オーストラリア最高裁で1936年に出た判決とCivil Aviation Safety Authority(CASA:民間航空安全局)による規制緩和は、現代のプライバシー問題に適切に対応していないのでは?
近頃、ドローンはめざましい発展と増加を遂げています。それに伴い、ドローンの衝突・ニアミス事故が起きたというニュースも聞こえてきます。先月、シドニーのハーバーブリッジでは、仕事帰りの看護師さんの車に、不意に現れたドローンが衝突するという事故が発生しました。また3月には、WAの農地にドローンが墜落し、それが原因でブッシュファイヤーが生じたとして、CASAはこのドローンの商業オペレーターに罰金$1,800を科しました。
昨年9月29日より、オーストラリアでドローンを飛ばす際の新ルールが施行されています。もちろんこれには、社会的関心でもあるプライバシー保護を目的としたルールも含まれていると思いますよね?しかし、その答えは「NO!」なのです。
では、プライバシーはどうなるの?
ドローンに関する標準ルールには、私有地上空を飛行する際の条件等が含まれていません。それだけでなく、ドローンのオペレーターに対して、他者のプライバシー尊重や、プライバシーに関わる様子の撮影禁止(公有地、私有地問わず)などを強いるルールもありません。
ドローンに関する規制緩和は、プライバシー問題に大きな影響を及ぼしています。なぜなら、みなさんご存じのとおり、ドローンを飛ばすことによって上空からの高画質撮影が可能なのですから。
ここで少し、これまでの背景についてお話ししましょう。実は2012年のことになりますが、オーストラリアのプライバシー監視機関であるプライバシー委員会は、個人でドローンを使用した場合はプライバシー法に従わなくても良いという判断を下しました。しかし2014年に新ルールの草案が作成されていた時には、プライバシー問題も具体的に考慮されていました。連邦下院の常任委員会がドローン増加に対処するための緊急法律改正を提言し、連邦議会報告において、これは“Eyes in the Sky”と呼ばれました。
その後の規制緩和(新ルール施行)により、現在、2kg未満のドローン操縦であれば、ライセンスは不要です。
その他多くの国々では、ドローンによりプライバシーを著しく侵害された人は、相手に賠償請求する権利があります。しかしオーストラリアの裁判所は、一般的にそうした法律を拒否しています。
1936年の話になりますが、競馬のラジオ実況中継を行うため、ビクトリア・パーク競馬場に隣接する土地に展望台を建設したジョージ・テイラーという男性が、プライバシー侵害を理由にその競馬場から訴えられるという出来事がありました。しかしオーストラリアの最高裁は、この訴えを退けました。なぜなら、フェンス越しに隣人の家をちょっと覗いただけで訴えられてしまう人がでてくる前例を作りたくなかったからです。Justice Latham最高裁長官は以下のように述べました。“どんな人でも原告の土地で何が起こっているのかフェンス越しに見る権利はあります。もし原告が見られたくないのであれば、もっと高いフェンスを作ればよいだけです。”
以来、オーストラリアではこの論拠が通用しています。しかし、この時代に、無限の空をカメラを装着して自由自在に飛び回るドローンについては考慮されていなかったはずです。上空からののぞき見を避けるには、見られたくない場所を高いフェンスだけでなく、屋根で覆う必要がありますよね。
とはいえ、オーストラリアにプライバシー保護法がないわけではありません。1988年に制定されたプライバシー保護法は、公的機関でない個人によるドローン使用には適用されないのです。この法律はまた、売上高300万ドル以下の人・組織には適用されません。
では、CASAが規制すべきではないの?と思いますよね。おっしゃるとおりCASA自体は航空関連の取締機関ではありますが、ドローンによるプライバシー侵害を規制する権限はありません。CASAの位置づけと役割は、第一に安全規制のための機関なのです。