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ヴァイオリン・クラリネット・ピアノのクラシック音楽トリオ(ミラベラ・トリオ)

進学、移住に国際結婚。

それぞれに違う目的でオーストラリアに渡った3人の音楽家が、2011年に、なんともユニークなクラシック音楽のトリオを結成した。ヴァイオリン、クラリネット、ピアノの構成で、それも全員が日本人女性。マルチカルチュラルな街、シドニーでも、稀有な存在だ。

音楽家として活躍する一方で、普段は指導者としての顔も持つ3人は、指導者としてももちろん、音楽家としても成長したいと、寝る間も惜しんで二足のわらじを履き続ける。

その根幹にある、クラシック音楽をもっと身近なものにしたいという情熱を胸に、彼女たちは今日も研鑽を重ねる。

 

二足のわらじを履く、3人の音楽家たち

マクリーン英恵さん(以下、マクリーンさん):
普段は、小・中・高校で、クラリネットとサックスを教えています。音楽の先生というか、チューターですね。学校の時間内に、1人30分の個人レッスンをしています。NSWでは、音楽の授業が日本みたいにはなくて、Year 8からは選択になってしまうので、音楽をしたい人は楽器を個人的に習わなければいけないんです。ただしクラリネットの場合は、あんまり体が小さいと指とかが届かないので、一番小さくても小学校3年生くらいからですね。

江口清香さん(以下、江口さん):
私は月曜日から金曜日まで、シドニーの郊外にあるヒルソング・カレッジという学校で教師をしています。音楽も教えているんですが、キリスト教系の学校なので、キリスト教学やリーダーシップ論も教えています。その他に自宅でプライベートレッスンをしています。

西脇佳代子さん(以下、西脇さん):
私は基本的に家でピアノを教えています。学校が終わった時間に家に来てもらう、プライベートチューターですね。それからピアノの伴奏などもしています。難易度の高い曲の場合に、音楽の先生の代わりの奏者として学校で弾いたり。それからコンペティションで公式の伴奏員とかもしています。パンフレットに名前が載っているのを見て、コンクールの伴奏依頼の電話が掛かってきたり。結構それが忙しいですね。小さいお子さんもいますけど、結構高校生や上級者が多く、英恵ちゃんの生徒さんの伴奏もしています(笑)。この地域に引っ越してきたのは2年前くらいなんですけど、近くのローカルスクールの方からのオファーもあります。

 

それぞれの理由でオーストラリアへ

マクリーンさん:
私は、こちらの大学を出ています。最初にブリスベンの英語学校に行って大学へ行きました。2003年からシドニーに移りました。

江口さん
私は、夫が海外で仕事をしたいということで、2003年に主人といっしょに移住目的でシドニーに来ました。今の学校で教え始めたのは2年前です。その前は、英恵ちゃんと似てるんですけど、シドニーのいろんな学校で音楽の講師をしていました。

西脇さん
シドニーに来たのは2006年です。日本の大学を卒業して、1年ポストグラデュエイトをしてからロシアに留学したんですけど、そのときにクラスメイトだった韓国系オーストラリア人の今の旦那さんと出会い、それで一緒に来ちゃったって感じです。留学先だったロシアの学校の系列で、オーストラリアにいらっしゃる先生方にコンタクトを取ったり、旦那さんの紹介でいろいろな先生にお会いしたりして、その先生方が仕事を分けてくれたり。それで今につながった感じです。

 

そしてトリオ結成

西脇さん:
はじめ、私と英恵ちゃんとオーストラリア人のチェロの子でトリオ演奏をやっていたんですけど、チェロの子が時間が作れなくなってしまい、清香さんに声をかけてみたのです。私は当時すでに清香さんの伴奏者としていろいろ弾かせてもらっていたので、ヴァイオリンとクラリネットとピアノの編成で日本人女性のトリオっていうのもいいんじゃないのっていうのでね(笑)。清香さんはこちらのオーケストラにも所属してましたけど、日本人でこういった演奏活動をしている人って珍しいんですよね。

マクリーンさん:
大学にはちらほらいるんですけど、みなさん留学なので、いずれは日本に帰ってしまうため知り合いになっても、トリオ結成とかまではいかないですね。

西脇さん:
なかなか気の合う音楽家っていないんですよね。個人的に気が合っても、いざ演奏したらちょっと違うっていうのもあったり。やっぱりレベルや相性もあるし。

江口さん:
今では自分たちで企画するものと、他の方が呼んでくださるものと合わせて、年に4~5回くらいコンサートをしています。でも、そのコンサートの中でも、いろんな編成を組んでいるんですよ。ソロを入れたり、組み合わせを替えてデュオにしたり、トリオにしたり。意識的にトリオとして企画しようというのがベースになりつつありますね。

 

演奏家であり続けることが、教えることの幅をも広げる

マクリーンさん:
私たちはとにかくずっとティーチングをしてきていて、それもすごく意義があることなんですけど、ミュージシャンとして、自分も成長していきたい。やっぱり音楽っていうのは、ちょっとずつでもいいから、細く長く、ずっとやっていかないと、復帰するのが難しいものなんですよね。

西脇さん:
私は基本的に、自分は先生というよりも、演奏家だとは思ってるんです。「職業はなんですか?」って訊かれたら、チューターじゃなくて、「ピアニストです」って言う。自分がパフォーマンスをしているから人に教えられるものがある、と思うのです。だって、自分が演奏していないときには手放しで褒めちゃうけど、自分がすっごい練習してるときには「そこ違う、そこ違う」って、すっごい辛口になるからね。

江口さん:
やっぱり、先生プラス演奏家の先生って、すごく強いっていうか、もっといろいろなものを幅広く教えることができると思うので、教えることと同時に、自分も演奏家であり続けるっていうことがすごい大切だなーと思いますよね。

 

クラシックをもっと身近に感じられる環境を作っていきたい

江口さん:
自分自身結構パフォーマンスを見て、こうなりたいとか、もっと上を目指したりとか、こういう音楽家になりたいとか思っていました。だから、自分の生徒だったり、来てくれる小さなお子さんや親御さんに、そういうことができたらいいなと思う。こちらだとやっぱりオペラ・ハウスとか、シティ・リサイタル・ホールしかないんですけど、ヨーロッパにもアメリカにも、すごく気軽に行けるコンサートって結構あるんですよね。それも質が高く、ちゃんと準備されているものだったりするので、シドニーでもそういうものを目指したいですよね。子供が聴きに来られて、そこですごくインスパイアされて、音楽をもっと好きになったり、自分でもやってみたり。やっぱり質のいい音楽を地元で聴けたり、着飾って行かなくても聴けるというのは目指したいですね。

マクリーンさん:
確かにみんなクラシックは敷居が高いと思っちゃうところがあって。でも、そうじゃなくて、本当は身近にあるんだよっていうのが伝えられるといいですよね。私と佳代子さんは、まだ小さい子供がいるんですけど、できるだけコンサートにも連れてくるようにしています。迷惑にならないようにはしているんですけど、最初のうちはやっぱり聴き慣れていないから座れないんですよね。でも、ずっと来ているうちに、子供でも最後までじっと聴けるようになってくるんです。それを見ていると、やっぱり励みになりますよね。

私の親もよく、子供の頃にコンサートに連れて行ってくれたんですけど、行く前に「今度のコンサートはこういうプログラムだよ」って、私にCDを聴かせるんです。それを、ずーっと聴き流していると、いざ行ったときに「あっ、このラインわかるー!」って、すごく興味が湧いて、より楽しめる。それで、やっぱり生だから、余計おもしろいっていうのがあって。やっぱり生演奏の前に少しでも聴いていくと、もっと聴きやすいのかな。ポピュラー・ミュージックとか、みんなが好きな曲っていうのは、みんな聴き馴染みのあるような、耳に残る曲なんですよね。だから、好きなんじゃないかな。きっとクラシックも普段から聴いていれば、みんな親近感が湧いて、好きになれるかもしれない。

 

ユニークな編成だからこそ自分たちで音楽を作り上げていく楽しみを追求したい

江口さん:
なんかこの編成って、すごいユニークなんですよ。自分としては木管楽器の方と定期的に演奏するのは初めてなぐらいなんですよね。普通トリオって、ヴァイオリンとチェロとかの編成が一般的で、そういう編成の曲だったらいっぱいあるんですけど、私たちのような編成だと限られてくるし、たぶん、みなさんも聴いたことがないんじゃないかと思うんですよね。だからそういう意味では、こうやって定期的にこの3人で活動をしていくってことは、すごい意義があるっていうか。新しいものを提供していく、発掘していくっていうのが、楽しいですね。

西脇さん:
Youtubeとかで検索しても出てこないような曲とかばっかりだから、録音音源もなくて、「楽譜にはこう書いてあるけど、どうする?」って、自分たちで作り上げていく楽しみがありますね。

マクリーンさん:
今では、私たちの中にも阿吽の呼吸みたいなものがあって、言葉がなくてもお互いのことがわかるようになってきたので、楽しいですよね。

 

3人に共通する「これからも音楽を続けていきたい」という思い

マクリーンさん:
こんなこというのも変なんですけど、今は子育てのことがずーっと頭の中にあって(2歳と4歳の子供がいるんですけど)、もう、とにかくこれを乗り切って、今は細く長く、音楽家として少しでも演奏をしていきたいなと。子供がもうちょっと大きくなったら、もう少し自分の時間もできて、練習もできるんじゃないかなと思います。今はもう、遠い目標に向かっていくというよりも、一日一日を必死に過ごして、次の日もがんばろうっていう感じなんで。でも、そんな今が楽しいです。

江口さん:
私は今までピアノとヴァイオリンの編成で、ソロで弾くことが多かったんですけど、こうやってトリオで定期的に弾いていくと、やっぱり自分の演奏の幅が広がるし、室内楽の演奏者としてもすごく成長できてるって感じる。これからも続けていきたいし、日本人のコミュニティにも、もっと届けていきたいなっていう思いがあります。先日、JAMSさんが宣伝してくださった際に無料チケットへの応募も結構あったので、やっぱり関心のある方はいらっしゃるんだなと、すごく手応えを感じました。もっとそういう方が気軽に来れるコンサートを続けていけたらいいなと思いますね。あと、日本人学校で音楽の教育プログラムをやったりして、小さい子たちに「音楽っていいな」って思ってもらえるように、刺激できたらいいなって思いますね。

西脇さん:
私も英恵ちゃんと同じ年の子供が2人いるんです。家事に育児にティーチングに、寝る間を惜しんで日々の生活を過ごしながら、練習する時間もなくて。でもやっぱり、今は細々とでもいいから、演奏していきたい。子供が大きくなったらもうちょっと時間もできるだろうし、そうしたら、もちろんみなさんとトリオもやりたいんですけども、ソロにも復帰したいなと。ソロのリサイタルをやったのは2008年の1回きりなので。欲をいえば来年の、来豪10周年になにかやりたいなと思うんですけど、たぶん実現しない…(笑)。でも、日本とかでも、できたらいいですね。

 

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