2024年日本人会ゴルフ部10月度例会を開催しました
2024年日本人会ゴルフ部10月度例会リポート 開催日:2024年10月20日(日) 開催場所:Mona Vale Golf Club 参加人数:11…
富山県出身のイラストレーター、グラフィッックデザイナー。現地の広告代理店に勤めるかたわら、フリーランスのイラストレーター、アーティストとして精力的に活動。作品はシグネチャーのスカルとフラワーを用いて独創的でユーモラスに描かれる。
サーフィンのホームブレイクにマンリーを置き、そこでのローカル活動をはじめBILLABONGやHURLEY、CONVERSE、VANS、そしてアメリカのパンクバンドのBlink182など、さまざまな企業やアーティストとのコラボレーションを幅広く手がける。
国境を越えて活躍し、いま最も目が離せないアーティスト、ケンタロウ・ヨシダ氏のルーツに迫る。
富山県富山市の出身です。看板が塩で錆びれていて、ロシア人の船乗りが大勢いる、そんな富山県の漁師町で生まれ育ちました。地元では漁師や鳶になる友人が多かったですね。僕も含めてみんな地元が好きで、他府県に進学しても、卒業後は地元に戻る人が多いです。
母はガラス作家を30年近くやっていて、いまは自分の工房で活動しています。自分の活動や工房を守るために商業的な仕事もしていますが、展示会や新聞社主催のコンペティションに出展するための創作もずっと続けています。職人であり、アーティストですね。
僕は幼い頃から工房に行っては、粘土をこねたりして遊んでいましたし、母の創作活動をそばで見ていたので、自然と母の影響を受けていると思います。
オーストラリアに来たのは母の勧めでした。最初は美大に進学しようと思い、デッサンの勉強もしていましたが、推薦をもらえる状況ではなく断念しました。かといって専門学校や就職活動も嫌で……。その時、たまたま母の元同僚がシドニーで活動していたことから、生活を立ち上げる手伝いをしてもらえるというので、シドニーへ行くことを決めました。
母は自分がガラス作家として活動する中、ワークショップや展示会のために渡航したり、ガラス造形研究所に講師を呼んだりする際に、英語でのコミュニケーションにずっと苦労していたと言います。ガラス作家としての活動以外にもバックパッカーで世界中を旅したり、登山したり、かなりアクティブに動き回っている母ですから、「英語を話せた方が世界が広がる」という理由で、僕にオーストラリア行きを勧めてくれたんだと思います。
当初は10カ月間のワーキングホリデーで帰国する予定でした。英語学校は入学まで勉強をまったくしてこなかったので、エレメンタリークラスから始まって。最初は大変だったものの、とりあえず毎日が楽しかったですね。ワーホリ中にIELTSを受けてみた結果、UTS付属のUTS Insearchという専門学校には入学できるレベルだったので、そこから始めることにしました(その後、UTSに編入)。
UTS卒業後にシドニーで就職しました。当時はあまり給料も高くありませんでしたが、ジュニアデザイナーとしてイラストを描かせてもらっていました。今の会社には、ビザサポートも受けられる条件だったので転職したんです。広告代理店で、前職とは少し違う流れで仕事をするようにりました。
でも、ビザも取得して昇給してきた矢先に、自分の中で良くない時期に入ってしまって。色々なものを同時に失いました。長く付き合っていた彼女と別れたり、ずっと住んでいた家のオーナーが家を売却するから出ていかないといけなかったり。人間関係もどんどん悪くなっていって……人生のどん底を味わった気がします。
その時期に「もう一度ちゃんと絵を描いてみよう」と思ったんですね。それまでも絵を描いていましたが、周りの友人が僕のことを紹介してくれる時に「この人はアーティストだよ」と言われても、「そんな大層なもんじゃない」と胸を張れなくて。原点回帰とまではいきませんが、絵を描くことに真剣に取り組もうと決意しました。
グラフィックデザインを勉強していたので、日常生活の中で目にする古いタイポグラフィやサイン、インスタグラムで気になるアーティストをフォローしてよく見ています。自分が格好いいと思う人が、浮世絵を取り入れ始めていると思ったら、自分も浮世絵の本を見るとかして、ごちゃごちゃした要素を頭の中でミックスし、最終的にひとつにして出す。そんな風にして創作しています。
自分が感じたことや出来事を、単純に絵にすることもあります。オーストラリアのパブ文化がすごく好きで、そこで出会ったおじちゃんをキャラクターにするとか、人生の抑揚を表現した「UNDULATION」という初個展の作品づくりでは、二日酔いで死んでいる時に蛇や毒々しいものを描いて、気持ちよく酔っ払って高揚している時に花を咲かせてとか。友人は僕のことをただの酔っ払いだと思っていますが、ただ単にお酒を飲むだけじゃなくて、それがベースになって生まれる作品もありますよ(笑)。
僕はサーフィンが大好きで、サーフィンのためにオーストラリアに残ることを決めた節もあるのですが、サーフィン自体からインスピレーションを受けることはあまりないんですよね。海に入って波を見ても、それを描きたいとはならない。それよりも、サーフィンで頭の中をリセットしたいというか。多分、サーフィンの絵だと直球すぎるんじゃないかなと思います。格好いいものは、ありのままを切り抜かないといい絵にならないとも思います。そういう格好いいものをビジュアル化するよりも、お酒の絵みたいにグデグデに酔っ払って曖昧なものの方が、比較的ビジュアル化した時に面白くなると感じます。
数年前までは、新しいクライアントと仕事ができれば、それが自分にとっての一番でした。CONVERSEやBILLABONGのように、世界的な有名企業と仕事できるのがうれしかったんです。でも、いま改めて思い返すと、2年ほど前にマンリーにあるサーフショップ「ALOHA SURF MANLY」の壁に壁画を描いたことが一番かもしれません。
マンリーには当時もう11年住んでいて、クリーニング屋のおばちゃんからパン屋のおじちゃんまで、みんな知り合いになっていましたが、その壁画を見て改めて僕のことを認めてくれたので。そこはアーティストなら誰もがそこに描きたいと思うような壁なのに、誰も上からタグを書いたりせず、ずっときれいに保たれていたんです。
企業と仕事をしても一度きりということも多いし、どう評価されているのか不安になることもあります。そういう意味では、あの壁画がずっとローカルに根付いているのがうれしいし、長く残れば残るほど価値があるように感じています。それからは、たとえ安くてもマンリーの仕事はできるだけ受けるようにしています。やっぱり自分の住んでいる街に自分の作品が残るというのは、すごく光栄なことなので。
自分が日本人であることは常に意識しています。どの媒体で取り上げられる時にも、自分の根源は漫画や日本のビジュアル文化だと常々話すようにしています。最近は色彩でもビビッドな色よりも淡い色を使ったり、月や太陽も淡い朱色で描いて日の丸っぽくしたり、日本らしい要素を取り入れています。
仕事をしていく上でも自分は日本人だと思いますね。生真面目だったり、細かい点を気にしたりするのは、やっぱり日本人の長所かもしれません。僕も一度は完成した作品を何度も直したり、手を加えたりして世に出すようにしていて。ビビりなだけかもしれませんが(笑)。
日本人であるがゆえに、現場に入って「誰こいつ?」となることもありますね。どこかの店に絵を描く時には、さまざまな業種の人々が集まって同時に作業をすることがあるので、その時は礼儀正しく挨拶して、模範的な日本人であるように、もくもくと作業するしかありません。作品が仕上がっていく様子を見ると、みんなの僕を見る目が変わってくるのが分かることもあります。定期的に覗きに来てくれたりとか、飲み物を差し入れしてくれることもあって、そういう時は本当にうれしいですね。
2017年は、周りから「良かったね」と声をかけてもらえることが多かったけれども、形にならなかったプロジェクトがいくつかあって、自分としてはかなり悔しい1年になりました。嘘みたいなビッグプロジェクトを任せられて、自信を持って自分の作品を出せたし、実際に最後の最後までうまくいっていたのですが、先方の都合で突然キャンセルになってしまって……。報酬は発生したので仕事としては成立していたのですが、それよりも作品を世に出せなかったことがショックでしたね。
一方で永住権を取得できたことや、Blink-182をはじめとするビッグネームとコラボレーションできたことはよかったですね。マンリーで活躍している大先輩のアーティスト、Ben Brownさんと一緒に展示会を開けたことも大きかったです。
今後は、世界中からプロのロングボーダーも多く出場するロングボードの大会「Noosa Festival」(2018年3月開催)のオープニングショーに声をかけていただいたので、それに向けてがんばっていきたいです。日々描いて、なんでも貪欲に挑戦していきたいですし、展示会もやりたいですね。
Kentaro Yoshida
富山県出身。18歳で渡豪後、シドニー・ノーザン・ビーチに滞在を決める。UTSのビジュアルコミュニケーション学科にてイラストレーションを専攻。卒業後、現地の広告代理店に勤める傍ら、フリーランスイラストレーター、アーティストとして活動を開始する。アナログのインクドローイングやデジタルドローイングをもとに作品やクライアントワークを制作する。これまでさまざまな有名企業やアパレルブランドとのコラボレーションを手がける。依頼者の知名度にこだわらず、巨大な壁画から紙やキャンバスへの繊細な絵まで精力的に活動している。
取材・文:德田 直大
撮影:千葉 征徳
連載『Talk Lounge』の過去記事一覧はこちら
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