シドニー北部のチャッツウッドに構える日系サロン「Kayo Japanese Hair Design」で、ワーホリ・ヘアスタイリストとして働く渡辺由希乃さん。顧客の約70%が外国人という環境の中、日本式のおもてなしと確かな技術をもってオーストラリアで生活する人々のキレイをサポートする。
ヘアスタイリストという職業について「腕はもちろんですが、コミュニケーションなくして成立しない職業」と話す。オーストラリアで英語での接客をはじめ、日本とは異なる環境や髪質、要望に対し、自身が持つ柔軟な発想力と豊かな経験を活かしてワンランク上のサービスを目指しながら日々奮闘中。
華々しくも過酷な世界の中で、凛と一本筋の通った芯の強さを持つ彼女の秘密に迫りたいと思う。
千葉県出身の29歳です。一昨年の10月にオーストラリアにワーホリで来ました。最初はブリスベンで語学学校に通いながらお寿司屋さんで働き、その後ストロベリーファームでピッキングをしてワーホリのセカンドビザを取得、ワーホリ2年目に入ってからシドニーに移りました。
日本でヘアスタイリストとして働いていた時からオーストラリアというか、海外への憧れがありました。25歳の時に一度ワーホリについて調べたところ、思っていたより初期費用がかかることを知ったので、そこからワーホリの留学費用を貯めて、30歳目前で”ギリホリ”でオーストラリアへ。
ワーホリの渡航先をオーストラリアにしたのは、以前ケアンズに旅行をした時に、オーストラリアの気候や温かい人たちのことが大好きになったので。それに、オーストラリアは海外生活未経験者でも生活がしやすいとも聞いていたからです。
オーストラリアは他の国よりも日本と時差は少ないですし、親も元気なので日本に何も思い残すことはないなと(笑)。
オーストラリアのワーホリでも、ヘアスタイリストとして働けることや求人が出ていることは知っていました。実際に、ブリスベンのサロンにヘアサロンの下見に行ったり、ヘアスタイリスト希望で面接もしてもらったのですが、ワーホリ当時の英語力がかなり低くて……。
ワーホリ1年目の時にヘアスタイリストの面接をパスして、トライアルで働かせてもらったこともありますが、他のヘアスタイリストやオーナー、さらにはオーストラリア人のお客様とうまくコミュニケーションが取れなくて、オーストラリアにいるのだから本腰を入れて英語に向き合おうと決めました。
やっぱりヘアスタイリストである以上、腕はもちろんですが、コミュニケーションなくしては成立しない職業だと思うので、そこは避けて通れません。図書館で英語の勉強をしたり、ヘアスタイリストとして使う単語を覚えたり、積極的に話しかけるようにして英語で話せるオーストラリアの友達を増やしたりと、ヘアスタイリストとして働くためにやるべきことを必死にやりました。
そうですね。シドニーでのワーホリ生活を始めて2週間くらいで、今のヘアサロンに採用されました。チャッツウッドという場所柄もあり、お客様の70%が日本人以外なので、ワーホリ中1年間みっちり英語を勉強してきたとはいえ、最初の頃はヘアスタイリストとしての技術以外の面で苦労しました。
また、お客様の多くが日本人と髪質が全然違うので、これまで馴染みのなかった薬剤を使って施術しないといけなくて、ヘアスタイリストとしても初体験だらけのドキドキの毎日でした。もちろん最初はオーナーであるカヨさんの研修を受けて、サロンのポリシーやオーストラリアで生活する人たちへの接客のコツなどは教えてもらいました。それでなんとか……、という感じですね(笑)。
そうですね。オーストラリアは日本と違って、ヘアスタイリストが指名をどんどんとっていくスタイルではないので、基本的にお客様はお店についています。特に日系サロンはワーホリで就労している人も多いですし、スタッフの入れ替わりが絶えず発生するので、ヘアスタイリスト個人として以上に、お店のファンを増やすことが大切です。
オーストラリアではカットなら、レイヤーが入っているスタイルが好まれる傾向があります。日本はどちらかというとボブベースが流行っているので、趣向が違っていておもしろいですね。カラーだとハイライトが多いかな?
オーストラリアでトレンドの影響はあまりないと思います。例えば、日本だとセレブやモデルが短い前髪にしたら、その翌週には写真を持って来て「この髪型にしてください」というお客様が多いのですが、オーストラリアでは「自分に合ったものを提案して」と、ヘアスタイリストの意見を仰ぐ人が多いですね。
そういった時には、まずお客様のライフスタイルから伺うようにしています。家でブローやドライをするのか、もししないなら必要ないスタイルを提案しないといけません。そのお客様の職種や子育て中かどうかも重要なポイントです。仕事で髪を結ぶ機会が多かったり、子供に引っ張られたりする場合、邪魔にならないようなスタイルを提案します。
日本だとヘアサロンに癒しも求めている方がすごく多いですね。髪を切る、髪をきれいにするのに加え、リラックスしたいという需要があるので、ヘッドスパなんかも人気ですよね。
オーストラリアはもっとシンプルで、「ヘアサロンは髪を切りに行く場所」という感じです。日本のようにトリムだけ、整えるだけというお客様は少なくて、スタイルを変える、10cm以上も切るというお客様も珍しくありません。オーストラリアでは、ヘアスタイリストとして目に見えた結果が求められることが多いです。
オーナーのカヨさんいわく、オーストラリアによくあるローカルのヘアサロンでは黙々と作業だけするヘアスタイリストも少なくないようです。そういった環境だからこそ、日本人のヘアスタイリストとして日本式のおもてなしが行き届いたサービスを提供していきたいですし、そこをお客様に評価いただいてるので、これからもオーストラリアで日本の良さを推していきたいですね。
それはあるかもしれません。でも、日本人のヘアスタイリストということで求められるハードルが高くもなっているとも思います。
「日本人のヘアスタイリスト=丁寧な仕事」というイメージがオーストラリアでは浸透しているので、それを外しちゃうとがっかりされるお客様は多いですし、厳しい目で見られるでしょうね。そういう環境で仕事をしていると大変ですが、ヘアスタイリストとしてのスキルアップにもつながるので、私はオーストラリアのこの環境を前向きに捉えています。
また、新規のお客様に「どうやってこの店を知りましたか?」と尋ねると、「友達や知り合いの紹介」という声が多くてびっくりします。私たちがヘアスタイリストとして担当したお客様に満足していただくことで、そこから新しい出会いにつながっていく。理想的な形で私たちのこだわりやお店がオーストラリアに広がっていることをうれしく思います。
数あるシドニーのサロンの中から、わざわざ日系ヘアサロンの当店を選んでいただいているわけなので、その期待には応えていきたいですね。
じつはあります。私はブリスベンにいた時、「アジア太平洋映画祭」というイベントにヘアスタイリストとして参加しました。主な仕事は、女優・俳優・通訳の方のヘアセットでした。
当日は「アジア太平洋映画祭」なのに、アジア系のヘアスタイリストが私一人しかいなくて。着物姿で登壇される方もいたのですが、西洋人は着物の着付けを知らないじゃないですか。「ここは私の出番だ」って感じで、担当させていただきました。
正直、こういった機会は多くないと思うので、すごくラッキーだったと思います。
たとえ日本でどれだけヘアスタイリストとして経歴を積み上げてきた人でも、オーストラリアに来るとゼロからのスタートになると思うのですが、それでも間違いなくいい経験になると思います。
仮に働くのが日系のヘアサロンだったとしても、ルールや風習はオーストラリアと日本ではずいぶん違いますし、お客様の髪質や要望もかなり違っていて。その上で言葉の壁もあるので、英語に自信がないと最初は打ちのめされるかもしれません。
厳しい環境ではありますが、ここでしっかりがんばることで、例えワーホリという短期間の就労だとしても、ヘアスタイリストとしても人間としてもレベルアップできると思います。
私はヘアスタイリストをやり続けている人って、基本的に根性がある人だと思うんですよね。ヘアスタイリストの仕事は肉体的にも精神的にもかなりハードなので、好きじゃなかったら続けられない職業なんですよ。
日本でヘアスタイリストを続けられたなら、オーストラリアに来ても絶対にヘアスタイリストとして働けるんじゃないかなって。まずは、どれだけ日本人のヘアスタイリストにチャンスがあるのか、オーストラリアをはじめとした海外で日本人がどれだけ評価されているのかを知ってもらえるとうれしいですね。
取材・文・写真:德田 直大
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せっかくワーキングビザを取ってオーストラリアに来たのに、 ・ 全然仕事が見つからない ・ 仕事が日本食レストランで日本語…