日本の伝統工芸、地場産業の製品をオーストラリアや欧米に紹介することで海外への販路を開拓するなど、日本と海外の架け橋となる事業に取り組む「Simply Native Japan」を昨年26歳の若さで立ち上げた松元由紀乃さん。海外の文化にフィットするように、現地の人たちの立場に立ったかたちでさまざまな工芸品を紹介している。
彼女はなぜこのようなビジネスモデルを確立したのだろうか? その背景にある思いについて迫ってみたい。
Simply Native Japanとして活動を始めたのは去年の1月になります。前職は経済産業省の外郭団体、中小企業基盤整備機構という日本国内の中小企業支援機関でした。そこで日本の地場産業やファッション関係のメーカーさんの海外展開の支援をしていました。もともと実家が奄美大島で、父親が大島紬という着物の職人をしていたので伝統工芸は身近で大好きでしたが、帰省する度に後継者不足の問題などを耳にしていました。
仕事で他の地場産業や産地の職人さんたちとお仕事させていただく機会が増え、日本国内の市場が縮小している状況は全国規模で深刻なんだと気づきました。同時に、海外はまだ伸びしろが大きいということにも気づいたんです。海外だと、日本の伝統工芸に対して驚きを持って愛してくれる人がすごく多いんですよ。自分の強みやネットワークを生かしてもっと積極的に何かできないかと思いました。それがSimply Native Japanを立ち上げたきっかけです。
現在、初めての海外展開に取り組んでいる亀谷窯業さんは、210年の歴史を持つ島根県の「石州瓦」を製造する一番小さな会社です。昨年、MORE THANプロジェクトという経済産業省の海外販路開拓事業に採択され、その中で私が販路開拓の担当をさせてもらっています。日本は屋根瓦の需要が減少してきていて、瓦の需要開拓がもう待ったなしの状況なのです。
元々、亀谷窯業さんでは昔からの瓦づくりに加え、タイル、そして「瓦そば」用の耐熱食器を製造していました。「瓦そば」というのは、熱した瓦で茶そばを焼く非常に美味しい山口県の郷土料理で、西南戦争の時に兵士たちが近くの屋根瓦をカパっと外して使ったのが始まりとされています。
通常の瓦は火にかけると割れますが、亀谷窯業さんの開発した瓦は調理用食器としての基準をクリアしています。瓦で安全に直火調理ができるという面白さと、遠赤外線効果で食材が柔らかく、おいしくなるという機能性が非常に人気です。
「これはオーストラリアのバーベキュー文化に合うんじゃないか」とブランドプロデューサーの方と考え、今回、大物のお皿や、デザイナーに依頼してバーベキュー用の耐熱プレートシリーズを新しく作りました。
実際にオーストラリアの展示会に出展してみると、反応は予想以上に良かったです。どういう反応があるんだろうって正直不安でしたが、まだ日本の商品が多くないオーストラリア市場では目新しく映るようで、来場者の興奮度合いに私たちが興奮するっていう(笑)。そのくらい、反響をいただきました。ただ、まだまだ課題も多いので、今回の反応をもとにまた着実に改善していきたいと思っています。
刃物製品を丹念に作り上げる、播州刃物の職人さんたち
また、オーストラリアの展示会では「播州刃物」という250年の歴史を持つ刃物製品の紹介をしました。「播州刃物」は兵庫県小野市・三木市の地場ブランドで、職人さんたちを全面に出して、使い手とのコミュニケーションを促すブランディングをしています。海外でも日本の包丁はクールだからオーストラリアの方々にも人気ですが、メンテナンスも含めた地道な普及活動をしていかなきゃなと感じました。
和包丁は引きながら力を入れずに使えるのが特徴です。洋包丁は押して切る、つまりは力で切るので、そこに慣れている人は和包丁をすぐダメにしちゃうんです。そういうそれぞれの特徴や使い方から、まずお伝えしなければいけない。使い方が正しくないのに、和包丁はすぐに壊れるっていう間違った認識をされてしまうこともあるので、そこを正しく伝えていく地道な活動は大切ですね。
ヨーロッパやアメリカだとすでに日本の商品が多く入ってきているので、今回オーストラリアで我々が受けたほどの反応は少ないと感じます。ビギナーズラックの部分はあると思いますが「これこそ私たちが求めていたものよ!」と良い反応をいただくことが多く、職人さんが作ったものを愛してくれる人が多いと感じています。
その一方で、できあがった商品だけでなく、日本の伝統工芸の深さは、製品をつくる過程の分業の技術だったり、長く使うための修理・修復の技術にも詰まったりしているので、将来的にはそれらも紹介していきたいですね。
商品の魅せ方の部分でも今年は新たな挑戦をしたいと思っています。日本文化を体感できるような空間をつくりたいなあと。いい場所があったら教えてください(笑)
海外進出の醍醐味(だいごみ)は、現地の人の新鮮な驚きや職人技への敬愛の念のようなものを直接感じられることはもちろんですが、試行錯誤の末に商品の販路開拓ができて、メーカーさん、職人さんにフィードバックできた時に「やってて良かった!」とやりがいを感じるところです。
職人さんの後継者をつくりたいというのは大きなモチベーションですが、今いる職人さんたちに「職人になってよかったな」って思ってもらいたいという気持ちも大きいです。
今の60代から80代の職人さんたちは、高度経済成長期に大量生産・大量消費っていう文化を体験してきて、我々が今感じている苦労よりも、はるかに大変だったと思うんですよ。理不尽なこともたくさんあっただろうし。そういうのは父親の背中を見ていると何となくわかるし、いろいろな職人さんと話しているなかで感じるものがあります。職人さんたちから「ありがとう」って言われることが、大きなよりどころでもありますね。すごく人間味あふれる職業ですが、そういうところで仕事ができるのがありがたく、毎日楽しいです。
松元由紀乃 (Yukino Matsumoto)
奄美大島で大島紬の職人の家に育ち、地場産業の活性や職人の後継者育成に強い関心を持つ。公的機関にて伝統工芸・ファッション分野を中心に、国内外の展示会出展支援や海外販路開拓、海外デザイナーとの商品開発事業を多数経験。「クライアントと共に結果に繋げる事業づくり」を基本理念とする、海外進出支援企業Simply Native Japanを設立。
取材・文:JAMS.TV 撮影:天野夏海(写真は一部松元氏より提供)
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