人形を使ってやっているところに惹かれたんですね。しかも、英語を使って子どもからお年寄りまで、目の前で人を笑わせてはる。ラジオも楽しいですが、目の前に人がいるわけではないから、こんなふうに生で感じるものを私もやりたいと思って。
当時すでに35歳。でも、私はこれを一生かけてやるんやと決心し、アパートを引き払い、恋人と別れ、仕事も辞めました。そこまでやって、師匠に弟子入りをお願いしたら、「歳も歳やし、結婚した方が幸せなんじゃないか? 落語家の世界はそんな甘くないで」って、断られました(笑)。
でも……、どーーしてもやりたかったので、師匠が活動拠点をロンドンに移すというのを聞きつけ、先回りして空港で待ち伏せしたんです。旅行会社のおばちゃんみたいに、マジックで「Welcome to London」って書いたボードを持って。そこまでされたら、師匠も断わりきれへんやろって(笑)。
*兵庫県出身の上方の落語家。2000年より海外へ移住、パペット落語を中心に現地の言葉で落語を演じ、海外での落語・日本文化の普及に努める。シンガポールを経てロンドンを拠点に活動していたが、2008年より日本を拠点に活動中。出囃子は『ハリスの旋風』。
芸人としてのキャリアはロンドンでスタートしたのですが、初舞台はフィリピンでの芸術祭でした。弟子として同行させてもらったんですが、師匠の前座でネタをさせてもらうことになって。MCもラジオもしてたので、人前で話すことは慣れていたんですけど、海外で、英語で、しかも芸となると、すべてが初めてづくしのなか、会場は1,000人は入るであろう大きなホール。
師匠からは「初めてやと思ったらあかん。ベテランで1,000回やってる感じの度胸で行け」って言われましたね。結果的に、フィリピンの人はノリがよく、最後にはスタンディングオベーションまで起こったので、売れるかも! 自分はおもしろいかも!ってその時に勘違い(笑)。その状態でロンドンに戻ってくるわけです。
ロンドンはフィリピンとは逆に、とにかく厳しかった。まずネタを披露するところがなくて、ストリートから始めました。ちょっと覚えた小話をロンドンの曇ったテムズ川沿いで披露しましたが、小話でもオチを聞く前に去ってしまう。たまにお金を入れてくれるけど、それは一人でブツブツものをいってるヤバイ奴がいるな……っていう同情の目線から(笑)。
オープンマイクのスタンダップコメディのショーに出演し出した頃にも大変な思いをしました。当時の出演者は白人男性が主流で、歌ったり、道具を使うこともタブーとされている時代。そんな中、アジア人女性の私が大きな鞄を持って登場すると、それだけでブーイングが飛び、舞台から降ろされるんです。
フィリピンでのスタンディングオーベーションは何だったんだ、この差はなんなんだって。でも、簡単だとつい甘えてしまう。だからこそ修業になるんだと言い聞かせて。悔し泣きもいっぱいしたし、キツイ毎日でしたけど、次はもっといっぱい面白いネタを作るぞって。ロンドンでの修行中、たくさん間違えて、たくさんのことを見直したおかげで、今の自分があるんやなって思います。
ロンドンでの4年間の活動の後に日本に戻りました。日本では、裏方のお手伝いのことを覚えないといけなかったり、先輩方への接し方や先繰り機転が大事だったり、落語家として、弟子として、勉強することだらけの毎日でした。
朝から晩まで落語漬けで、基礎もいちから勉強させてもらいました。古典落語には、笑いのヒントが散りばめられていて、そこからたくさんのヒントを得られるんですね。それをスタンダップコメディにしてみたりと、そこから自分のオリジナルの芸が生まれたりするので、新しいことをするにも基礎は大事ですし、一生勉強ですね。
ネタ作りの方法としては、私は自分の経験をコメディにしていることが多いんですよ。例えば、バレンタインデーで好きな子にチョコを渡したら投げ捨てられたとか、彼そっくりの人形を作ってたら、もっと怖がられたとか(笑)。
でも、その経験があるから人形作りがうまくなったし、孤独なときに人形としゃべっていたことも、腹話術につながっています。辛い経験もネタにすることで、笑いに変えていける。人生に無駄なんてない、何事も笑いに変えて、たくましく生きるっていうのを、ネタの中で表現しています。
オーストラリアに来たのは、夫の家族がメルボルンで生活していたので、子どもにさみしい思いをさせないため。そして、なんといってもメルボルンには世界的なコメディーフェスティバルもあって、石を投げれば芸人に当たるっていうくらい芸人が多いと聞いていたので。
メルボルンに来てからは、学校公演や劇場、企業公演、イベント公演、少し前まではクルーズ船でのショーもやっていました。人気オーディション番組の「オーストラリアズ・ゴット・タレント」への出場もとてもいい経験になりました。惜しくも準決勝で敗退となりましたが、その時の映像を見て、オファーをもらえることも多いので、挑戦してよかったかなと。
今振り返れば、落語家で海外で修業した人って私だけだと思うんです。海外を拠点にして、海外の人に向けて落語家をしてきたからこそ、日本でやっていたときよりも、外国であるオーストラリアに来た今、修行したことが一番活かされているのかもしれません。
落語とコメディー、日本と海外ではしきたりに違いがあります。海外では客イジリをするのが一つのテクニックとされていて、本ネタに入る前にアドリブでお客さんをイジることがあります。でも、それは日本では御法度。自分のショーではいいけど、他の人と共演するときはやらないようにと師匠に言われていました。
日本語と英語で言葉の構造が違うので、同じストーリーを話す時にも、構成を変える必要があります。もちろん好みも違うので、半分が英語・日本語のどっちにも受けるネタ、そこから英語用のネタ、日本語用のネタと分けて作るようにしています。
それから、政治、差別、宗教に関する内容は使わない、人のことを傷つけないことを、自分の信条としています。コメディクラブでのステージやスタンダップコメディだと何でもありなので、下ネタや汚い言葉を使うと、それだけでも笑いは取れるのですが、今では、使わないことを自分のポリシーにしています。それを、外国ではクリーンコメディーと言います。
ロンドンで師匠と子ども病院に招待していただき、何度か公演をさせてもらった際、「痛い、痛い」と泣きながら寝ていた子どもたちが、ネタが始まると起き上がって、こちらを見て笑ってくれたことがあって。その時に、笑いってすごい力があるんだなって思ったのが印象に残っていました。
そこから少し時間は空きましたが、メルボルンでもチルドレンキャンサーファンデーションからの派遣で、小児癌患者の子どもたちの前でネタをやらせてもらえる機会をいただけるようになりました。癌の進行が進んでいて、自分で身動きがとれないような重篤な子どももいます。昔の私なら、病気で苦しんでいる姿を見て、「子どもは何も悪くないのに、なんでや」って、泣いてしまったかもしれません。
でも、私がその子たちを見て悲しんでいたら意味がない。自分のやり方で患者さんとつながって、「私は、笑かしに来たんや!」と強い気持ちで臨むようになりました。
大きな舞台で何千人を笑わすのも嬉しいですが、病気の子一人が笑ってくれるのが心にきますね。彼らが病気を寄せたわけじゃないですから、余計にちょっとでも笑ってもらって、元気になってもらったらなと。笑いの力って本当にすごいんです。
常に万全の体制でパフォーマンスができるように準備はしますが、それでも調子がいい時、調子が悪い時があって。調子がいい時には、舞台の大きさに関係なく、お客さんの呼吸が聴こえてくるんですよね。リズムを合わせて、呼吸を聴く。それができれば、自分のイメージ通りのところで笑いが起こる。そういった瞬間を味わうと、もう辞められない。
今後は、テレビや映画などの映像メディアの仕事にも挑戦していきたいと思っています。もちろん、落語家やコメディアンとして自分の芸を披露していきたいし、女優として映画やドラマへの出演、その他にも自分でシナリオを書いて、番組制作をやってみたいなと。
スタンダップコメディアンの中には、売れるまでの経験をネタにしたコメディドラマを作っている人がいますが、日本人の落語家が海外で修業して、ひどい目にあったっていうのも面白いじゃないですか(笑)。
今すぐってわけではないし、簡単に叶うとは思いませんが、師匠に「小さくまとまるな。夢を大きく」って言われてたんで。世界中でどんなフィールドでも活躍できるようになりたい。
でも、あんまり時間かけたらお婆ちゃんになってしまうし、早よせなアカン。まあ……、それはそれで、面白いかもしれないですね(笑)。
オーストラリアで活動する落語家。シンガポールでラジオアナウンサーとして活動中に、笑福亭鶴笑氏のパペット落語に衝撃を受け、35歳にして落語家の道へ進む。4年間に及ぶロンドンでの修行の後は日本に帰国、上方落語の聖地大阪に移住し、天満天神繁昌亭で落語家としての下積みをする。現在はメルボルンを拠点に腹話術落語、スタンダップ落語、古典落語をテレビ、ラジオ、フェスティバル、講演会などで披露し、独創的な「笑子ワールド」で世界中の人々を魅了する。
公式ページ:https://www.showkocomedy.com
7月17日(火)から28日(土)の2週間にわたってシドニーで開催される人気イベント「ボンダイフィースト2018(Bondi Feast 2018)」に、落語家の笑福亭笑子氏がやってくる。
笑福亭笑子氏が登場するのは、7月26日(木)のステージ。先日、開催された世界三大コメディフェスティバルのひとつ「メルボルン・コメディフェスティバル2018」にて、ヘラルドサン紙から星4.5を獲得した「SHOWKO:Absolutely Normal」を披露する予定だ。
さまざまなメディアにも登場し、世界を股にかけて活動する笑福亭笑子氏のネタをシドニーで見れるのはこの日限り。一般的なスタンドアップコメディや落語とは、ひと味もふた味も違う、抱腹絶倒のオンステージは見逃せない。
イベント詳細はこちら↓
https://www.jams.tv/event/109374
取材:德田 直大
文:松井 美樹
連載『Talk Lounge』の過去記事一覧はこちら
>>https://www.jams.tv/author/jams_talk_loungeをクリック
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