事故発生時の行動
山岳事故
出典元:ABC Australia
日本と比べて標高の高い山は少ないオーストラリアですが、2,000を越える国立公園・保護区・鳥獣保護区があります。国立公園の数は大小合わせて493カ所と国土面積の約2%を占めており、キャンプやハイキングは人気のアウトドアアクティビティとなっています。
しかし、そうした中で予期せぬ災害や計画不足が原因で、毎年約40人が命を落としています。オーストラリアの原野は起伏に富んでいて美しい反面、展望台や地図上では簡単に進むことができるように見える地形でも、実際に歩いてみると非常に迷いやすくなっています。
また、オーストラリアの国土のほとんどが岩だらけの砂漠で、地形は険しく岩が多い特徴があります。そうした場所では、喉の渇きや過労による熱中症のリスクも高まります。一方、夜間には気温が急降下することもあり、軽くて涼しい服装で出かけて日没後に低体温症になる可能性もあります。
もしブッシュウォーキングやトレッキング中に道に迷ったら、焦って間違った決断をする前にその場に座り、落ち着きを取り戻すようにしましょう。道に迷った人の95%は、ボランティア団体の「SES Bush Search and Rescue」によって12時間以内に見つかっています。
そして、長時間のウォーキングやバックパック・キャンプに出かける場合は、常に準備を怠らないようにしましょう。
オーストラリアの国立公園
オーストラリアの国立公園には、あらゆるレベルや経験に対応した数百ものウォーキングコースがあります。自分のレベルに合ったコースを見つけられるよう、各コースは「Australian Walking Track Grading System:AWTGS」で等級付けされています。
出かける前には、遊歩道・登山道の難易度を示す「Australian Walking Track Grading System」を参照しましょう。
- Grade 1:経験不要。段差や急勾配のない平坦な道。介助者がいる車椅子の方に適しています。歩行距離は5km以下。
- Grade 2:経験不要。塗装された地面で、緩やかな坂道や段差があります。歩行距離は10km以下。
- Grade 3:ほとんどの年齢と体力レベルに適しています。ブッシュウォーキングの経験があることをお勧めします。短い急坂や荒れた路面、段差がある場合があります。最長20kmまで。
- Grade 4:ブッシュウォーキングの経験があることをお勧めします。コースは長く起伏があり、非常に急です。方向指示標識は限られている場合があります。
- Grade 5:ナビゲーションや緊急時の応急処置など、専門的な技術を持った経験豊富なブッシュウォーカーに適しています。コースは非常に荒く険しく、標識もありません。歩行距離は20kmを超えることもあります。
また、散策中には滝に出くわすこともありますが、滝の周りの岩や道は非常に滑りやすく、歩くには適していません。滝の手前にある手すりや柵は、崖から落ちるのを防ぐためのもの。滝壺の底が見えない場合、滝壺に飛び込まないようにしてください。また、滝の水は飲用に適さない場合もあります。あらかじめ、十分な量のボトル入り飲料水を持って行きましょう。
ブルー・マウンテンズのような人気のあるウォーキングエリアでは、地元の警察や国立公園のレンジャーに、ウォーキングプランを登録することもできます。
トレッキング、ハイキング、キャンプの際の注意
山岳事故の多くが予防可能なものです。適切な計画を立てることで、危険から身を守ることができます。トレイルの通行止め、火災や洪水に関する警告、天気予報など関連する情報にも注意しましょう。
険しい岩だらけの地形や、乾燥して割れた木が多いブッシュウォークでは、転倒や怪我をする可能性が高くなります。階段が多いところや急こう配のコースも要注意です。また、人里離れた場所では電話も通じない可能性があり、比較的軽い怪我でも深刻な問題になりかねません。
トレイル上で緊急医療事態が発生し、助けを求める手段がなく、自分がどこにいるのか、いつ戻る予定なのかを誰も知らないという最悪の事態は避けるべきです。なるべく1人で行動せず、誰かが怪我をした場合も1人は怪我人に付き添うようにしましょう。
- 事前にエリアとコースを調べておき、計画したルートから外れない。
- 3人以上のグループが理想的(もし誰か歩けなくなった場合、1人が付き添い、残りの1人が救助を求めることができるため)。
- 天気予報や公園のアラートをチェックし、天候が急変する可能性があることに注意する。
- どこに行くのか詳細を含めて、家族や友人などに伝えておくことも忘れずに。
- 現地のルート標識に従う。
- 自分がどこに向かっているか、何時に帰って来られるかを常にわかっておく。
- ヘビに注意する。歩きながら音を立て、誰かが近づいていることを知らせる(ほとんどのヘビは人間を避けるため)。
- スマートフォンのバッテリーを切る(圏外になるとすぐに消耗してしまうバッテリーを、緊急時のために温存しておくため)。
ブッシュウォーキングでは、適切な装備を持っていくことが重要です。以下のようなものを携帯しておくことをお勧めします。
- ナッツ、ドライフルーツ、チョコレートなどの軽くて高カロリーの食べ物
- 飲料水(3時間ごとに1リットル)
- 暑い天候下では、涼しく通気性の良い明るい服(コットンなど)
- 寒冷地では、暖かく通気性のある明るい服(フリースの上着など)
- 日差しを避けるためにつばの広い帽子
- サングラス
- 日焼け止め
- 防水性があり通気性の良い、スニーカーやブーツのような履きやすい靴
- 足のクッションになる靴下(適度な厚みのウールなど)
- レインコート
- 地図やナビアプリ
- 救助隊に知らせるためのホイッスル
- 懐中電灯
- ゴミ袋
- 救急セット
特に、服装は天候に合わせて調整できるよう、重ね着ができるもの、体から湿気を逃がす通気性の良い素材のもので、遠くからでも見つけやすい蛍光イエローやオレンジなどの明るい色がいいでしょう。
また、多くの場所で購入またはレンタルできるパーソナル・ロケーター・ビーコン(PLB)を携帯したり、「Emergency Plus」アプリを入れておくと安心です。携帯の電波が必要ですが、アプリを通して自分の現在位置情報と助けを求めることができます。
パーソナル・ロケーター・ビーコン(PLB)
PLBは無線発信機で、衛星経由で緊急当局に連絡することができます。国立公園の事務所や警察では、ブッシュウォーカーにPLBを貸し出しているところもあります。
ほとんどのPLBにはGPSが搭載されており、一度作動させると自分の正確な位置を知らせてくれます。PLBが作動したらその場で救助を待ち、自分で帰り道を探そうとしないこと。捜索救助活動は、あなたが見つかるまで続けられます。
救助の必要がなくなってもPLBをオフにしないでください。電波が届かなくなると、PLBの電池が切れた・崖から落ちたと判断される可能性があります。
緊急時や命にかかわる状況でない限り、PLBはオンにしないでください。捜索は有料です。
遭難・滑落した時の対処
滑落や遭難でブッシュウォーキングを続けられなくなったら、助けを求める合図を送りましょう。まずは「000」に電話して警察を呼んでください。GPS、地形図がわかっている場合、警察に自分の位置を正確に伝えることが重要です。緊急オペレーターに負傷者、メンバーの詳細、利用可能な装備(食料、水、テントなど)を知らせてください。
州警察は、ブッシュウォーカー、キャニオナー、クライマーが行方不明または負傷した場合など、州内の陸上捜索救助活動を開始・調整する責任を負っています。遠隔地からの捜索・救助だけでなく、垂直救助・渓谷救助・ヘリコプター作業にも対応できるレスキュー隊に捜索を依頼することもあります。
ただし、オーストラリアでは救急車・医療送還が有料なので、民間の医療保険に加入していない限り、多額の費用がかかる可能性があることも覚えておきましょう。
ブッシュウォーク中に誰かが切り傷や擦り傷で怪我をした場合、グループの1人が助けを呼ぶ間、誰かが負傷者に付き添うようにしましょう。基本の応急手当ての手順は、以下の通りです。
- 止血:除菌シートや清潔な布で圧迫して流血を止める。骨折している場合、骨を圧迫しないように注意する。
- 傷口を清潔に:感染を防ぐため、傷口の汚れや異物を取り除く。ガーゼと包帯を巻き、抗生物質のクリームなどがあれば患部に塗る。
- 患部を固定:骨折の場合、骨が動くのを最小限に抑える。
- 患部を冷やす:保冷バッグや水筒に氷が入っていれば氷水を作って骨折した患部に当てる。なければ、濡らした布を冷湿布として使うとよい。
- 徴候に注意:突然の血圧低下を示す可能性があるので、怪我人が青白い皮膚、発汗、浅い呼吸、吐き気がないか注意する。徴候が見られたら、足を高くして横たわらせて早急に助けを求める。
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