2024年日本人会ゴルフ部11月度例会を開催しました
2024年日本人会ゴルフ部11月度例会リポート 開催日:2024年11月17日(日) 開催場所:Bayview Golf Club 参加人数:11名…
シドニーFC・アカデミーのゴールキーパーコーチを務める伊藤瑞希氏のスポーツ対談企画!
プロ・アマチュア問わず、オーストラリアを拠点にスポーツ業界またはスポーツ関連の仕事で活躍している日本人を毎回ゲストに迎え、ホストの伊藤瑞希氏がオーストラリアのスポーツ事情から生活にまつわることまで、さまざまな内容を聞き、ゲストやスポーツの魅力をお届けします。
そして、これをきっかけに「1人でも多くの人にスポーツの楽しさを知ってもらう」「スポーツ観戦をあまりしない人にも興味を持ってもらう」ことを目指しています。
第3回のゲストは、メトロフィジオセラピー、クリニカルディレクターの奥谷匡弘先生。学生時代はサッカーにのめり込んでいた奥谷先生は、大好きなスポーツと関わることができ、オーストラリアで活躍できるチャンスがある「フィジオセラピスト」を目指すことに。
今では、オーストラリア在住の日本人にとって、「フィジオセラピストと言えば奥谷先生!」というほど名が知られています。「フィジオセラピスト」「コーチ」、職種は違えど、スポーツ選手を支える立場として活躍する2人が、スポーツや人生について語ります!
事前に用意した9つの質問カードの中からゲストに5枚選んでもらい、その質問にそって対談を進めていきます。
各トピックに与えられる時間は最大10分間! 質問は、スポーツが好きな人はもちろん、スポーツに詳しくない人にも楽しんでもらえるよう、幅広いジャンルのものを用意!
気になる今回の質問は……。この9つ!
シドニー在住のフィジオセラピーの第一人者。学術的にも臨床的にも高い教育レベルを要求されている「オーストラリア理学療法学会(APA)」に認定された頭痛や腰痛など、筋骨格系のスペシャリスト。その中でも専門は顎関節で、オーストラリア国内のさまざまな場所から何時間もかけて患者さんが来院する。また、頭痛の治療技術も高く評価されている。
▼関連記事 オーストラリアでは身近なフィジオセラピー(理学療法)とは?フィジオの第一人者にJAMSスタッフが聞いてきました♪♪
埼玉県出身。日本大学時代にスポーツ科学を学び、保健体育の教員免許を取得。筑波大学大学院では、サッカー選手の状況判断に関する研究をし、その一方で休学してシンガポールでコーチ経験も積む。
2016年12月より、シドニーFCアカデミー(13-18歳対象)でゴールキーパーコーチとして活躍中。
▼関連記事 シドニーFCアカデミーのゴールキーパーコーチ/伊藤瑞希さん(29歳)
伊藤さん
オーストラリアに来たばかりで辛いことが多かったとき、スポーツに救われた経験があると伺いましたが、その時期に得た財産や今につながっていることなどを教えてください。
奥谷先生
オーストラリアには高校生になるときに単身で来ました。シティーにある全寮制の学校に通っていて、NSW州の田舎の子どもたちが集まっていたので、アジア人は少なかったです。
当時、香港返還直前でアジア人は香港からの人が多かったですね。そんな中で人種差別的なことはたくさんありましたが、サッカーを通して言語を超える文化の交流や友達同士で心が通わせることができ、英語を習うきっかけがたくさんあったというのがとてもありがたかったです。
言語を超えた交流ができるのは音楽やスポーツが一般的だと思いますが、僕の場合は「サッカー」がオーストラリアの社会にぐっと入り込めたきっかけになりました。
伊藤さん
僕も同じような経験があります。オーストラリアに来て初めてコーチになるための面接を受けたとき、英語で自分を売り込めるほどの自信はなかったので、動ける服装で行って実際に自分が子どもたちに指導するところを面接官に見せたんです。
子どもを褒めることを重視していたからか、子どもたちも親たちも練習をとても楽しんでくれて、30分足らずで合格しました(笑)。面接で自分のことを話すだけでは合格できなかったと思います。これが、僕の中で長くプレーしていたスポーツ「サッカー」に救われた経験です。
奥谷先生
スポーツを真剣にやっている方って、本当にストイックに1つのことを極めていく方が多いですよね。スポーツで得た自分の性格というのはスポーツと関係のないところでも生きてくると思うので、スポーツを幼少期からすることは大切ですね!
伊藤さん
「1つのことを極めていく」という話が出ましたが、スポーツ界やビジネス界で成功している人の中では、マルチタスクを上手にこなしている人もいると思います。そういう人にも「1つのことを極める」と、同じことが言えると思いますか?
奥谷先生
1つのことに集中できているから、他のタスクも上手にコントロールできるというか……。両方やるためにはどうしたらいいかについて考え抜くんです。極端な話をしたら1秒も無駄にしない。最後の最後でいかに頑張れるかが肝なんです。
あとは、自分を抜きにして周りの人のことを考えられる人が、ずば抜けて成功すると思います。それがスポーツの経験から学んだことです。
伊藤さん
最初に僕が思うのは、確かに新聞とかメディアとかで表舞台に立たないという意味では裏方だと思いますが、僕たちフィジオセラピストとコーチにとって、果たして「裏方」という言葉が適切なんですかね? 自分がフィジオセラピストでいるというのはどういう意識でされていますか?
奥谷先生
身体にはスポーツをしている人もしていない人も結局同じ生理学的現象が起こるので、その全体を見渡せるのは面白い。そして、薬なしで治療が可能なのはフィジオセラピストだけなんです。たとえば、歩けなくなった患者さんをもう一度歩けるようにするとしたら、1番大事なのは患者さんの治ろうとする意志ですが、それに対して治療できるスキルを持っているのはフィジオセラピストしかいない。
お医者さんがどんな薬を使っても治せないですからね。「フィジオセラピストだけが唯一できること」が分かったとき、情熱が湧いてきます!
もともと助けるというのが仕事の趣旨なので、スポーツ選手に対してならパフォーマンスを上げるためにできることや、痛みを最小限の時間でどう和らげるかを意識して治療を施しています。でも、モチベーションは本人が持っているものだから、「治るぞ!」というモチベーションがあれば8割方は誰が診ても治ると思うんです(笑)。
伊藤さん
それはすごく面白いですね! 僕もコーチをしているので分かりますが、本人のモチベーションってすごく大切。本人に動機や目標、意思そして努力がない限り、絶対に上手くならないと思うんですよ。
奥谷先生
そうですね。僕もたくさんの患者さんを診察しているので、「この人は治るな」という方たちは治療に取り組む姿勢を見ると分かります。リハビリだと「すぐやる・必ずやる・できるまでやる」という三拍子が揃う人は、必ず回復していますね。
スポーツ選手だと、怪我したあとにただ落ち込むのではなく、遺伝的な要因は変えられなくても、それ以外で自分をどう律してリハビリに取り組むか、早く回復してその後のパフォーマンスをどう上げていくか、それをどうやって維持するかについて真摯に考える人が強いです。
伊藤さん
「裏方だからこそ見えること」で言うと、スポーツの場面っていつでも非日常だから、その人が普段見せない一面を間近で見れること、スポーツを通してその人が成長する姿を見れることが楽しくてやめられないですね。
フィジオセラピストとしてスポーツ選手に関わっていてよかったなと思うことはありますか?
奥谷先生
選手がフィールドに立ち続けられるように、ちょっとでもアシストできているというのがとても嬉しいなと思いますね。
伊藤さん
フィジオセラピストとしてスポーツ選手と関わる中で、学ぶことや喜びを感じる瞬間、または難しいことはありますか?
奥谷先生
僕たちがそういう患者さんに会うときは、いつも怪我をしている。だから怪我をして落ち込んでいるときに、言葉でどこまで気持ちを和らげて、怪我の状況を説明するかが大事だと実感しています。事実を事実のまま話してほしいという人もいれば、かなり感情的になってしまう人もいるのでその辺の判断はとても大切ですし、見分けるのはとても難しいです。
たとえ前から知っている患者さんでも、表向きと本当に思っていることは違うので、どこの内容をどう話せばその人にとって1番いいのかを細かく配慮していますね。
伊藤さん
印象に残っている患者さんはいますか? その方がスポーツに関わっているかどうかはあまり気にしなくて大丈夫です!
奥谷先生
人間って一生にキャリアを3〜4回変えると言われていますが、この患者さんは僕がフィジオセラピストをやめようかなと悩んでいたときに出会った方。その方は、ある神経系の難病にかかって歩けなくなったんですね。神経系の難病はなかなか改善が難しいのに、「俺は歩く!」と心に決めて気にせずリハビリをやっていたんです。
私がフィジオを担当して、医者や看護師などもサポートしていたのですが、僕たちの中で「歩けるようにはならないだろう」と見立てていました。でも、患者さんの意志がとても強く、最終的には歩けるようになったんです! 退院するときは歩いて病院を出ていかれたので本当にびっくりしました。
伊藤さん
すごいですね〜! 診断してから歩けるようになるまで、どのくらいかかったんですか?
奥谷先生
3カ月です。
ほとんどの場合は、スキャンに映ったものに基づいて、見立ての通りの治療を進めていくのですが、医学的見地だけで判断したらだめだなと思い知らされましたね。
伊藤さん
はやっ! 勝手に1年くらいかかったんだろうなと思って聞いてました。
奥谷先生
だから、その患者さんのモチベーションは半端ないですよね(笑)。「不屈の精神」というよりも楽天的なんです。リハビリ中は絶対に転んでほしくなかったんですけど、その人は「とりあえずやってみよう!」って感じで転ぶことも恐れずリハビリに取り組んでいました。医師たちは「やめてくれ」と、患者さんをヒヤヒヤしながら見てましたよ(笑)。
人の言うことを聞かなくても「絶対に治す!」と強い気持ちでトレーニングするというのは、アスリートと全く同じですよね。その方から教わることは多かったです。
もう1人印象に残っている患者さんは、肩を痛めてしまったサーファーの方。治るまでサーフィンができなくて、サーフィンをするために日本から来ていたので相当落ち込んでいました。その患者さんの肩が治ったとき、本当に感謝されたという意味で印象に残っています。
伊藤さん
今の話だけ聞くと、普通に治療をしたから感謝されたというように思えますが、それでも奥谷先生の心の中に残っているというのは何か理由があるのですか?
奥谷先生
その方は長い期間お金を貯ためて、サーフィンをするために1年間オーストラリアに来ていたので、その方にとっての「サーフィンができない時間」は本当に苦しい時間だったんです。自分に置き換えて考えたとき、自分が選手だった頃にサッカーができないとしたら相当辛いなと思って……。
伊藤さん
優劣をつけるべきではないとは思いますが、僕も過去に辛い経験をした選手がいたら感情移入しちゃいますね。コーチだからどんな選手にも平等に接するべきですけど、選手にそういうストーリーがあって、一旦決めたことを最後まで貫き通す強い意志が表れていたら、その意志に応えたいなと思います。
今回の対談を通して思うのは、「意志の強い人は人間的にも強い」。しなやかというか、何があっても最終的にゴールに到達しますよね。到達できなかったとしても違う道でうまくいきます。僕はコーチとして、子どもたちをそういう大人になるように育てたいですね。
奥谷先生
自分がサッカーをやっていた頃に世間を沸かせていた「三浦知良選手」が人生に影響を与えた人です。当時は三浦選手がブラジルから帰ってきたばかりで、カズダンスも見れた時期だったから、彼の生き様が私の支えになっていました。
16歳でオーストラリアに1人で来て生活していたので、最初は環境に適応するまでやっぱりいろいろと辛いじゃないですか。
伊藤さん
三浦選手も日本の高校を1年生のときに中退してブラジルに渡航しているから、境遇が奥谷先生と似ていたんですね!
奥谷先生
そうです! だから彼の存在が心の支えになりました。
伊藤さん
よくこういうテーマで話していると、最初に出てくるのは、自分が直接指導されたとか、直接会ったことがある人だと思うんですけど、奥谷先生が三浦選手のことを話されたのはちょっと意外でした。どうやって三浦選手の存在を自分のエネルギーに取り込んでいたんですか?
奥谷先生
三浦選手もブラジルに住み始めた頃は言語や生活環境の違いで大変だったと思いますし、周りがサッカーできる人たちばかりの世界の中でベスト11に選ばれたのはすごい。
フランコ・バレージと衝突して鼻を負傷したり、フランスワールドカップのときに最後の最後で代表選手から外されたりと、あと一歩のところで活躍の場を逃すことが多かったにも関わらず、絶えず先を目指そうとしている姿勢に感銘を受けました。三浦選手には「人を巻き込む魅力」があります。
伊藤さん
他に影響を受けた人はいますか?
奥谷先生
直接影響を受けた人であれば、自分に年齢が近い大学院生時代の同僚ですね。今まで出会ったフィジオセラピストの中で1番鋭いというか、すべてをしっかりと診断できるすごく判断能力の高い人で、尊敬しています。
自分が怪我をしたら、この人に診てもらいたいと思うくらい。自分が選手だったら、どのコーチに指導してほしいかというのと同じような感覚ですね(笑)。
伊藤さん
分かるなぁ~! 専門家だからこそ自分の同業に診てもらうとなると慎重になりますよね。
その同僚の方は、奥谷先生にどのように影響を与えたんですか?
奥谷先生
修士の最後に実技試験が実施されたのですが、その同僚は、そのときグループをサポートしてくれたんですよ。評価をする先生が僕たちを覗き込んで手技や診断の会話を見ていたので、みんな緊張で手が震えていたのですが、彼がリーダーシップを発揮して良い方向に導いてくれました。最終的にはグループメンバーから、MVPに推薦されたくらい本当にすごい人でした。
その人は、勉強だけではなくスポーツでも結果を出していて、トライアスロンで今世界20位くらい。「1つのことに対して取り組み続ける力」が、フィジオセラピストとしての活動にも繋がっているんです。
日本でもビジネス界の本当にトップにいる人たちは、「運動をかなりハードにする」という同じ性質を持っていると思います。1つに対して相当なエネルギーをつぎ込むことができるから、仕事にも打ち込める。やっぱりバランスなんでしょうね。1つに対する情熱が、仕事にも乗り移るんだと思います。
奥谷先生
これはもうシンプルに、「ありがとう」と言ってもらえたときがこの仕事をしていてよかったと思う瞬間です。感謝の言葉をいただいたときに、患者さんの気持ちに寄り添うことができたと感じるのでとても嬉しいですね。
「ありがとう」は、職業柄普段から言われることが多いですが、言葉を発するときの身体の姿勢やジェスチャーで心からそう感じているということは分かります。言葉では表さない部分を読み取ることも、コーチやフィジオセラピストの仕事でもありますよね。それを読み取るのは慣れないと難しいですが、繰り返していると分かるようになります。
伊藤さん
話題からそれるかもしれないのですが、フィジオセラピストって、ただ身体だけを治せばいいわけじゃないと思うんですよ。人対人で成り立つお仕事だと思うので、患者さんとのコミュニケーションが必要になりますよね。コミュニケーションというものは、フィジオセラピストにとって、どういう位置付けですか?
奥谷先生
コミュニケーションがすべてですし、聞き取ることが大切ですね。頻繁にフィジオに通っている患者さんの中には、的確に症状だけを言う人もいますが、それだと周りの肉付けがないから分かりにくかったりするんですよね。
だから、業務連絡みたいに事実だけ言ってもいいんですが、「その背景にある今の精神状態」や「どれくらい心配しているか」などによって、こちらの説明の仕方は変えています。どれくらいのモチベーションを持って怪我に向き合おうと考えているかを推し量らないといけないので、問診をしながら見極めています。
伊藤さん
そういうコミュニケーションがあるから、「ありがとう」が強くなるのかなと思いました。
僕もコーチをしていて「人の人生に寄り添えるコーチ」でありたいという目標があります。寄り添うっていうのは、プロ選手になるためだけにサポートするのではなく、選手たちの人生をサポートするって意味合いです。僕らも家族や仕事、ビザ、プライベートのことなど、たくさん悩みがあるじゃないですか。選手にも悩みがあるんですよ。僕自身、そういう悩みにコーチとして寄り添うのがすごく好きで。
でも、そうとは言っても、いいことばかりではない。コーチをしていてフラストレーションが溜まることもあるし。患者さんでも、このトレーニングをやってきてねって言ってもやらない人もいると思うんですよ。コーチとフィジオセラピストという専門は違うにしても、結局は本人の意志に火をつけられるかどうかが大事だと、話をしながら思いました。
奥谷先生
そうですね。何がその人の意志に火をつけるかって、会話の中で探らないと分からないことが多いので、やっぱりコミュニケーションは大切。内に秘めて極力表に出さないようにしている人もいるし。その人の性格や育ち、バックグラウンドなどいろいろ理由があると思うんですけど。
まだそういう時期じゃないんだな、まだ変わろうとし始めてないんだなというときは、その状態に寄り添うべきですよね。
今回奥谷先生と対談したホストの伊藤瑞希さんからのコメントと、取材に同席した編集スタッフが選ぶ名言を紹介!
奥谷先生に初めてお会いした時から伝わってきたのは、人に対して真っ直ぐに向き合う姿勢。
当然、フィジオセラピストとしてさまざまな方と接し、対話を積み重ねている経験があるとはいえ、こちらの話を体全体で受け止めてくれるような包容力と、質問に対してや自分の意見は明瞭に伝える力強さの両面を感じられる人でした。
職業で共通している部分や、サッカー経験があるという点で共感できることが多かったのもありますが、それ以上に奥谷先生は患者さんと、私は選手と向き合う姿勢に多くの共通点を感じました。
その1つが「本人の意志の力」。フィジオセラピストとして患者さんの治療にあたるとき、最終的に回復と改善が上手くいく人は、本人の意志が強く、目的と目標が明確で、地道に努力のできる人。それは、私がコーチをやっていても感じるものと同じでした。
「大変な場面で、苦しいと思うよりも、これができたら楽しいだろうなと思える人は強い」
トップで活躍するスポーツ選手は他の選手と何が違うかについて話していたときに、奥谷先生から出た言葉。自分を抜きにして考えられる人たちが、ずば抜けて成功する秘訣だとおっしゃっていました。
お2人の仕事やスポーツに対する熱い思いが溢れる対談でした。質問の中には10分間で話しきれなかったものも!
次回もオーストラリアを拠点にスポーツ業界で活躍している方をゲストに迎え、楽しく対談の様子をお伝えします! お楽しみに!
取材・文:久持 涼子
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