Yamamoto_Attorneys
法律/ビザ

Victims Support Scheme(被害者等援助制度)について

2021年のAustralian of the Yearが先日発表されました。今年は、タスマニア出身のグレイス・テイムさん(26歳)が受賞。

テイムさんは高校1年生(15歳)の時、学校の数学の先生から性的暴力を6カ月間にもわたって受け続けました。当時のタスマニアでは、性的暴力被害者が事件について発言することを禁じる法律(sexual-assault victim gag laws)があり、メディアや加害者は事件について公に話すことができても、被害者は実名で自分から話すことが許されていませんでした。

テイムさんは自身の辛い経験を背景に、勇気をもって、このような法律の法改正のためのキャンペーン運動と性犯罪の被害者が受けるインパクトについての理解普及・啓発活動に貢献したことが認められ、このたびの受賞となりました。

テイムさんのような性犯罪被害者などの暴力犯罪の被害者本人や被害者の家族は、被害直後から傷の治療費、精神的ケアの他にも、場合によっては引っ越しの必要が出たり、家の鍵を取り換えたり、仕事を休まなくてはならない状況から収入が減ったりするなど、さまざまな負担が重なります。

オーストラリアには、暴力犯罪被害者等の心身の負担軽減や早期回復を援助する制度があり、各州ごとに性犯罪やDV、一般暴行事件などの暴力犯罪被害者とその家族の支援を目的とした制度が設けられています。こうした援助制度は、NSW州では「Victims Support Scheme」と呼ばれ、他州では「Victims Support Service」などの名称として知られています。

今回は、NSW州の「Victims Support Scheme」(被害者等援助制度)について解説します。

Victims Support Scheme(被害者等援助制度)とは

NSW州の制度では、犯罪の種類や程度により、下記のような援助を得ることができます。

  1. Counselling(カウンセリング)
  2. Financial assistance for immediate needs(緊急給付金)
  3. Financial assistance for economic loss(経済的損失の給付金)
  4. Recognition payment(被害者認定給付金)

上記の制度申請の際、警察にすでに被害を通報してある場合、警察のレポートのコピーを改めて提出する必要はありません。まだ警察に被害を通報していなくても、通報してから援助制度を利用することも可能です。

警察に被害を通報したくない場合であっても、警察以外の政府機関もしくは政府から資金提供を受けている機関(病院やDV援助団体など)へ、その暴力被害を通報してあることが証明できれば、制度申請が可能です。

すべての制度申請には、政府が発行しているID(運転免許証、メディケアカード、パスポート、センターリンクのカードなど)のコピーを申請用紙に添えて提出することが義務付けられています。IDのコピーが添付されていないと制度申請が無効になるため、注意が必要です。

NSW法務省のデータによると、2019年から2020年の間に6,000人以上に、合計約2,900万ドルの被害認定給付金が支払われています。また、緊急給付金とカウンセリングについては、4,100万ドル分以上の提供があったとのこと。緊急給付金の申請は平均12日で処理されるようになり、前年の平均73日に比べてよりスピーディーな申請システムとなっています。

1. Counselling(カウンセリング)

カウンセリングは、暴力犯罪被害者本人、被害者の家族、被害者本人と近い関係にあり、犯罪を目撃したことなどによって精神的被害を被った人などが対象です。一般的に、カウンセリング(22時まで)を無料で受けられます。

カウンセリングに関しては、被害から何年以内に申請しなければいけないといった期限はありません。カウンセリングのみの申請であれば、申請用紙をダウンロードするか、オンラインで申請することもできます。必要な書類は申請用紙と政府発行のIDのみ。

2. Financial assistance for immediate needs(緊急給付金)

緊急給付金の対象は、被害者本人、保護者、その家族です。玄関の鍵の付け替え、警報装置設置、引っ越し、犯罪現場の掃除、緊急の医療費などのために、5,000ドルまでの給付金が払われます。被害によって被害者が死亡した場合、遺族には葬儀費用として9,500ドルまでの給付金が支給されます。

申請に必要な書類は、申請用紙(カウンセリングや被害者認定給付金も同時申請可)、政府発行のID、警察に被害を通報していない場合は政府機関などの犯罪通報についてのレポート、または、その犯罪によって被害者がどのような影響を受けているかを説明する医師のレポートなど。

緊急給付金の申請期限は、犯罪から2年以内、未成年者は18歳を迎えてから2年以内とされています。

3. Financial assistance for economic loss(経済的損失の給付金)

経済的損失の給付金の対象は、被害者本人、保護者、その家族です。犯罪の被害によって仕事を休まざるを得なくなった場合は20,000ドルまで、被害損失の収入を証明できない場合も諸経費として5,000ドルまでの給付金が支給されます。また、医療費は30,000ドルまで、法律関連費用は5,000ドルまで、犯罪時に身につけていた洋服や品物の弁償金は1,500ドルまでの支給が認められています。これら経済的損失の給付金を合計した上限が、30,000ドルまでになります。

申請に必要な書類は、申請用紙(カウンセリングや被害者認定給付金も同時申請可)、政府発行のID、警察に被害を通報していない場合は政府機関などの犯罪通報についてのレポート、または、その犯罪によって被害者がどのような影響を受けているかを説明する医師のレポートの他、関係費用の領収書、関係費用が犯罪にどのように関係しているかの説明、給与明細書などです。

経済的損失の給付金の申請期限は、犯罪から2年以内、未成年者は18歳を迎えてから2年以内とされています。性暴力を成人前に受けた場合、収入損失、医療費、私物の弁償金などは18歳を迎えてから2年以内ですが、諸経費の申請は無期限となります。

4. Recognition payment(被害者認定給付金)

被害者認定給付金の対象は、被害者本人、保護者、その家族です。18歳未満の未成年者もしくは扶養家族が死亡した場合は15,000ドル、殺人事件の被害者の保護者もしくはパートナーであれば7,500ドル、性暴力被害者(犯罪の程度により)には5,000~15,000ドル、わいせつ行為の被害者や暴力を伴う強盗・暴行事件の被害者(重傷でなくとも)などは1,500ドルの給付金が支給されます。

申請に必要な書類は、申請用紙(カウンセリングや被害者認定給付金も同時申請可)、政府発行のID、警察に被害を通報していない場合は政府機関などの犯罪通報についてのレポート、または、その犯罪によって被害者がどのような影響を受けているかを説明する医師のレポートなど。被害者の家族であれば、申請用紙とIDのみで申請することができます。

被害者認定給付金の申請期限は、暴力犯罪後2年以内、未成年者は18歳を迎えてから2年以内とされています。死亡者の家族による申請であれば、犯罪による死亡と認定された日から2年以内です。

DVや性犯罪や子供の虐待のケースでは、暴力犯罪から10年以内という長い期間が認められています。未成年者は18歳を迎えてから10年以内で、未成年時に受けた性的虐待の被害者は無期限とされています。

5. Immediate needs support package(INSP/DV被害者専用緊急支援パッケージ)

INSPは、被害による安全保護、引っ越し、家賃、家具・器具・衣類・トイレタリーグッズなど、11種類のカテゴリーに分かれた費用項目の支援パッケージの給付金を受けられる制度です。合計5,000ドル分までの給付金が支給されます。

必要書類は緊急給付金の書類に加えて、INSP専用の申請用紙があります。INSP申請については、被害にかかった費用のレシート等は必要ありません。

INSPの申請期限は、暴力犯罪後2年以内、未成年者は18歳を迎えてから2年以内とされています。

援助制度の申請準備は入念に

このように、申請する援助制度によって申請用紙、添付書類、申請期限などが異なるため、申請者はよく確認して準備することも大切です。

給付金を申請する場合、申請手続きの日から12カ月以内であれば、後から医師やカウンセラーからのレポートなどを準備して追加提出することも可能です。

経済的損失や被害者認定の給付金の審査は厳しく、事件の内容によっては暴力犯罪が被害者に与えた怪我や精神的苦痛などの影響などを、医師やカウンセラーに詳しくレポートに書いてもらい、暴力犯罪との関係性を十分証明できるようにすることが大切です。このため、提出書類を入念に準備する必要があります。

援助制度の申請について疑問や質問がある方は、お住まいの州の援助制度にヘルプラインがあるので電話やメールで相談ができます。また、暴力被害のケースによっては、申請準備について弁護士に相談してみることをお勧めします。

各州の被害者等支援制度

この記事をシェアする

この投稿者の記事一覧

概要・お問い合わせ

その他の記事はこちら