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ハーグ条約の基本と返還手続きについて(オーストラリアの離婚問題)

前回の記事で(参照:「オーストラリアで離婚する際の条件とは?」)、オーストラリアで離婚する際に、片方の親が子供を日本へ連れて帰国する場合には、「子供の連れ去り」となる可能性があると最後に触れました。

ここ数年、『ハーグ条約』という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。自分には関係ないこと、あるいは、何だか難しそうだし知らなくていいや、と思っていらっしゃる方もいるかもしれません。

実は「ハーグ条約」と呼ばれるものにはたくさんの種類があるのですが、今回お話しする『ハーグ条約』は、16歳未満の子供を持ち、子供が通常生活している場所から一時的にでも出国する可能性がある人は誰でも知っておくべき、身近な条約です。

ハーグ条約とは?

条約の正式名称は『the Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)』で、16歳未満の子供がその定住国から一方的に他国に連れ出された場合、その他国側が定住国に子供を送り返す義務を負うというのがこの条約の趣旨です。

1980年に作成されたこの条約に、日本は2014年に締結し、オーストラリアもハーグ条約加盟国98カ国(2017年10月時点)の一つとなっています。

外務省によると、日本で1980年代から急増しはじめた国際結婚が2005年には年間4万件を超え、国外で出生・生活する子供の数も増えています。それに伴い、一方の親が別離や離婚などを機にオーストラリアから日本へ子供を連れ去り、そのまま留置したり、他方の親に面会させなかったりとした問題が多く生じるようになってきていました。

そうした事態を未然に防ぐために、子供がホリデーなどで一時帰国することさえもできなくなる出国禁止命令が出されることも多くありました。

オーストラリア国外に連れ去られた子供にとっては、もう一方の親・親戚、そして友人との別離はもとより、それまで慣れ親しんだオーストラリアの生活環境から引き離されることになります。さらには、異なる言語や文化環境に置かれるという急激な環境変化に突然晒されます。

ハーグ条約は、このようなことは子供の利益に反し、そして多大な悪影響をもたらすと考えています。もとより子供の養育に関する取り決めは、その子供の定住国(元の居住国)で行われるべきと考えられているのです。

この基本理念に基づいてハーグ条約は『子供を迅速に元の居住国に返還する』、『離れてしまった親との面会交流を円滑に行う』ということを原則にハーグ条約締約国同士が協力し合うためのルールを定めています。

ハーグ条約締約国間での返還手続き方法

ハーグ条約締約国同士のこうした協力は、それぞれのハーグ条約締約国が定める国内法に基づいて設置された中央当局が行っており、日本の場合は外務省が中央当局です

オーストラリアではAttorney-General’s Department(法務省)がハーグ条約への協力を行う中央当局になっており、その行政機関のInternational Social Service Australia(ISSA=オーストラリア国際社会福祉)が返還援助申請の手続きを無料で行っています

ISSAは、個々のケースがオーストラリアへの返還援助を受ける条件を満たしているかどうかを判断し、返還援助申請書と証拠書類を作成します。オーストラリアから日本への子供の連れ去りのケースでは、これらの書類をオーストラリアの中央当局が、日本の中央当局(外務大臣)に直接送付し、日本側がオーストラリア側を協力・援助をするかどうかの協議を要請することになります。

日本側の協力・援助が決まったら、日本の弁護士会が行う仲裁サービスに申請するか、家庭裁判所に判断を仰ぐかの選択肢を得ます。仲裁サービスを選択した場合、弁護士会が仲介人を選任し、当事者同士がそれぞれの主張を述べ、和解案を探ります。仲裁サービスも一定回数までは日本側政府の援助により無料で参加することができます。

もし仲裁が失敗に終われば、裁判に進めることもできますが、ここからは日本で弁護士を依頼する必要があります。収入や資産テストなどの条件を満たせば、日本側から裁判費用を借りることも可能です。

オーストラリアから日本への子供の連れ去りが認められた場合、前述のハーグ条約基本理念のもと、原則としてオーストラリアへの返還命令が出されます。ただし、探し出された子が例外なく定住国に戻されるわけではなく、以下のような場合には返還命令の対象外となる可能性があります

  1. 子の返還の申し立てが、連れ去りから1年以上経ってから行われており、また子が新たな環境に適応している場合
  2. 定住国側の親が実際に子の監護権を行使していなかった場合
  3. 定住国側の親が子供の連れ去りに合意している場合
  4. 定住国に戻ることで子の心身に重大な危険を及ぼす場合
  5. 子が自分の意思で定住国に戻ることを希望していない場合
  6. 定住国への返還が、日本の人権および基本的自由の保護の原則から見て認められない場合

次回はハーグ条約の問題点について解説します。

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