日本で全国的にラーメン店を展開する一風堂は、日本国内では90店舗以上、海外店は2008年のニューヨーク店を皮切りに、その後、シンガポールや、オーストラリアなどに進出し、現在海外11カ国、50店舗以上出店しています。日本に新たなラーメン文化を築いてきた一風堂は、世界中の人々が、日本の食を楽しみ、文化を理解し、愛してくれるようにと、世界展開を進めています。
ここシドニーで4店舗を展開する一風堂オーストラリアのオペレーション・マネージャー 吉村 翔氏に、一風堂の海外戦略をはじめ、シドニーでの1号店立ち上げの苦労やオーストラリア人のお客の反応など、4年の駐在生活を振り返ってもらいました。
英語を生かした仕事に就きたくて入社
一風堂に入社した時から海外で活躍したいという気持ちがありました。一風堂は既にニューヨーク店、シンガポール店がありましたので、ゆくゆくは自分も海外にという思いがありました。
実は親の仕事の関係で2歳でアメリカに行き、小学4年までアメリカで過ごしたんです。日本に戻ってからもインターナショナルスクールで英語環境でしたから、家では日本語、学校では英語でした。そのせいか、英語を活かした仕事に就きたいと考えていましたし、学生時代の飲食店でのアルバイトを通じて飲食業には興味がありました。
入社時は、海外事業部に半年ほどいましたが、その後、国内事業の仕事をしていたところ、シドニー店の立ち上げという話しがあってこちらに来ることになりました。出張では何度か海外に行かせてもらっていましたが、海外赴任はシドニーが初めてで、初オーストラリアでした!入社しても最低3年は厳しく修行させてもらう気持ちでしたが、思いのほか早く、入社2年でシドニーに来ることになりました。
日本でも店長はしたことがなく、立ち上げもしたことのない自分が、海外で店舗の立ち上げをできるのかと不安9割で、ワクワク感はほんの少しでしたね。こんな機会を与えてくれた会社に感謝しています。
アメリカではオーストラリアに対して極端なイメージを持っている人が多くて、「オーストラリアではトイレからワニが出る」「部屋にいても蛇が出る」とか…、そんな自然が豊かすぎるというイメージを持っていました。
来てみると、自然が豊かで気候が良いというイメージは合っていましたね。でもさすがに野生動物は市内にはいませんね。(笑)
言葉ができても伝えることがないと意味がない
海外に行ってみたいという気持ちは強かったのですが、行って何をするか、ということはあまり考えていませんでした。言葉ができても伝えることがないと意味がないと痛感しました。海外に行くなら何を伝えたいのかがしっかりないと、自分自身の価値を発揮できないと思います。
日本のブランドである一風堂を立ち上げるにあたって、どうその価値観を現地のスタッフに英語を通じて伝えるのか、英語を活かして何をどう伝えるのか、ということが大事ですね。
最初は通訳のようなことしかしていませんでしたが、先輩から言われることを現地スタッフに伝える中で、自分もその考え方などを次第に身に付けてきたのだと思います。
なぜ目を見て挨拶しないといけないの?
当初は、スタッフも100人ほど採用しましたが、それも多国籍、人種も様々でしたから大変でした。ラーメンも知らない、日本もあまり知らない人たちに、一風堂の思いとか、ありがとうの気持ちとか、感謝とか、テキパキ感や間の良さなどを伝えるのに非常に苦労しました。
目を見て挨拶しましょうというと、「何で目を見ないといけないの?」とか、「何でありがとうございますと言わなければならないの?」「いらっしゃいませと、なぜ言わなければいけないの?」…。
日本では当たり前のことが、こちらではまず基本的な説明からはじめなければなりませんでした。理解してもらうまでずいぶん時間がかかりましたね。
オージーの国民性はチェーン店を嫌う?
シドニーに来た時はラーメン店はいくつもありましたし、シェフの方が自分でされているお店に価値を感じているようで、オーストラリア人の特に白人の方はチェーン店を嫌うのかなと思いました。そこにチェーン店として参入して皆さんに認められるのかな?という不安はありました。
それに、ほかのお店より価格設定が高めでしたので、開店当初のフィードバックには料金が高いという声がたくさんありました。それが最近は徐々に認められてきたのか、この味なら、このサービスなら、この雰囲気なら…この値段でも納得という気持ちになってきているのかなと思いますし、そう変えていきたいです。
仕事はやりやすいですね。現地の方々のサポートがあり、昔から活躍されている日本人のレストラン経営者の方ですとか、業者の方にも支えられていますし、私どもが出店するずっと前からこちらでビジネスをされている日本人の方にサポートされているからこそできているという部分が大きいです。その意味で、やりやすくさせてもらっています。
今後はローカル化が鍵に
2012年の8月に赴任して、お店は12月6日にオープンしました。お店の工事、スタッフ募集、商品作り、メニュー作り、マニュアル作り、オフィスと工場の立ち上げなど、出張でシドニーに何度も来てはじめた準備段階も含めると約1年になります。
すでにニューヨーク店やシンガポール店など海外店はありましたが、シドニー店立ち上げに他店のマニュアルがあったわけではなく、全てゼロからマニュアル作りをはじめました。
国によって規制などが違いますから、こちらに来てから全て作り上げました。雇用契約にしても、オーストラリアは労働者が守られている国で、週末の時給アップとか、こちらに来て初めて知って驚きました。
現在、シドニーには4店舗あります。1号店が市内Westfieldに2012年12月にオープンしました。2号店はCentral Parkに2014年10月に、3、4号店は2015年6、7月にMacquarie CentreとChatswoodに続けてオープンしました。
お陰様でお客様にはたくさん来て頂いているのですが、まだまだ軌道に乗るという状況ではなく、課題もたくさんありますので、これからの体制作りが課題です。
1号店の場合は立ち上げから現場に入ってやっていたのですが、今は4店舗全てを見なければならず、上司とともに回っています。現在、各店舗にはローカルの店長、副店長が頑張っていますが、現地でマネージャーを育てて、私や社長が帰国した後もうまくやっていけるように、今後はローカル化が大事だと思っています。
シドニーはほぼ形になってきましたので、これからメルボルンとか、パースとか、他都市にも展開してみたいです。
休みの日はショップハンティング
シドニーで出会った日本女性と結婚しました。二人とも働いているので、一緒の時間はなるべく二人で、バーやレストランに出かけたりして過ごしています。
こちらは格好良いお店が非常に多いので、休みの日は行ったことのないバーとかレストランに行くようにしています。やはりいろいろなお店が気になりますね。レストランに限らず、ローカルで流行っているお店には興味があります。どうして流行っているのか、話題性があったり、隠れているところが好きですね。次の出店には、路面店とか、ちょっと路地裏に入ったところでやってみたいとか考えてしまいます。
日本のおもてなしとは違う、フレンドリーな接客も居心地が良いと感じますし、それでお客様が喜んでいるのなら正解だと思いますね。プライベートな時間を使って視野を広げていきたいです。
音楽が趣味で日本でバンドを組んでいました。シドニーでは仲間がいないのでひとりで部屋で弾いています。もし興味のある方がいらっしゃれば、お声をかけてください。
居心地が良いオーストラリアにずっと住んでいたい
カフェ文化が発達しているので、休みの日の朝は近所のカフェに行くのが好きです。落ち着きますね。サリーヒルズの地元のカフェの朝の雰囲気が非常に小洒落ていて格好いいんです。ビジネスマンが出勤前にコーヒーと新聞を手にしていたり、家族連れできていたり。なかなか日本ではゆったりとした朝の雰囲気は味わえないですね。
オージーは朝方ですよね。朝6時、7時から活動を開始して、5時にはぴったりと仕事を終える。ワークライフバランスを非常に上手にとっているので、そこが魅力的に感じます。その意味でオーストラリアは非常に魅力的な国だと思います。ゆくゆくは戻ってきてずっと住んでいたいなと思います。アメリカは治安の面などが不安ですし、オーストラリアはなぜか居心地が良いと感じています。気候やオージーのフレンドリーさも影響しているのでしょうね。
日本に帰って真っ先にしたいことは…
コンビニに行きたいです。こちらはお店の営業時間が短くて閉まるのが早いですし、その点、何時でも何でもできる日本は便利だなと思います。この利便性は最高です。日本では当たり前のことがこちらでは当たり前ではないので、まず、コンビニに行ってお茶とおにぎりを買って食べたいです。
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