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得意の分析力でバスケに貢献!アシスタントコーチ/前田健滋朗

オーストラリアのナショナル・バスケットボール・リーグ(National Basketball League)の強豪、メルボルン・ユナイテッド(Melbourne United)に所属する唯一の日本人で、アシスタントコーチを務める前田健滋朗さん。

数字や映像を駆使する高い分析力を買われ、大学院卒業後3年間は、日本のプロバスケチーム「アルバルク東京」のスカウティングコーチとして活躍。チームの日本一に貢献した。彼が次の活躍のステージとして選んだ場所は、オーストラリア・メルボルン。

日本とは異なる環境でも、常に新しいアイディアを吸収し、挑戦することを恐れずにひたすら前に進み続けた。そのバイタリティーが功を奏して、日本人としては異例のアシスタントコーチのポジションを勝ち取る。

メルボルンで独自の道を歩む前田さんに、オーストラリアのバスケットボール事情やコーチングについて語ってもらった。

自己紹介をお願いします。

前田健滋朗と申します。大阪府出身で、東京の大学に進学しました。

大学生の時はバスケットボール選手としてプレーしていましたが、大学3年生のころから卒業後の進路を考えはじめたときに、ずっと現役で活躍していくのに限界を感じていたんですよね……。

バスケのコーチになりたいと考えたときに、コーチングを科学的に勉強できるところで知識を吸収したいと思い、大学院に進学を決めました。

大学院では、スポーツ科学、主に「コーチング」を勉強していました。選手のプレー内容に関する統計数値の研究をしていて、「バスケットの分析」についての修士論文を書きました。

どのようにコーチとしてのキャリアをスタートさせましたか?

大学を卒業してバスケの選手を引退したすぐ後に、幸運なことに高校生のバスケコーチとして働かせてもらいました。

高校生のコーチを担当していた時に、「アルバルク東京」というプロバスケットボールチームの監督が指導者用の講習会を開いていて、参加させてもらったんです。その講習会がきっかけで監督と繋がって、「練習を見学できませんか?」とダメ元でお願いしたんですよね。

監督も僕のお願いを快く引き受けてくれたので、何度も練習を見学しに行きました。見学を続けているうちに向こうから「うちでインターンをしないか?」とお話をいただき、大学院の2年目からはアルバルク東京でインターンとして活動させてもらうようになったんです。

インターンでの活躍が認められて、大学院の卒業と同時にアルバルク東京のスカウティングコーチに就任しました。

アルバルク東京で務めていたスカウティングコーチの役割について教えてください。

スカウティングコーチっていうのは、基本的には対戦相手の分析をする人。対戦相手はどういう特徴があるのかをレポートにまとめて、選手一人ひとりの特徴がわかるビデオを作るというのが主な役割です。

「スタッツ」を使って、客観的に分析することもしています。スタッツは、バスケの試合で誰が点を決めたとか、チームでどれくらいの確率でシュートを決めたなどを示す数字のことです。

「次の試合相手はこういうチームですよ」とか「こうやったら自分たちが勝つ可能性が高くなりますよ」というように、チームに提案することもあります。

大学院時代にスタッツを分析する研究をしていたので、スカウティングコーチは自分の強みを活かせるポジションだったと思います。チームにも仕事ぶりが認められたので、アルバルク東京には4シーズン関わらせてもらいました。

オーストラリアに来ようと思ったきっかけは?

オーストラリアに来ようと思ったきっかけは、二つあります。一つは、2016年のときに「アンダーカテゴリ」と呼ばれる17歳以下の世界選手権で、オーストラリアの女子チームの試合を観て心を掴まれたこと。

チーム全員がすごくいいプレーをしていて、すごく組織的だったんです。「なんでこういうバスケットができるんだろう?」と、興味を持ちました。

その試合を観てからは、現地に行って間近で観てみたいと強く思うようになり、同じ年にオーストラリアに5日間ほどバスケの試合を観に行きました。

もう一つは、コーチとして「海外でいつか勉強したい」という気持ちが昔からずっとあって。他の国に行こうかとも考えたんですけど、オーストラリアのバスケスタイルに魅力を感じた部分が強かったので、学びの場としてオーストラリアを選びました。

メルボルン・ユナイテッドの監督に直談判して、チームに所属したんですね。

日本で知り合いのコーチが、メルボルン・ユナイテッドの監督と知り合いだったので、オーストラリアに行く前に紹介してもらったんです。メルボルンに滞在したときに、練習を見学させてもらったのが始まりです。

アルバルク東京のときと同じように、何度かオーストラリアに来て練習を見学させてもらいました。

今回オーストラリアに来る前に「チームに関わらせてもらいたい」とう想いを直接監督に伝えたんです。幸運なことに、快く受け入れてもらえて。監督が挑戦のチャンスを与えてくれたから、今こうやってアシスタントコーチとして活動できているんです。

選手にはどのようにしてコーチングをしていますか?

僕が言葉で説明しても伝わらないので、個人で練習する場面だったら一緒に動くようにして、選手が理解できるように教え方を工夫しています。たとえば技術練習だったら、自分がディフェンス役になって、練習になるように自然に選手を誘導していますね。

選手の映像を使って、「この場面ではこのような動きのほうがいい」というフィードバックもしますし、「この場面ではどのような選択をすればいいですか?」と選手に聞いて答えてもらうようにもしています。

プロの選手なので、僕の方から「こうしなさい、ああしなさい」という指導はあまりしませんが、一緒に動画を見て振り返る時間を作るようにしています。

日本だとこれまで「こうするんだよ、ああするんだよ」と、指示をするコーチング方法が主だったんですけど、オーストラリアでは「どう思った?」と聞き、選手から意見を引き出すコーチング方法を学べたことが、オーストラリアに来て一番の収穫でしたね。

日本とオーストラリアのバスケの違いはありますか?

コーチングの話でいえば、コーチが選手に意見を聞いて話をするという点は、日本のコーチングスタイルと大きく異なっていました。

もちろん体の大きさや強さとか、技術面でも異なるんですけど、コミュニケーションを積極的にとるところが、一番の大きな違いなのかなと。

試合時の演出やファンの盛り上がり方の話だと、メルボルン・ユナイテッドのチームは、コートで試合をするときに演出で炎をだしたり、チアがいたりと、日本に比べると派手ですね。

コートサイドでお酒を飲みながら応援しているオーストラリアのファンは、応援しているチームがシュートを決めたときには「わぁーー!」と会場に歓声が響き渡るくらい喜んだり、相手チームに対してはブーイングをしたりと、日本のファンよりも熱くなってますね(笑)。

コーチとして働く上で直面した困難と、それをどう乗り越えたのか教えてください。

ほとんど英語が話せないので、語学面では困ってましたね。他は、苦労していることはあまりありません。

オーストラリアに来てから、自分が変わった部分もあるかもしれないです。オージーたちって、陽気だし常に笑ってるじゃないですか。自分がポジティブな状態でいることで、周りの人にもポジティブな影響を与えられるかなと思いますね。オージーたちのポジティブさから学んだことは多かったです。

英語が話せない分、自分の強みでカバーできるようなコーチングや練習方法を取り入れていましたね。自分たちのチームのビデオを作成してそれをコーチたちに共有したり、映像を使って戦術のアイデアとかを共有したりとか。

これらは全て日本でスカウティングコーチとしてやっていたことです。日本での経験がここで活きたと思っています。

アシスタントコーチとして活動する中で印象的だったエピソードはありますか?

一つ印象深い出来事があって、監督が僕にバスケットの戦術面でアイデアがほしいと言ってくれたときに、何個かアイデアを用意したんですね。

その案を監督がすごく気に入って、自分が提案したアイデアがチームの戦術として採用されたんです。そのときに、監督が「このアイデアはケニー(前田さんのニックネーム)が提案してくれたアイデアだから」とみんなに言ってくれて。しかも、僕が案を出した戦術の名前が「ケニー」という自分の名前になって。とても嬉しかったです!

一人ひとりのいいところを見るというのがオーストラリアのスタイル。日本だと日本語が話せないと「この人は役立たず」と言われるところが、オーストラリアだと英語が話せなくても、「こういうアイデアを出してくれた」とか「こういうことができる」という、その人の強みや個性を見てくれます。

コーチが選手をみるときも、選手がコーチをみるときもいい部分を評価してくれる。これから、日本でコーチとして活動するときにオーストラリアで学んだコーチングスタイルを活かしていきたいと思います。

今後の目標を教えてください

メルボルン・ユナイテッドの監督も選手たちも、すごく僕に対してリスペクトしてくれるから、今こうやって活動できてるのかなって思います。2年前から、ずっと練習に通っていた僕をチームに受け入れてくれて、とても感謝しています。

オーストラリアでの経験を活かし、日本のプロチームでコーチをするというのが直近の目標ですね。いつになるかはわからないですけど、何年か日本で経験を積んだ後に、監督やヘッドコーチのポジションに就きたいと思っています。

慎重に将来の進路を判断する人も多いと思いますが、「あの時やっていればよかったのに」という後悔はしたくないので、僕は「これはしたい!」と思った時に、なるべく自分がやりたいことを選択するようにしてるんですよ。これからもそのスタンスは変えないつもりです。

もちろんチャンスがあれば、海外にも出たいなと思っています。オーストラリアに限らず、アメリカでも!

 

取材:坂本 奈々子
文:西村 望美

前田健滋朗さん

Facebook:前田健滋朗

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