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オーストラリア同性婚の行方

オーストラリア国内で同性婚法制化の賛否を問う任意投票が、9月12日から始まりました。投票結果に法的拘束力はなく、マルコム・ターンブル連邦首相によると、賛成が上回れば、2017年内にも同性婚を実現するための結婚法の改正案を国会に提出する見通しとのこと。

自主投票開始に先駆けて、10日に大規模な集会がシドニーのタウンホール前広場にて開催されました。私も友人とこの集会に参加してきました。

労働党のビル・ショーテン党首が登場し、「我々の国で同性婚を実現するだけではなく、オーストラリアがすべての人々が平等だと信じる国だということを世界に伝えるチャンス。最後のひと山だ、皆で越えよう」と集まった人々を激励しました。

ターンブル連邦首相も、同日に開かれたNSW州の国民党と自由党の支持者による集会の方にサプライズで参加したそうです。「すでに世界23カ国で同性婚が認められているが、その国々では天地がひっくり返ったか? 国民の生活が邪魔されたか? 伝統的な結婚が尊重されなくなったか? 答えは『NO』だ」と有権者に賛成票を呼びかけたとのことです。ターンブル連邦首相は同性婚の法制化について賛成の立場とされていましたが、公の場でここまで言明したのは初めて。

 

昨年にも上がっていた国民投票(referendum)実施法案は、投票に1億7000万ドルの予算を投入し、同性婚支持派と反対派の双方に750万ドルの運動資金を提供する内容でしたが、支持派の労働党や緑の党などから、「不必要で莫大な費用がかかる国民投票はやめて、連邦議会員による自由投票で結婚法改正の採決をとるべき」と批判の声が上がっていました。アイルランドの憲法改正の国民投票も記憶に新しく、自由党内の極右議員や反対派のヘイトクライムを助長するかもしれない懸念もあり、結局実施されず。今年になってターンブル連邦首相が、再び国民投票を実施する意向を明らかにしましたが、議会で否決されたので、議会の承認なしに実施できる「郵便による任意投票(Plebiscite)」になったわけです。選挙管理員会(AEC)ではなく統計局(ABS)が運営しますが、国民投票案と同様の批判があることに変わりはありません。

オーストラリアの世論調査では、2011年から約70%の国民が「同性婚支持」という結果が出ていましたが、同性婚法制化をめぐる問題は、政権交代のたびに一進一退の状態が続いています。ハワード保守政権では、2004年にそれまで特に明記されていなかった結婚の定義を「男女」と限定し、海外の同性婚も無効にする措置をとりました。労働党のジュリア・ギラード政権では、2013年にACTで「結婚平等法(Marriage Equality ACT)」が成立して同性婚カップルが誕生しましたが、「同性婚の是非をめぐって法律で認めるかどうかは、州や特別地域ではなく連邦議会が決定するべき」として、その結婚は無効と最高裁から判決が下されました。2013年に当選した自由党のトニー・アボット前連邦首相は強硬保守派で、同性婚法制化に対して反対の意を示し、議会で「2015年に同性婚の採決を実施する」と決まったところへ「代わりに2017年に国民投票を実施する」と提案しました。この案がもともとの国民投票案ですね。前述のように、ターンブル連邦首相も就任前は「総選挙前に与党保守連合内で自由投票を実施する」姿勢でしたが、与党内の反対の声が根強く、国民意思表示を堅持するようになり、「結婚平等法(Marriage Equality)」はいまだに成立していない状態です。

そもそも1970年代までオーストラリア国内では、同性愛は警察に取り締まられるほど迫害されていましたが、1975年に南オーストラリア州で同性愛を認める法案が可決され、さらに1984年にNSW州でも法制化されました。1991年は、同性婚はおろかデンマークで初めて「ドメスティック・パートナー法/法的に承認されたパートナーシップ関係(Domestic Partnership)」が施行されたような時代でしたが、オーストラリアでは海外の同性パートナーにInter Dependency Visaを発行して国内に連れてくることが移民法の改正で認められました。1994年にキャンベラで国内初のドメスティック・パートナー法が成立、2003年から2004年にかけては、LGBT差別の禁止や養子縁組といった6つの法が改正されるなど、同性愛に寛容で先進的といっても過言ではありませんでした。

2009年より、同棲しているカップルは一定条件を満たせば、性別に関わらず「事実婚/内縁関係(De Facto)」として国(連邦)から認められています。州がどう決めようとDe Factoに該当する同性カップルは、婚姻関係にあるカップルとほぼ同等の権利があります。州単位で見ると、ACT、NSW州、VIC州、QLD州、SA州、TAS州では、「シビル・ユニオン(Civil Union)」として結婚以外のすべての権利が認められています。ただし、WA州とNT州では同性パートナー法がないため、De Factoの条件に満たないカップルは社会的な権利がありません。

それでも人々が「結婚平等(Marriage Equality)」を訴えるのは、なぜでしょうか。以前、友人たちとの会話で「De Factoで同じだから問題ないだろ?」「何も問題ないから結婚でいいだろ?」という押し問答がありましたが、個人的に思うのは、人々が単に制度としての「結婚」ではなく、社会の倫理観にある、伝統的に定義づけられている「結婚」の形を求めているんじゃないか、ということです。

例えば、スコットランドで同性間の結婚を認める法律が施行された2014年に初めて、メルボルンのイギリス領事館にて、スコットランド人とオーストラリア人の同性カップルが結婚したそうです(イギリスの婚姻法では、外国が同性婚を認めていなかったとしても、その国内のイギリス大使館や領事館でなら結婚式を挙げることができるため)。当時はオーストラリア国外で同性カップルが結婚してもオーストラリア国内では認められなかったことから、領事館を出た瞬間に2人の結婚は「なかった」ものと見なされると知っていたにも関わらず。

2015年からNSW州、QLD州、VIC州、TAS州は海外の挙式カップルもパートナーであると承認されることになり、現在までの世界のイギリス外交機関で挙げられた結婚式およそ450のうち、400に近い数がオーストラリア国内での式ということ。

人々の生き方や家族のあり方が多様化したオーストラリア社会において、従来の「結婚」という観念自体が遅れをとっていて、もはや社会に馴染めていないような気もします。

私のハウスメイトは「今さら自主投票なんて馬鹿らしい」と言いながらも、投票用紙にきちんとチェックを入れて投函していました。一票は大事! 11月15日にABSのウェブサイトにて結果が発表される予定。今後の行方に注目です。

 

文:武田彩愛(編集部)/撮影:塩谷明治(編集部)

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