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浦島太郎ともったいないお化け

♦浦島太郎ともったいないお化け♦

私にはシドニーに移住してから約10年にもなる友人のM子がいる。 
残念ながら彼女は今家庭の事情で実家の名古屋に帰国して以来早くも一年になるが、先日久しぶりに電話で話していると、あらまぁー・・」と言わざる事柄が多々あった。

彼女は8年以上シドニーシングル生活をしていたが、良しか悪しか滞在中はオージー生活にどっぷりはまっていたようで、日本に帰国後も電車の中でパンリンゴ、時にはおいなりさんを食べては周りの皆にジロジロ見られ「ふふっ、おいしそうでしょぅーーっ・・」と位にしか、思っていなかったらしいのには驚かされた。
ある日「なんであんたいつもおいなりさんなんか持ち歩いてるの?」という彼女の母の質問で、ようやく今までの周りの視線が”うらやましい視線”では無く、”お下品視線”であったことに気づいたらしい。

そんな彼女は「じゃあ、おいなりさんをお箸で食べればちょっとはましかなー?」と素手でおいなりさんを食べていた事までも披露してしまったらしく、その日を境に、彼女の母が彼女の結婚について一切口にしなくなったと言うのには正直笑えた。 これでは世間の皆様どころか、血のつながった母親にまで見捨てられた嫁入り前の浦島太郎である。

そんな彼女の話は、前部からバスに乗ろうと運転手さんに怒られたり、ビンビールのふたをツイストして開けようとし「お客さん、がっちりされてますけどそれは無理でしょー!?」と近所の居酒屋では”ミス栓抜き”などとどうしようもないニックネームを付けられた事もあったという。

仮に彼女がいわゆる”外人さん”のルックスであれば、あららー、この外人さん最近日本に来たばかりなのねー・・」などと、同情の念を持たれ助けてくれる人もいらっしゃるのだろうが、普段は電話会社のコールセンターで仕事をしているOLの浦島太郎は、普段スーツを着ていることもあるせいか、「あら、かっこだけは一人前なのに教養が無い人だねぇ・・」などと言われたこともあったとと嘆いた。

そんなM子の会社に、新人の派遣社員が2名入ってきたと言う。
二人とも今年の春に高校を卒業したばかりで、ゆうにひとまわりも違う二人を見たM子
、当初理由も無く腹が立ったらしいが、実は二人とも素直でかなりM子をしたっているらしく、ある日3人で近くのパスタ屋さんでお昼をすることになった。
人数で言えば3人なのだが、二人の年齢を足したら丁度M子の歳と同じになる事にふと気づいた彼女は、また理由も無く腹が立ったというが、誰を責めるわけにいかず、とりあえず大人気無い自分を責め、まったく色気も感じさせないままパスタセットをあっさりと食べ終えた。

「ふぅーーっ・・ここのパスタセットってお得よねぇー」などとのけぞり、前の二人のお皿の上に視線を落とすと、付け出しのサラダシャーベットだけ完食し、肝心なパスタが半分ほど残っているのを見て、

あっらー、食べないのー?もったいなーい!もったいないお化けが出るわよー!ふふふっーっ・・」

と笑わせようとしてみたところ「M先輩、もったいないお化けって何ですか?」と真顔で聞かれ”うぅーーっ・・・ ま、まさか知らないの・・この子達・・・”と静かに震えながらも、既に言葉にしてしまった化石OLM子

「む、むかしテレビのコ、コマーシャルでね・・・ だ、大根とニンジンの・・・お、お化けの・・・・」

と真顔で説明するしかなかったらしく、「へぇーーっ、そんなのがあったんですかぁー・・・」と、まるで戦前の歴史の授業でも聞いているかのようにかわされ、会話は消えていったらしいのだ。

海外に長期間住むと、どうやら日本を飛び立った時からの時間が止まっているだけでは無く、どんどん進んでいる日本の文化情報に取り残されてしまう事が多々あるようで、本当に困ったものである。

どなたか、”ペーパードライバー復帰講座”ならぬ”浦島太郎復帰専門学校”などの教育機関を設立して頂けないものだろうか? 

最後に余談ではあるが、もしあの有名な女性作家である家田祥子さんが、このストーリーを基に原作本を出版されたとするならば”つまはじき!嫁入り前の浦島太郎・国際人の危険な罠”などのキャッチフレーズで読者の気持ちを湧きたたせ印税生活を送るのだろうが、残念ながら凡人な私はしばらく竜宮城の出口付近で泥亀とさまよいながら、専門学校の設立を首を長ーくして待つことになりそうだ。 (完)

♦シドニークリエイティブフォトグラフィー♦
http://www.sydneyphoto.com.au/jp/

 

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