今回は、オーストラリアのNSW州で不動産を購入する際の『200日ルール』について解説します。
オーストラリア国籍、永住権を持たない人が当地居住用不動産を単独で購入する場合、Foreign Investment Review Board(FIRB)からの認可が必要であることはご存じだと思います。認可が取れたとしても、基本的に外国人が購入できるのは国内の不動産供給を妨げないよう、投資向けの新しい居住用住宅に限定されています。
100万ドル以下の物件のFIRB認可申請費用は2022年7月29日現在で13,200ドルと高額で、今後も毎年値上がりすることが見込まれています。購入の認可が下りても、外国人には更に外国人追加印紙税が課されます。税率はVIC州、NSW州、TAS州が8%、その他の州が7%となっています。それだけの費用を支払って物件を購入した後も、Land Taxの外国人追加税、さらにはATOに対して毎年賃貸状況に関する申告をする義務もあります。
このように外国人が当地不動産を購入する場合、オーストラリア市民や永住権保有者と比較してかなりの余計な費用負担があるのは明らかです。
しかしながら、永住権を持っていたとしても、NSW州では外国人扱いを受ける場合もあり得ます。
永住権を持つ非市民権保持者は、不動産購入時にFIRB認可は免除されていますが、印紙税には異なるルールがあります。NSW州ではオーストラリア市民だけが外国人印紙税免除となっており、永住権、NZ市民権保有者、サブクラス309か820のビザ、またはリタイアメントビザを保有し、当地に無期限で滞在できる場合であったとしても、外国人扱いとなってしまうケースもあるのです。
具体的には、売買契約書が締結された日から遡って過去12カ月のうち、200日以上当地に居住していなくてはならないという『200日ルール』を満たさない場合です。このルールは2016年7月1日に導入されましたが、ルールが周知徹底されておらず、外国人追加印紙税を支払わず購入を終えたケースが多々あったと思われます。
2021年には税務当局が大規模に調査を開始、移民局からの情報提供を受け、ルールを満たさず不動産購入を行った永住者などに対し、未払い外国人追加印紙税の徴収を行いました。NSW州の場合、印紙税の支払いは契約締結から3カ月以内に行う義務があり、既存の物件であれば、多くのケースで決済時に支払いを行うことになります。
しかし、Off-the-planの物件を購入する場合、契約日から12カ月、または物件竣工時か決済時、いずれかの最も早いタイミングまで印紙税の支払いを延期することが可能という優遇措置が存在します。しかし、『200日ルール』を満たさない永住者はこの優遇措置を受けることができないため、外国人追加印紙税を含め、契約時から3カ月以内に印紙税の支払いをする必要があるのです。
外国人への追加税はLand Taxにも導入されており、現在ACT州、NSW州、VIC州、QLD州が1.1%〜2.25%の範囲で外国人に追加課税しています。
オーストラリア市民、永住者が保有する不動産に対する通常のLand Taxは、投資物件であること、また州ごとに決められている課税最低額を超える物件である場合にのみ課税されます。ACT州には非課税対象はありませんが、VIC州は300,000ドル以上、NSW州は822,000ドル以上、QLD州は600,000ドル以上が課税対象となりますので、ユニットなどは対象から外れる場合も多いでしょう。
しかしながら、NSW州で外国人の扱いを受ける場合、居住者は免税となる自宅物件も追加課税の対象となるだけでなく、最低課税対象額は設定されていないため、全ての不動産に対してLand Taxの外国人追加課税が発生することになります。
上述のように、NSW州は他の州に先駆けて居住実績のない永住者を外国人扱いとし追加の税徴収を行っています。他の州でも今後、同様の制度が導入される可能性は大いにあると言えるでしょう。少なくともNSW州で不動産を購入する場合、永住権を持っていても当地に居住する期間が短ければ税法上外国人扱いとなり、物件購入時だけでなく保有する間、継続して重い税負担が求められることを認識して購入を検討することが重要です。
なお、本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。
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