JAMS.TV Pty Ltdによる日本の祭典「酒フェスティバル(Australian Sake Festival)2024」ならびにBtoB商談会が、7月のメルボルンに続き、2024年9月28日(土)と29日(日)の2日間にわたってシドニーのCarriageworksで開催された。
本フェスティバルは、年々拡大傾向にある「日本の酒・食・文化・観光」分野のオーストラリア人気において、ひとつの分野に特化した発信ではなく日本文化を総体的に伝えることで、オーストラリアに住む人々の日本への興味と知識を広げることを目的としている。
オンラインとオフラインの両面からオーストラリアの生活・観光情報や広告サービスを幅広く提供しているJAMS.TV Pty Ltdが主催し、日豪の架け橋として長年さまざまな分野で両国に貢献しているスポンサーや出演者・出展者とともに、年々規模を拡大してきた。
シドニーで「酒フェスティバル」を開催するのは今回で3回目。
2022年の初開催以降、日豪から多数の日本酒類の酒蔵・酒造メーカー、小売店、日本食店、日本の伝統工芸品の製作・販売店、文化芸能に関するパフォーマー、日本酒の専門家などを招き、多彩な切り口から参加者が日本文化を日常的に愉しむ機会を増やすことで、オーストラリア国内における日本産食品・製品市場、インバウンド観光市場、芸術分野や文化交流の拡大に寄与することが期待されてきた。
昨年からはシドニーに加えてメルボルンでも7月に開催され、来年3月にはブリスベンでも初開催となる。
今回も、全てのチケット(日本円でおよそ7,000円)は当日券を含めて完売。シドニー会場の出展ブース数は日本から来豪した酒蔵を含む日本酒専門業者38社のほか、日本食品卸・小売りや飲食店など総勢81団体に上り、2日間を通して昨年から約3割増となる約8,000人が来場した。
昨年からの改善点として、今年はセッションを分割したことで、開場直後のスムーズな入場を実現し、来場者にとってより快適により多くのブースを回れるスペースが生まれたことは大きい。規模も全体の雰囲気も昨年より確実に改善され、来場者と出展者へ、より豊かなイベント体験を提供することを可能にした。
来場者アンケートによると、今年も幅広い層が来場し、中でも20代から40代のアクティブな年齢層が多く訪れた。また、今回初めて「酒フェスティバル」に参加した来場者が約8割を占め、普段は日本酒を買わない来場者も2割ほどいたことから、本イベントが日本酒に触れる貴重な機会であったことが窺われる。また、大らかなオーストラリア人の国民性からか、会場内で同じ日本酒好きの仲間を見つけて一緒に楽しむ姿も多々見受けられた。
興味深いことに、日本を訪れたことのある来場者は全体の約7割にも上った。日本酒だけでなく、伝統文化の紹介や次回の訪日観光に役立つ情報を求める声も多く、メルボルン会場以上に、シドニー会場では「酒フェスティバル」を日本文化を楽しむイベントとして期待されていた面もあるのだろう。来場者のうち8割以上が「1年以内に日本を訪れることを検討している」と回答し、本イベントが観光アピールの場としても高い需要が見込めることを示した。
「酒フェスティバル」の柱は、日本酒を味わうことだけではない。日本における日本酒の文化的意義と、グローバルで現代的な環境において日本酒がどのように進化しているかを人々に伝えた上で、日豪の観光と経済協力の新たな可能性を探るものでもある。日本酒の伝統的な慣行と現代的なトレンドの壁を取り去って祝うことで、両国の絆を深める一助となるとともに、オーストラリア人が日本文化により深く触れる機会を提供している。
さらに、今年初企画となる抽選会では、能登半島地震の義援金として日本円でおよそ100万円を年間を通して集め、一日も早い被災地復興を祈ると共に全額が寄付された。こうした社会貢献への取り組みも、日豪の架け橋として忘れてはならない点だろう。
来場者に日本酒の世界だけでなく、日本文化や観光、特にオーストラリアと日本を結ぶ幅広い文脈に浸ってもらうことに重点を置き、日本酒が豊かな日本の文化遺産の一部であることを伝える本イベントは、オーストラリア国内における日本産食品・製品市場、インバウンド観光市場、芸術分野や文化交流の拡大にも寄与し、日本酒との新しい出会いや日本文化に親しむ機会を存分に創出したと言えるのではないか。
向かって左から、遠藤氏、Maynard氏、千葉氏、大平氏、渡邉氏、後藤領事
初日のオープニングセレモニーでは、開会の挨拶後に主催のJAMS.TV Pty Ltdの遠藤代表取締役、酒サムライであり酒エデュケーターのSimone Maynard氏、同じく酒サムライであり「EUREKA!」オーナーの千葉麻里絵氏、新潟県酒造組合会長であり緑川酒造代表取締役社長大平俊治氏、JETROシドニー事務所の渡邉尚之所長、在シドニー日本国総領事館の後藤領事、6名による鏡開きが行われた。
2日間を通して、日本酒を中心としたさまざまなタイプの日本の酒類(リキュール・焼酎・ウイスキー・ジン、梅酒、果実酒など)500種以上もの試飲・販売があり、酒類関連ブースでは日本産酒類に加えて、日本食店、日本の伝統工芸品の製作・販売店が多数出展した。
お酒を飲まない人のためにノンアルコールドリンクも用意され、食品ブースでは地元のケータリング業者やレストランから日本の祭りに欠かせない日本食の数々が提供された。
今年のハイライトのひとつ、「EUREKA!」のブースでは、東京の日本酒バー「EUREKA!」のオーナー兼経営者であり、日本酒ソムリエと酒サムライの肩書きを持つ千葉麻里絵氏が、同店のメニューと日本酒の多様で美味しいペアリングの可能性を紹介した。
また、フードブースにJFCが出展したことにより幅広い種類の日本食料品が提供され、ステージでの日本伝統パフォーマンスと併せて、会場全体の日本的経験の没入感がさらに高められた。
そのステージでは、日本文化芸能に関するパフォーマンスをはじめ、日本酒とのフードペアリングセミナーなど、多彩な切り口から日本文化を紹介。和太鼓や和楽器などの日本の伝統的なパフォーマンス、ダンスショーやバンドなどの現代的なパフォーマンスで、会場は常に熱気に包まれていた。
日本とオーストラリア先住民の文化とのつながりも示すなど、文化的なショーケースと体験型アクティビティをバランスよく取り入れた結果、多くの観客でにぎわいを見せていた。
セミナーでは、メルボルンを拠点に活動する酒サムライのSimone Maynard氏と新潟県ブースが、初心者でも楽しく学べる日本酒セミナーを開き、日本酒や有名な酒造地域の酒蔵を紹介した。
多くのセミナーを通して、参加者は酒造りのプロセス、日本酒の種類、地域による違いが独特の風味にどのような役割を果たしているかなどについて理解を深めていた。個々のセッションは初心者にとっても日本酒愛好家にとっても示唆に富み、誰もに新しい発見があったことだろう。
酒造りそのものだけでなく、日本酒とのフードペアリング情報も好評だった。フードペアリングのセミナーやブースでは、日本酒が、日本食のみならずいかにオーストラリア料理とも相性が良いか、試食者にオーストラリアの食卓を豊かにできる可能性を見出させ、会場で実際に購入した日本酒を自宅で食事と合わせて試してみるためのアイデアを提供する良き場となった。
会場には品評会「オーストラリア酒アワード(Australian Sake Awards 2024)」の映えある受賞酒一覧も展示され、参加者からの注目を集めた。
先立って26日には、その祝賀会がシドニー市内のホテルで執り行われており、宇都宮酒造(栃木)や亀泉酒造(高知)、今西清兵衛商店(奈良)などの受賞を祝った。今年から新設されたフードマッチング部門では、オーストラリア現地の料理に合う日本酒の酒蔵として、壺坂酒造(兵庫)や加藤吉平商店(福井)などが選ばれた。
「オーストラリア酒アワード」も開催3回目となったが、オーストラリア市場にもたらした変化の一つには、現地の卸業者や小売店がオンラインショップを立ち上げ、アワードを受賞した商品が売れるようになったことが挙げられる。また、現地の試飲促進会などでも、首掛けPOPを付けた商品が売れやすくなり、オーストラリアの一般消費者が日本酒を選ぶ際の指標となるなど、日豪で相乗効果が生まれている。
来場者向けアンケートの「イベントでは何を楽しみましたか?」という項目では、「お酒の試飲」との回答が全体の約9割にも達した。オーストラリアでは、まだまだ飲み比べながら日本の酒を購入できる場所や機会が少ないため、本フェスティバルならではの楽しみ方であると言えよう。
そして、このような経験は日本の酒蔵にとっても、オーストラリア市場や日本酒がオーストラリアでどのように受け入れられているかを感じられる機会となるに違いない。
一方で、日本酒を飲むきっかけが「日本への旅行」だったと答える来場者も多い。実際に、今年1月から5月にかけての訪日オーストラリア人は40万200人にも上り、前年同期比72.2%増と好調を示している。
そのため、観光客数全国5位を誇る奈良県などはインバウンド需要を取り込むため、本フェスティバルでも酒と食を中心とした観光コンテンツをオーストラリア人にアピールした。
日本酒をはじめとする日本産の酒類や食品の取引に関心のあるオーストラリアの卸売業者や小売業者、飲食店などを対象としたBtoB商談会では、日本とのオンライン商談も含め、オーストラリアの日本産酒類のさらなる販路拡大に利用された。
近年、日本政府でも日本産酒類の一層の輸出拡大を図るため、海外における日本産酒類の認知度向上および販路拡大に向けて取り組んでいるため、対面とオンラインともに両国の間では熱心な商談が交わされた。
現在、オーストラリアには約1,400銘柄(注1)の日本酒が流通しており、オーストラリア国内で銘柄が増えたのはこの7、8年のことだ。日本酒はワインや他のアルコール飲料に比べると、依然として知名度は高くない。(注1:自社調べ)
しかしながら、シドニーやメルボルンなどの500万人都市を中心に、前年比170%で訪日観光客数が増加していることなど、人気の旅行先に日本が選ばれる背景やオーストラリアの多様性に寛容な多文化主義から、日本酒の分野が秘める可能性は大きい。
今回の出展者らからのオーストラリア日本酒市場に対する所感は、「年々回を追うごとに、⽇本酒への需要の⾼まりを感じる」「まだまだ初⼼者が多く、これからが期待できる」「オーストラリアの市場は⾮常に活発だと感じた。今後ポテンシャルは⾼いと思う」など好感触。⽇本酒だけではなく、リキュール、ジン、焼酎などさまざまな酒類の日本酒類を試飲する来場者も多く、特に甘味を好むオーストラリア人にとってリキュールへの関心が⾼かった。
日本酒造組合中央会によると、2023年の日本酒輸出の国別ランキングにおいて、オーストラリアは数量が10位、金額が8位を占めている。また、日本の財務省貿易統計によると、2023年のオーストラリア向け日本産酒類の輸出額は65億8,300万円で、前年比17.2%増。一方、日本酒造組合中央会が今年2月に発表したオーストラリア向け日本酒の輸出額は、同年に6億4,459万円と前年を30%下回った。
オーストラリアではコロナ禍のロックダウン期間を経て、酒類のテイクアウトやオンライン販売の需要が拡大し、日本酒専門のインポーター、日本酒を扱う酒販店や多国籍レストランなども年々数を増しているが、同年にオーストラリア向けに輸出された日本酒1リットル当たりの価格は1,212円と、前年比4.8%上昇し、一気にプレミア化が進んでいる。
オーストラリアの日本酒市場における今後の課題としては、現地の「売り手の育成」と「消費者の育成」がますます重要視される。オーストラリアの多くの消費者は、店員からの推薦がないと日本酒を選べない。日本酒をより買ってもらいやすくするためには、売り手と消費者の両方に対する教育が不可欠である。
「酒フェスティバル」では、日本酒という観点から姉妹プロジェクトである「酒アワード」と共に、日本酒の幅広い魅力と多様性を示すことで、日本酒、ひいては日本文化をより親しみやすい楽しみとしてオーストラリアの一般消費者に周知しているが、来場者の中には「出展者との交流」を楽しみとして挙げる声も多い。より多くの日本の酒蔵がフェスティバルに出展できるよう取り組み、オーストラリアの人々に独自の日本酒とその背景を伝えてもらうことが、今後の鍵となりそうだ。
「酒フェスティバル」は2025年もメルボルンとシドニーで開催予定。また2025年3月にはブリスベンでも初開催される。
日本酒を入口とした日本の食・文化へのPRおよび訪日意欲を促進するイベントとして、オーストラリア各都市への拡がりを見せ、今後ますますの期待が持たれる。
向かって右から、遠藤代表取締役、千葉氏、Maynard氏
「ご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました。無事に大きな事故もなく終えられたことは、準備から本番まで長い期間ご尽力いただいた関係者・スタッフの皆さまのお陰です。弊社が開催したイベントの中でも最大級の規模であり、イベントを通してたくさんの交流が生まれ、また、シドニーに在住する日本人を元気にするようなイベントができたのではと思っております。また来年も開催しますので、ぜひご協力のほどお願いいたします。皆で盛り上げましょう!」
「イベントオーガナイザーの一人として、昨年のフェスティバルから多くのことを学び、今年は参加者により良い体験をしてもらうために多くの点を改善しました。その結果、快適な雰囲気が生まれ、来場者は多種多様なブースを昨年以上に楽しむことができたと思います。天候にも恵まれ、楽しくエキサイティングな日本酒フェスティバルを開催するのに最適なコンディションでしたね。私たちは、日本の豊かな文化的要素や魅力的な歴史と伝統の数々を味わっていただけるよう常に発展を模索しています。来年の酒フェスティバルもより良いものにするため、より多くの教育の機会やフードペアリングの可能性など、双方向的な体験を提供できるように努めます。メルボルンとシドニーで開催される次回の酒フェスティバルをお楽しみに。来年3月には先駆けて、ブリスベンでも日本酒フェスティバルの小規模版がデビューする予定です!」
「日本文化に興味があるなら、あるいは日本酒についてもっと知りたいなら、シドニー日本酒フェスティバルは見逃せないもの。200種類以上の日本酒を味わうことができ、その背景にある伝統や文化の重要性について学ぶことができる素晴らしい機会ですから。日本のお酒の試飲だけでなく伝統的な和太鼓からモダンダンスまでさまざまなパフォーマンスが行われ、日本文化の新旧両方の側面を垣間見ることができます。ベテランの日本酒ファンも日本酒がまったく初めての人も、誰もが楽しめる内容で、素晴らしい日本食のセレクションや1日中楽しめるエンターテイメントなど、あらゆる年齢層が楽しめる没入型の文化体験が、あなたを待っています。オーストラリアにいながらにして、日本の一角に足を踏み入れたような気分になれるこの活気あふれるイベントを、来年もぜひお楽しみください!」
全ての写真:Sayu Matsunaga
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