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法律/ビザ

ハーグ条約の問題点/オーストラリアと日本の違い

これまでは、オーストラリアで離婚する際の条件ハーグ条約の基本と返還手続きについてに関して解説しました。

ここからは、日本のハーグ条約締結後も批判の対象となっている課題、つまり日本側はハーグ条約の返還命令に対して強制力を十分に行使していないとした意見について解説します。

日本でのハーグ条約の問題点

日本の国内法では、子の返還命令が出されたあと連れ去った方の親が自発的に子を返還しない場合、他方の親は強制執行の申し立てを行い裁判所の命令で執行を行えるようになっています。具体的には、裁判所の執行官が子供のいる自宅を訪れ子供の引き渡しを求める訳ですが、現実には親が激しく抵抗するために、子供の引き渡しが失敗に終わるケースが相次いでいます。

失敗原因ですが、執行官が子供の引き渡しを執行するのは、連れ去った親と一緒にいる場合にのみ認められている、という背景があるといわれています。執行官が自宅を訪れ、子供が親と一緒にいる時を見計らって親に説得を試みます。

家に入ることができなければ、施錠された玄関を開けるために必要な措置を取ることも可能とされています。玄関から入れなければ外からベランダを登って、例えば2階の子供のいる部屋まで接近を試みるということが実際に行われています。

日本の法律上では、抵抗する親に対し「威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる」との規定があるものの、実際には抵抗する親を拘束し、子供を連れて行くというところまではなかなか至らないのが現状です。なぜなら、子供に怪我や精神的ダメージを与える可能性のある威力の行使は認められていないからです。

そのため、子供を連れ去られた方の親は返還を確保するため、日本の別の国内法『人身保護法』に基づいた保護請求という別の手続きに頼らざるを得ない状況が発生しています。この法律は、子供の釈放を妨害する親を勾引(裁判所が一定の場所に引致)する強制力を持っています。

2018年3月には子供の返還拒否を続けていた日本在住の母親に対し、米国在住の父親側が日本国内で人身保護請求を起こしました。このケースでは、最高裁が「返還命令が確定したにもかかわらず、子を拘束している場合は、特段の事情がない限り違法」との判断を示し、引き渡し手続きを進めるため高裁に審理を差し戻すという異例の結果となりました。

興味深い点は、母親が子供を拘束していると最高裁が判断した理由の一つとして、子供が父親と意思疎通を行う機会がなかったため、母親が子供の判断能力に影響を与えている、という理由を挙げた点です。当該子供は既に13歳になっており、通常では自由意思を持っていると考えられる年齢であるにもかかわらず、父親との交流がなかったことから母親が「不当な心理的影響」を及ぼしている、と判断しました。

ハーグ条約・連れ去りによるリスク

相手側の承諾を得ずに日本に子供を連れ去ることは、大きなリスクを負うことになります。たとえ、ホリデーなどを理由に日本へ「一時帰国」をするという前提で相手が出国を承諾していたとしても、帰国予定日を過ぎてもオーストラリアに帰国しない場合には、子供を日本に留置しているとみなし、その時点から相手の承諾を得ていないことになります

日本側のハーグ条約の執行自体に課題が残されているものの、オーストラリア側から返還手続きを行うことが大変容易であり、しかも手続き費用を個人が負担することもほとんどないという事実を十分に認識する必要があります。

また、子供がオーストラリアに返還され、オーストラリアの家庭裁判所で養育に関する「ペアレンティング・オーダー*」という取り決めを協議するに至った場合、オーストラリアから日本へ子の連れ去りをした方の親が、大変不利な立場に立たされるという結末も十分に理解する必要があります。たとえホリデーを目的としていても、子どもを再びオーストラリア国外に連れ出すことは、非常に困難になります

*子供が居住する方の親の決定や、居住しない方の親が子どもと過ごす時間についてなど、養育に関する様々な問題を取り決めるための命令

オーストラリアで離婚する場合や16歳未満の子供と一緒にオーストラリア国外へ渡航する場合には、ハーグ条約による問題点を考慮した上で子供を連れ出す必要があります。

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