2024年日本人会ゴルフ部11月度例会を開催しました
2024年日本人会ゴルフ部11月度例会リポート 開催日:2024年11月17日(日) 開催場所:Bayview Golf Club 参加人数:11名…
アニメ、漫画、ゲーム、コスプレ、カラオケなど、日本発のポップ・カルチャーを愛する人が一同に集まるオーストラリア最大級の人気フェスティバル「SMASH! Sydney Manga and Anime Show (通称:SMASH!)」。
2007年に開催されて以来、徐々に規模を拡大し、11年目を迎えた昨年は初年度から10倍となる、約2万人の来場を記録。いまやマンガ・アニメのファンだけでなく、多くの業界に影響を与える一大フェスへと変貌した。
「SMASH!」の会長として日豪の文化交流の発展に尽力するアンドリュー・キゥ氏に、イベント開催への思いや自身のルーツについて伺った。
中国南部の広州市で生まれ育ち、6歳の時に家族でオーストラリアに移住しました。当時の中国では天安門事件などさまざまな出来事が起こり、情勢が不安定だったために、私たち家族が移住を決断したのはむずかしいことではありませんでした。
オーストラリアに移ってすぐの頃は、英語を話すことができませんでしたが、まだ自分が幼かったこともあり、すぐに新しい環境に馴染むことができました。両親が共働きで、放課後はチャイルドケアに通っていたために両親との関わり合いは少なく、妹が産まれてからは妹の世話もしていたので、同世代の子供たちに比べると自立していたと思います。
小学生の頃には香港では広東語に吹き替えされたドラゴンボールの放送が始まったり、オーストラリアでもポケモンや戦隊シリーズが徐々に人気を広げていたので、私もよく観ていましたが、まだこの時には日本文化に興味を持っているわけではありませんでした。
実際に日本に興味を持ったきっかけは、日本からオーストラリアに輸入されていたアーケードゲームでした。多くのゲームが英語に翻訳されているなか、キングオブファイターというゲームだけが日本語のままだったので、言葉の意味を理解したくて中学1年生から日本語の勉強を始めました。中・高校生ぐらいになるとさまざまな興味が湧いてくる年頃ですが、その当時の私は同じ年代の子供たちとは少し違う方向に関心が向いていたと思います。
通っていた高校の日本語の先生がとてもよくしてくれたのもあって、2001年に、日本の学校との2週間の交換留学に参加しました。それがすごく刺激的で、アニメや漫画とはまた違った日本の生活を感じることができました。驚いたのは、交換留学先の日本の高校は数年後に閉校する予定の学校だったので、人口増加により学校の規模を拡大したり、数を増やしているシドニーとは真逆の現象が起きているということでした。
ちょうどこの時期から、通っていた学校に当時はオーストラリアではまだ珍しかったアニメクラブができて、「天地無用!」などのアニメをみんなでビデオに録画して観ていました。またインターネットが急速に普及して、アニメを通して世界中の人々とつながり、その中でも特に仲良くなったカナダ人から紹介された「ラブひな*」というアニメは、今まで観たものとはまた違ったジャンルでさらに興味を持ちました。そのアニメを観て「いつかは東京大学に行きたい」と思ったのを覚えています。
*ラブひな:赤松健による少年漫画作品。東京大学への合格を目指す主人公が女子寮「ひなた荘」の管理人となり、住人の美少女とドタバタを繰り広げるラブコメディ。
あまり詳しい内容を話すことができないのですが、この頃(2000年代初め)には、友達の間でインターネットを通してアニメや漫画を、みんなでシェアするのが流行りました。当時はまだ日本の週刊少年漫画の英語版が発売されておらず、世界中の仲間と協力して英語版を自分たちの力で作っていました。
私は日本語から英語への翻訳を担当していて、その他にも編集担当、吹き出しの日本語を消す担当、翻訳されたセリフを吹き出しにいれる担当、最終的なクオリティーを確認する担当など、さまざまなスタッフと工程を経て、オリジナルの漫画を完成させていました。日本語を理解できない多くの仲間にも、漫画の素晴らしさを広めたいという一心で取り組んでいました。
同時期(2001、2年)に、オーストラリアではアニメ関係のイベントが開催されるようになり、「アニメニア」というシドニーでは初となるシドニー大学のアニメクラブ主催のアニメ・漫画イベントにボランティアとして参加もしました。
大学はニュー・サウス・ウェールズ大学の建築学部に通いましたが、シドニー大学に編入して日本語とエンジニアリングを専攻しました。そして、日本への1年間の交換留学プログラムの募集を見つけ、昔からの夢だった日本への留学を実現させるために応募しました。
第1志望が慶応大学、第2志望が東京大学、第3志望が早稲田大学と、希望者が殺到するであろう東京大学をあえて第2志望に格下げし、まずは日本への留学を実現させようというプランでしたが、なぜか第2志望で選んだにも関わらず、一番行きたかった東京大学への1年間の留学が決まりました。「東京大学に行く」という夢が現実になったことに驚いたと同時に凄く嬉しかったのを覚えています。
東京大学での留学は、私の人生に大きな影響を与えました。日本人だけでなく、シンガポール人や中国人、アメリカ人など、25人のさまざまな国籍の人たちと出会い、刺激的な時間を過ごしました。そういった経験もあり、日本という国により一層引き込まれていったと思います。
交換留学の後、2007年に設立されたSMASH!の運営に参加しました。ラジオドラマにハマっていた時期で、徐々にオーストラリアでも人気が出てきているのを知っていたので、有名な作品に出演している声優をイベントに呼べたら面白くなると思っていました。収益をあげることや自分の興味関心をただ追求するよりも、面白いことを多くの人と共有するのが好きなのかもしれません。
その他にも、SMASH!ではカラオケコーディネーターとしてイベント会場内のカラオケスペースの運営にも携わりました。「カラオケ機を日本から持って来られたら……」と思い、2014年には日本から最新のカラオケ機「DAM」を取り寄せました。SMASH!の実行委員の中には、日本語を話せるスタッフが少なかったので、「やれるのは自分だけだ」と思い、積極的に日本との橋渡し役を買って出ました。声優やDAMなど、日本で人気のある「本物」をオーストラリアに持ち込み、紹介する事にやりがいを感じていました。
SMASH!はNPO団体で、私も含めた全員のボランティアによって運営されているイベントです。私たちの目標は、日本文化を愛する人たちを一堂に会し、コミュニティーに迎え入れ、交流を楽しんでもらうことです。その中でも特に人気が高いのはアニメや漫画ですが、その他にもガンプラ、カラオケ、折り紙、痛車など、はっきりとした線引きをせず、日本の文化に関することに興味がある人たちが自由に集まれます。
オーストラリアでは、個人で共通の趣向を持つ人たち同士が集まって直接交流するのは未だ難しい状況なので、SMASH!では安全に多くの人たちが集まって情報の共有や発信の場を提供しています。
運営に関わるスタッフの中、1年間を通して働いているのは現在180人程で、イベント当日には500人ほどまで増えます。今年のSMASH!(2018年7月14・15日開催)では過去最大集客数が予想され、2日間で少なくとも2万2千人の来場が見込まれています。
日本やオーストラリア以外の国でもアニメや漫画など、日本のポップ・カルチャーに倣ったフェスティバルは数多くありますが、オーストラリア人口の割合を考えると、世界的にも大きなイベントだと思います。
アメリカで最も有名な「Anime Expo」は10万人規模で開催されていますが、それに次ぐ同種のイベントは2〜3万人の集客なので、SMASH!もようやくそのレベルに追いつきました。しかし、SMASH!はボランティアだけで運営している非営利型イベントということを考えると、この集客数は珍しい数字なのではないかと思います。
昨年の10月、東京国際映画祭に参加した際に出会ったアメリカ人がSMASH!を知っていて、すごくうれしい気持ちになりました。大抵の場合はSMASH!がどういう団体なのか説明するのですが、SMASH!の知名度が世界的にも上がっていることを感じました。また最近は、アニメ・フェスティバル・アジアという団体とのコラボレーションをし、他国で活動する団体と関係を築き、一緒に働けたのは面白い経験でした。
イベントを運営する上で一番大変なのは、とにかく時間がかかること。1人当たりの負担を減らし、仕事にかかる時間を短くするには、とにかくボランティアスタッフの人数を確保するのが大事ですが、それと同時に多くのスタッフを管理するのもむずかしくなります。また各スタッフの意見を尊重し、全体としてのバランスを保持したり、方向性を決めるのもむずかしくなります。
これまでで一番大変だったのは、私が会長になって初めて迎えた2015年のSMASH!でした。この年からコンサートをイベントのコンテンツとして取り入れたのですが、そのプロジェクトを自分一人で請け負い、その他にも代表としての運営管理などをしていたので、かなり忙しかったです。
日本のレコード会社に出演の打診に行ったり、「アニメ・フェスティバル・アジア」とのコラボレーションのためにミーティングを重ねたり、さらにはその時期は本業も忙しくて……。結果的にコンサートは成功し、その年には集客数が1万2千人から1万5千人に飛躍したので、今思うとターニングポイントになる年だったと思います。
毎年イベントの日程が近づくにつれてストレスは増えます。しかし、イベント最終日の午後3時頃、多くのコンテンツが終わろうとする時に、ふと我に返って周りを見渡すことがあります。
「たくさんの人がイベントに来てくれた」「来場者もボランティアスタッフも笑顔で楽しんでくれている」「参加したみんながいいフィードバックをくれている」そのようなことに気が付いた時には、どれだけ当日まで大変な思いをしていても、ストレスは吹っ飛びますね。
来年(2019年)、私はSMASH!の会長職にいる予定はありませんが、イベントをよりよいものにしたいという気持ちがあるので、何かしらの形で参加したいと思っています。いつもイベントを運営する時には大きなストレスを感じますが、まだまだ改善できる部分はあるので、それらを実現させるまでは辞めるわけにはいきません。フラストレーションを感じるということは、まだ改善できる箇所があるということ。それをポジティブに捉えて、今後もスタッフ全員でイベント成功に向けて取り組んでいきたいと思います。
「忍の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。けどな…… 仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」
漫画「NARUTO -ナルト-」の名シーンです。主人公のナルトが第7班に入って初めての課題中、ズルをして先に昼飯を食べようとし、それが見つかって1人だけ昼飯抜きになります。しかし、同じ班でライバルのサスケがカカシ先生からの言いつけを破って、ナルトに昼飯を渡します。そこにいきなり現れたカカシ先生が言ったセリフですね。すごく印象に残っていて今の自分に一番つながるセリフだと思います。
他にも、アニメや漫画ではありませんが、AKB48も自分の人生に大きな影響を与えたと思います。彼女たちはまだ十代と若いのに、大きなプレッシャーを背負い、影でものすごい努力をしていて、たくさんのファンが見ているステージ上に立ち、自分の欲を捨て、ファンたちに約束したことに向けひたむきに頑張る。その姿は、まさに自分が取り組んでいることや、挑戦していることと同じで、とても共感しますね。
自分たちのチーム内で運営することはそこまでむずかしくありませんが、日本の大きな企業と関わる時は、比較的規則が厳しい場合が多く、例え簡単なオファーだったとしても、むずかしくなってしまうことがあります。
特に初めて関わる企業にはさまざまなバリアがあり、コミュニケーションを取るのがむずかしいですね。例えば、いきなり私が受付に行って、役員や管理職の方にコンタクトを取ろうとしても取り次いでもらえませんし、もしその方たちと話ができるチャンスをもらえても、半分聞いているような、聞いていないような状態になることさえあります。そのため、会社とつながりがある知り合いや、過去につながりがあった人から紹介してもらうようにして、今あるさまざまなコネクションを使っていくことが重要だと思います。
オーストラリアには沢山のアニメ・漫画ファンがいるとは思いますが、アニメや漫画は好きだけれど、SMASH!のようなイベントに参加することは、まだ多くのファンにとってハードルが高いという話も聞きます。なので、まずはそういう人たちでも気軽に参加し、楽しめるイベントを作りたいと考えています。
さらに、コンテンツの数を増やしていきたいですね。数年前にイベント内でコンサートをしましたが、それと同じようにさまざまなアイデアを取り入れながら、少しづつ開催規模を拡大できればと思います。また、日本にももっと出向いて、多くの人と関わり合いながら人脈を広げていきたいですね。
2018年はSMASH!が始まって12回目の開催になり、史上最大規模となります。会場のサイズも大きくなりますし、シティ中心部での開催になるので、アクセスなどの利便性も抜群によくなります。また、イベント規模が拡大されることで、より多くの人が楽しめる内容を提供していくことになるでしょう。
準備段階から、たくさんの人にさまざまなアイデアやアドバイスをいただいているので、そういった協力者と共にすべて実現できるように尽力します。まだ言えることは少ないですが、もしかしたら……「世界初」のことができるかもしれないので、楽しみにしていてください!
SMASH! Sydney Manga and Anime Show 2018
2018年7月14日(土)15日(日)
@インターナショナル・コンベンション・センター(ICC)
https://smash.org.au
アンドリュー・キゥ
オーストラリア最大のアニメ・漫画フェスティバル「SMASH! Sydney Manga and Anime Show」の現会長。中国・広州市で生まれ、6歳の時にオーストラリアへ家族で移住。幼少期に日本語のアーケードゲームで遊んだことから日本文化や日本語への興味を持つ。シドニー大学に在学中には交換留学プログラムで、東京大学で1年間の留学生活を送る。現在はBANDAIやJOYSOUND、シドニーのジャパンファウンデーションと継続的にコラボレーションしながら、イベントのさらなる拡大のために尽力中。好きな漫画・アニメ作品は「ラブひな」。また日本のバラエティー番組のファンで「ロンドンハーツ」や「モニタリング」をよく視聴している。
取材:德田 直大
訳:浜登 夏海
連載『Talk Lounge』の過去記事一覧はこちら
>>https://www.jams.tv/author/jams_talk_loungeをクリック
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