2024年日本人会ゴルフ部10月度例会を開催しました
2024年日本人会ゴルフ部10月度例会リポート 開催日:2024年10月20日(日) 開催場所:Mona Vale Golf Club 参加人数:11…
日本文化とオーストラリアの先住民族文化を、音楽による対話(Musical Dialogue)でつなぐことを目的としたイベント・シリーズ「Echoes」の第1弾、「Harmonies in Japanese and Aboriginal Australian Music」が、Japan Foundation in Sydney(国際交流基金)にて2月9日(木)に開催された。
シドニー大学音楽院の名誉教授であり、日本雅楽の歴史とアボリジニ音楽研究の専門家として有名なAllan Marett氏が司会を務め、アボリジニ民族楽器の演奏から踊りの振り付けまでこなすムルワリの民の血を引くアーチストのMatthew Doyle氏、日本で尺八の修行を積みながら和太鼓グループの一員としても活動し、現在は世界を舞台に活躍する尺八大師範のRiley Lee氏を迎えて、日本音楽とアボリジニ音楽の異文化交流をテーマに深く語り合った。
左から、Allan Marett氏、Matthew Doyle氏、Riley Lee氏
Marett氏の紹介を受けたDoyle氏は、まず自身のルーツである先住民族の土地、Gadigalのムルワリ語であいさつ。
「母から彼女が先住民族であることをカミングアウトされるまで、私は自宅にあったディジュリドゥを掃除機か何かと思いこんでいました。その後、母が生まれた土地の文化や言葉を通してディジュリドゥに興味を持ち、クリスマスのプレゼントとして譲り受けたディジュリドゥを手にして、専門学校などで本格的に奏法を学びはじめたんです」
Doyle氏は2006年にも、和太鼓奏者のパイオニアとして有名な林英哲氏とオーストラリアの太鼓アンサンブルTaikOzのツアーに、Lee氏とともにゲストとして共演しており、日本へのツアー訪問の経験もあると言う。
「本日いらしてくださった皆さんも含め、日本の人々に、私たちの音楽に興味を持ってもらえることは光栄です。ディジュリドゥは世界で最も古い楽器と言われていますが、この楽器の演奏技術だけではなく重要性と意味をよく理解し、そこに根ざす文化と精神を学んでくれることを願います」
尺八もまた、それを育んだ日本人の文化と精神を学ぶことが重要であると、Lee氏は言う。
「そうして尺八の修行をするために日本へ渡ったのが、この私です。なぜなら、私は日本人ではありませんから。しかし日本人の中でも、侍映画や祭りで尺八を知っているだけで演奏する人はそう多くありません。そもそも尺八は中国から渡ってきた楽器ですが、中国の仏教から発展した禅は日本のものであるのと同様に、日本人が演奏する尺八は日本のものとして受け入れられています。
民族楽器を演奏することは、そこに横たわる文化背景やつながり、それらを理解した上で演奏する心構えを学ぶということ。Matthewと合奏することで見えるものは、私たちに共通する自由な音楽の感覚です。私たちの血には、異文化が同居していますから。
時々おかしく思うんです――私の父は中国人、母はアイルランド系イギリス人、そしてアメリカ人の私はオーストラリアで日本の楽器を吹いている。これって完璧だと思いません?」
Lee氏の軽快な語りに、会場は笑いに包まれた。
両氏の話を聞いたMarett氏は、「さまざまな文化に関わることは人間性も豊かにするでしょうね。私としては、何事も”尊重”が土台にあれば、物事は正しく進んでいくように思います。日本人がディジュリドゥの上達が早い理由のひとつも、伝統の尊重と忍耐の感覚ではないでしょうか」と述べる。
異なる民族楽器で合奏することについて、両氏ともにさほど違和感は覚えなかったと答える。その理由としてDoyle氏は、ディジュリドゥと尺八には竹からできていることや息を吹きこむ楽器であるなどの共通点があり、そうした自然のつながりが大いに役立っていると語る。
Lee氏は、Doyle氏との個人的に親しい友人関係であること、常にお互いを聴き合い、即興していける関係にあるため合奏ができると話す。
「私たちの楽器にとって、ピッチはそこまで重要ではありません。民族楽器は調律が必要な西洋楽器よりも自由で、すべてのハーモニーが楽器の中にあります。Matthewが歌い、彼の歌がディジュリドゥを通して音になるんです。民族楽器同士で合奏することにより、どのような相乗効果が生まれるのか――皆さんも今日知ることになるでしょう」
とLee氏。その後Doyle氏のディジュリドゥとLee氏の尺八によるパフォーマンスが披露された。
ディジュリドゥから物語られる泡のようなベースに、尺八がヨナ抜き音階のメロディーを乗せてゆく合奏は、1曲目はより東洋的に、2曲目はより西洋的に響き、会場の空気をがらりと変えた。その美しい調べは、シドニーにいながらにして観客の心を遠い異国の地へと連れて行ったことだろう。
会場は一般人から音楽家まで幅広い層でにぎわった。パネル・トーク終了後に設けられたQ&Aセッションでは、観客から意欲的な質問が多く投げかけられ、日豪両国の音楽への関心の高さがうかがえた。
2月23日(木)にはオーストラリアの先住民族楽器ディジュリドゥ奏者であり、事故によって記憶を失いながらも、演奏家として点描画家として活躍し続けるGOMA氏によるトーク・イベントと、25日(土)に同氏のソロ・コンサートが開催される他、3月10日(金)には、アイヌ音楽研究家であり同民族楽器の奏者としても知られる千葉伸彦(アイヌ名:サンペ)氏によるアイヌの文化についてのトークとその民族楽器のデモンストレーションが予定されている。
両国が生んだ民族楽器から紡ぎ出される演奏に心を震わせ、同国々の音楽や文化、民族についての理解を深めてみてはいかがだろうか。
【Echoes】
会場:The Japan Foundation, Sydney / Level 4, Central Park 28 Broadway, Chippendale
期間:2月9日(日)「Harmonies in Japanese and Aboriginal Australian Music」、23日(木)「Discover Goma’s Story」、25日(土)「Echoes」、3月10日(金)「Ainu Sounds: Indigenous Music from Japan」
時間:イベントにより異なる
入場:無料
詳しくはこちら↓
取材・文・撮影:武田彩愛(編集部)
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