法律/ビザ

【ハーグ条約を学ぼう】一方の親の同意なく子どもと帰国した場合

国際化が進むにつれて、世界中で国境を越えた移動や国際結婚が増加する中、一方の親が、もう一方の親の承諾を得ないまま子どもを連れ去ったり、または帰る約束の日を過ぎても子どもを戻さないといったことが大きな問題となっています。このような場合、子どもが16歳未満であれば「ハーグ条約」の対象になる可能性があります。

前回は、『外務省ハーグ条約室(日本のハーグ条約中央当局)』監修のもと、一つのストーリーを読みながら「ハーグ条約に基づく子どもの返還がどういう流れで行われるのか」を見ていきました。
今回も、別のストーリーを読みながら、ハーグ条約に基づく子どもの返還の流れを解説します。

なお、子どもの「連れ去り」だけではなく、ホリデーや日本への一時帰国などに際して、オーストラリアからの子連れ出国についてもう一方の親が承諾していたとしても、オーストラリアに戻る予定日を過ぎても戻らない場合には、子連れで出国した親は子どもを日本に「留置」していると見なされ、ハーグ条約の対象となるケースもあります。

今現在は当事者ではないかもしれませんが、自分自身や未来の家族のためにもハーグ条約について正しい知識を身につけましょう。

ストーリーから見る「ハーグ条約」に基づく子どもの返還の流れ

以下のストーリーを見ながら、ハーグ条約の流れを確認していきましょう。

ケンさんとハナコさんは日本で出会い、結婚して、カイくんが生まれました。そして、ケンさんの転職をきっかけに、家族はオーストラリアに移住することを決めました。

しかし、渡豪から2年を経過した頃から、ハナコさんとケンさんの関係が悪化し、ケンさんが家を出て行く形でオーストラリア国内での別居が始まりました。不定期ではありますが、別居後もカイくんとケンさんの親子の交流は継続しています。

海外生活に次第にストレスを感じるようになったハナコさんは、しばらくすると、日本に帰りたいと思うようになりました。そして、オーストラリアでの生活が3年を経過した頃、ついに、ケンさんには黙って、カイくん(4歳)と日本に帰国することにしました。(NGポイント1

【NGポイント1】
親権者であるケンさんの同意なく、カイくんと日本に帰国する行為は、ハーグ条約の「不法な連れ去り」に当たります。この場合、ケンさんはハーグ条約に基づき子の返還を求めることができます。

そして、裁判手続に進めば、原則、子のオーストラリアへの返還という判断が出されることになります。子どもと出国する前に、もう一方の親の同意またはこれに代わる裁判手続等をとるようにしましょう。

日本に帰国後、ケンさんが追いかけてくることを心配したハナコさんは、実家には戻らず、隣町でカイくんとの生活を始めました。

ハナコさんは仕事を見つけ、カイくんは幼稚園に通っています。ケンさんからメールが届くこともありましたが、ハナコさんは開封せずに削除していました。

そんなある日、外務省ハーグ条約室から書留で手紙が送られてきます。「外務省が何の用だろう?よく分からないものは受け取りたくない!」と思ったハナコさんは手紙の受取りを拒否します。(NGポイント2

【NGポイント2】
外務省ハーグ条約室(ハーグ条約の日本国中央当局。以下、「中央当局」といいます。)から書簡の送付があったということは、中央当局がケンさんの申請に基づいて、ハーグ条約に基づく援助の決定を行ったということです。

中央当局からの書簡には、今後の手続の流れやハナコさん自身が中央当局から受けられる支援の内容が書かれています。ハナコさんは、中央当局からの書簡を受取った方が、自分に必要な情報を得ることができたでしょう。

なお、子どもを元いた国に返還するかしないかは、話合いや裁判で決めていくことになりますので、中央当局の援助決定があった=返還確定ではありません。

しかし、受取りを拒否した後も中央当局から手紙が送られてきます。「何か重要なお知らせかもしれない」と、不安に思ったハナコさんは、手紙を受け取ることにしました。

手紙を読んでみると、ケンさんがハーグ条約に基づき、カイくんのオーストラリアへの返還を求めていることが分かりました。「ハーグ条約の名前は聞いたことがあったけど、まさか自分が当事者になるなんて…」と、ハナコさんは戸惑います。

手紙には、担当者の名前とともに、中央当局に連絡するように書いてあります。「直接ケンさんとやりとりするのは抵抗があるけど、中央当局の人が間に入ってくれるのであれば、安心かもしれない」と思い、ハナコさんは中央当局に電話をすることにしました。(ポイント1

【ポイント1】
中央当局で援助決定を行った場合、事案ごとに担当官が決まります。手紙の受領後、中央当局に電話をすると、その事案の担当官から、ハーグ条約の手続や支援について説明を受けられます

中央当局は返還をするかしないかの判断はせず、問題解決に向けて、当事者双方に側面的な支援を行います。例えば、ハナコさんの意向をケンさんに伝えるほか、弁護士紹介や、返還裁判のための資料の翻訳など、様々な支援を行います。

ハナコさんは、中央当局を間に入れて、ケンさんとやりとりをすることになりましたが、ケンさんの「どうしても子を返してほしい!」という訴えを聞き、だんだん怖くなってきました。

そして、次第に中央当局から連絡が来ても応答しなくなりました。(NGポイント3

【NGポイント3】
中央当局との連絡を断ってしまうと、大事な情報も受け取ることができなくなります。ハナコさんは、メールでも電話でも構わないので、やりとりを継続するべきでしょう。

中央当局では弁護士を紹介する支援も行っています。ハナコさんは、弁護士に委任することによって、ハーグ条約について相談できるだけでなく、代わりに中央当局とのやりとりを行ってもらうこともできます。

ハナコさんとカイくんが日本に戻ってから半年後、今度は、家庭裁判所からハナコさんの元に手紙が届きました。「裁判所?よく分からないものは受け取らない方がいい」と考え、受け取りを拒否しました。(NGポイント4

【NGポイント4】
ケンさんから子の返還裁判の申立てが行われた場合、裁判所からハナコさんに書類が送られます。その書類を受け取らないと、裁判期日がいつなのかも分かりませんので、ハナコさんが欠席のまま、裁判で返還の決定が出る可能性もあります。

裁判では、ケンさんは子どもをオーストラリアに返還するよう求めてきます。それに対してハナコさんは、返還は子の利益に資さない旨主張することもできますが、裁判に出席しなければその主張もできず、ハーグ条約の原則に従い、返還決定が出される可能性が極めて高くなります。

また、返還裁判の手続の中で、裁判所は、調停委員という第三者を交えた話合いの場である調停手続を設定することが多いですが、裁判所からのお知らせを無視すると、ハナコさんは調停の機会も失うこととなります

ハナコさんが手紙を受け取らなかったため、子の返還裁判は、ハナコさん欠席のまま進み、ついには、裁判において子の返還決定が出されました。

結果を知らせる書簡が裁判所から届きましたが、ハナコさんはこの受取りも拒否します。(NGポイント5

【NGポイント5】
裁判所から返還決定が送達された後2週間は、抗告(決定に対する不服申立て)をすることができますが、抗告しない場合、その決定が確定します。裁判所からの書簡を受け取らないと、ハナコさんは抗告のチャンスを失うことになります。

また、裁判所の返還決定が出たにもかかわらず、ハナコさんが子どもを返還しない場合は、ケンさんはカイくんを取り戻すための次のステップとして、強制執行の手続に進むことが考えられます。

子の返還決定が確定したことを知らないハナコさんは、いつもどおりの生活を送っています。その一方で、ケンさんは裁判所に対して、カイくんをオーストラリアに返還するための強制執行を申し立て、裁判所はこれを認めてその準備が始まりました。

しばらくして、ハナコさんの家に訪問者が現れました。地方裁判所から来た執行官です。

執行官の説明により、ハナコさんは初めて裁判所の返還決定が出ていることを知ります。「そんな話は聞いていない!」と執行官に訴えますが、カイくんは、オーストラリアに戻るため、そのままケンさんに引き渡されることになりました。(ポイント2

ハナコさんは心の準備ができていないので、もう少しだけ時間が欲しいと訴えましたが、既に裁判所で返還決定が出ている以上、ハナコさんの希望は受け入れられず、翌日、カイくんはケンさんと共にオーストラリアに向かいました。

【ポイント2】
子どもの返還の強制執行(代替執行)の実施は、事前にハナコさんに知らされません。ハナコさんとカイくんからすると、ある日突然事態が急変することになります。

代替執行は話合いの場でも返還について判断される場でもありませんので、ハナコさんが何を言っても、裁判所の決定に従って元々住んでいたオーストラリアに返されるべく、カイくんは執行官を通じて(このケースですと)ケンさんに引き渡されました。

主張したい点や返還時期の希望などがあれば、それは子の返還裁判や調停手続の中で言っておかなければなりません。

ハナコさんとケンさんは、お互い離婚を希望しています。こうして、カイくんがまずは元々住んでいたオーストラリアに戻った後、二人の間で、離婚や今後カイくんの養育をどのように分担していくか等について話し合われることになるでしょう。

ハーグ条約に関するご相談・お問い合わせ

このように、子が不法に連れ去られた場合や、約束の日を過ぎても戻ってこない場合は、ハーグ条約に基づき、子の返還が求められることになります。

日豪間の子どもの移動やハーグ条約の手続などについてご不明な点がある場合は、下記の『外務省ハーグ条約室』ヘご相談ください。

所在地:〒100-8919 東京都千代田区霞が関2-2-1
電話:+81-3-5501-8466
受付時間:月〜金 9:00 – 12:30、13:30 – 17:00(日本時間)

メール:hagueconvention@mofa.go.jp
ウェブ:www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html
YouTube:「ハーグ条約を知ろう!」で検索

  • オーストラリア国内の法的な手続についてはオーストラリアの弁護士に、子が日本にいる場合の日本で行われる子の返還裁判については日本の弁護士にご相談ください。

外務省ハーグ条約室(日本中央当局)監修の過去の連載

 

この記事をシェアする

JAMS.TVからのお知らせ

Pick Up

PickUp-bottom-01

メンバー一同こころよりお問い合わせ・ご相談をお待ちしております。

JAMS.TVへのご相談はこちらから

この投稿者の記事一覧

その他の記事はこちら