英語を第二言語とする難民や移民の子どもたちをスポーツの力でサポートする団体「Football United」と「Creating Chances」、さらに「NSW州大学(UNSW)」のユース・リサーチャーとして、合わせて3つの団体でインターンシップをする古田映布(ふるたゆう)さん。
姉兄に鍛えられた持ち前の親しみやすさで、子どもの頃からの夢は教師になること。日本の教育に違和感を感じていた時に彼女が見つけたのは、海外の学校体育だった。
それから大学院で日本と海外の体育について学び、日本の学校体育では外国人児童が馴染めていないことに疑問を持った映布さん。
その疑問を解消したいと、多様性を受け入れる学校体育を学ぶために向かったイギリスでは、1日で帰国というハプニングに見舞われ、偶然オーストラリアに来ることに。現在は日々難民・移民の子どもたちと接しながら、スポーツと教育の可能性を探る研究に励んでいる。
さらに日本では『青少年育成団体 PEAB.』という団体を運営し、研究した体育論を実践して今後も活躍していく予定。常に全力だと、凛とした姿勢で語る映布さんの日本の学校体育に対する熱い思いを伺った。
古田映布(ふるたゆう)、出身は茨城で、大阪と北海道のハーフです(笑)日本の大学院で学校体育について研究をしながら、オーストラリアでは英語を第二言語とする難民や移民の子どもたちをスポーツ面からサポートする団体でインターンシップをしています。
小学生の頃から教師になりたくて、それと同時に「海外に出て思いっきりワールドワイドな人間になる!」とも思っていました。その思いが強くて、高校3年の春までは高校を卒業したらすぐに海外に出るつもりでしたが、今となっては大学進学してよかったです。そこから先生になるっていうのが職業でのゴールで、海外に出るっていうのは人生でのゴールになりました。
日本の学校でも、さまざまなマイノリティ(言語・文化の違う外国人児童、障害のある児童、LGBTQなど)の子たちがいて当たり前。
そんなダイバーシティ共生の状態をうまく活用できる授業作りのために、日々研究に勤しんでいます。最終的には「先生方のための教員研修」を先生方の負担を減らすために実施するのが、私の使命だと思っています。
姉がどちらかというと非行に走っているタイプで、兄がいわゆるいじめられっ子の引きこもり。二人とも性格が全く真逆で、毎日ケンカが絶えなかったんです。でもそのギャルっぽい姉とも、冴えない兄ともうまく話せたのは家族の中で私だけで、おかげで「自分は結構いろんな人と話せるな〜」って小学生で気づきました(笑)
その頃から漠然と学校の先生になりたいと思いはじめたんです。いろんな子と接することができるし、学校が嫌いな姉にもうちょっと学校を好きになって欲しい、兄みたいな子も活躍の場を増やして欲しいと思ってたんです。
英語と体育が好きだったのでどっちか迷いましたが、私は運動が得意な子と苦手な子で体育の好き嫌いがハッキリ分かれてしまっていたのがとても残念で、「みんなが協力して楽しめる体育を作りたい」と体育教師を目指して大学に進学しました。
大学に入学したら、教員採用試験のためにしかならない勉強にがっかりして、このまま教師になるべきか悩んだ時期があったんです。
そんな時、ある授業で発展途上国の体育が紹介されているのを見て、日本の体育は質が高いんだと分かったんです。それから「日本の体育を発展途上国で生かしたい!」と思うようになり、先ずは海外の体育を知るこから始めようと、「スポーツ 体育 国際」で検索してみたんです。そして、その時に見つけた大学院に進むことを決意しました。
初めは「日本の体育を海外に活かしたい」と思ったのですが、大学院で海外と日本の体育の良いところと悪いところを学ぶ中で、日本の教育は外国人児童に対応できてないことに気が付いたんです。
言語が関わってくる授業では難しいかもしれないけど、体育ならチームワークや体を動かすことで、外国人児童も馴染めるようなダイバーシティ共生の授業ができるんじゃないかなと思い、最終的にそれが自分の研究テーマになりました。
自分の研究のためにも多文化共生の学校体育を学びたくて、最初はイギリスにある団体でインターンをしようと準備していたんです。でも、いざイギリスに行ったら、「ビザが違う!」って言われて次の日に帰されたんですよ(笑)
それでどこか他にないかってもう必死に探しました。イギリスで行く予定だった団体の人やアメリカの知り合いの先生に「どこかいい団体ないですか?」って聞いて。どうにか知り合いの知り合いにオーストラリアの団体を教えていただいて、完全に受け入れていただくのに3ヶ月かかりました。
だから最初はオーストラリアに来るとは思ってなかったんです(笑)
今は「NSW州大学(UNSW)」でユース・リサーチャー(研究生)として、「Football United」と「Creating Chances」という2つの団体でもインターンしています。どの団体も、難民・移民の子たちのトラウマ改善やライフスキルの向上、社会参加の促進のためのプログラムをスポーツを通して支援し、その成果を研究しています。
オーストラリアはベトナムやシリア、イラクからの難民へビザを発行していて、年間約1万8000人もの難民を受け入れているんです。*1
「Football United」ではそんな難民の子どもたちのトラウマ改善やリーダーシップスキルの構築など、社会に参加する手助けをして、最終的には地元のサッカークラブに子どもたちを繋いでいくサポートをしています。その団体が「Rugby Youth Foundation」という団体と連携して始めたのが「Creating Chances」で、そこではサッカーだけじゃなくて、他にもいろいろなスポーツを通して社会で役立つスキルを教えています。
この2つの団体ではほぼ同時並行で活動しており、そのプログラムの効果があるのかどうかを調べるのが「NSW州大学(UNSW)」のユース・リサーチャーとしてのインターンなんです。そこでは、どういった場面で効果があるのか、逆にどんな場面では効果がないのかなどを明らかにして、プログラムのさらなる改善やスポンサーへの情報提供など、今後の活動に活かす研究をしています。
*1 「How many refugees does Australia settle each year?」Settlement services international
活動の一環で行ったキャンプで、キャンプファイヤーを囲みながら「今、世界に必要で自分にも必要なものは何か」っていう話をしたんです。その時に、難民や移民の子の中には「今を生きることが世界的にも大事」って言ってる子がいて、「わぁ〜これは日本ではでてこないアイディアかもなぁ…」と思って。
私は日本人だから「心に余裕を持つことが大事」ということを話しました。日本人って全体的に常にせかせかしてるし、目の前のことでいっぱいいっぱいになっちゃう人も多い。心に余裕を持つことで相手のことをリスペクトできるし、相手の話も聞けるし、全然違う価値観を持った人でも理解出来ると思うんです。
これはオーストラリアに来たからこそ気づけたことかなと。その時はみんな納得してくれたけど、難しいトピックですよね。
自分はとにかくみんな対等に扱いますね。それに難民の子は私よりも強いパッションを持っていると思うし、やっぱり経験してきたことが違うんだなって、リスペクトしています。
でも怒りを制御できないところが彼らの苦手なところなので、スポーツでフェアプレーを意識させて、落ちつくように声をかけたりもしています。
そんな風に気を使いながらも私は全力で当たります。移動する時のダッシュも、はじめは一番後ろの子についてたのに、もう全力で一番前の子を抜くみたいなことしちゃう(笑)
子どもたちがダラダラやっていても、私は真剣に。英語でうまく伝えられないからこそ態度で示すのが大事だなと意識しています。私、日本で教育実習でやったときのドッジボールも「先生、手加減しないからね」って全力でやってたし(笑)
「Creating Chances」のプログラムの中で私がいちばん活動している「クリエイティング・コーチ」と「フューチャー・パスウェイ」というパートでは、中・高校生くらいまでの難民の子どもたちを、社会で生きていける人材に育成して、さらにその子たちの将来の就職支援もします。つまり、スポーツが社会参加に直結しているんです。そこがすごいなと思って。日本ではまだ聞いたことがないので、絶対に持ち帰りたい内容です。
社会で生きていける人材って、どうやって育てるのか分らなかったのですが、難民や移民の高校生が同じ難民や移民である小学生の子たちに対してスポーツを教えるという方法で、社会で生きていく上で必要なスキルを教えています。もちろん彼らは英語が第二言語だからお互いに英語のパブリックスピーキングの練習にもなるし、「人に教える」というコーチングスキルの向上や、「自分たちが引っ張って教える」というリーダーシップの向上にもつながると思います。
そしてその過程で彼らの履歴書を作って、子ども自身がどういうスキルを持っていて、何ができるのかということを教えてあげる。そうやって子どもたちの自信に繋げているんですよね。
あと「NSW州大学(UNSW)」ではインターンとしての仕事の他に、自分独自の研究もさせてもらっています。団体自体は子どもたちに焦点を当てていますが、自分は「指導者」に焦点を当てて研究しています。
それは今後、日本にもこうした学校体育の機会を増やしていくために、指導者がどのような経験を持っていて、どのようなことを考えながら指導しているのか、その部分を明らかにしたいから。この研究によって、自分が日本で運営している団体の質を高めて、さらに将来の教員研修や教員養成に活かしていけたらベストだなと考えています。
はい。大学院で研究している学校体育や、「インクルーシブ体育」という子どもたちの多様性を受け入れる体育科教育を自分で実践する場所として、オーストラリアに来る前に立ち上げました。基本的には小・中学生くらいの子たちに「協力する」ことでゴールにつながる、ミッションゲーム形式の体育教室を開いています。
身体を動かすスポーツなら、楽しみながら、リーダーシップとか、リスペクト、お互いに意見を出し合うことや、人の話をきちんと聞くこと、というような、社会で役立つコミュニケーションスキルを身につけられる。そういうプログラムを心がけていて、オーストラリアのインターンで学んでいることもまさにここに繋がってきます。
団体は4人で運営しているんですけど、今は学童クラブと提携して活動させてもらったり、ありがたいことに今度サッカークラブ2つと共同で国際交流イベントにも呼んでいただいています。もっとこの団体の活動を広げていきたいと頑張っています!
私は、オーストラリアには自分にとって新しい教育の方法論を学びに来ているので、日本での研究を進める下準備だと考えています。
日本に帰ってからはこの経験を活かして、「新しい学校体育」を広められたらいいなと。そのためには、博士課程を目指してさらに研究を突き詰め、その知識や経験を、教員養成課程の学生たちや既に学校の先生になってる方々に新しい方法論や価値観、世界観を伝えることで還元したいと思っています。
日本にはない新しい教育のあり方を伝えて、現場の先生方と一緒に学校教育の質を高めていきたいです!そして世界に貢献したいとも思っています。
日本の教育の質を高めるのが前提で、プラスアルファで海外にも目を向ける。そこは私の日本人としてのアイデンティティかなと思います。
取材/文 返町萌
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