♦南米世界遺産旅行: ガイドさんとの思い出 PART2♦ Part1をお読みでない場合は、先にPart1をどうぞ。 PART1リンク:http://web.jams.tv/photo/view/id-63441
私も喉が乾いたので水でも購入したかったのだが、日曜の夕方からか頂上にあるキヨスクもしまっていた。 とりあえず頂上の広場でバルパライソ雄大な景色をカメラにおさめ、ベンチでちょっと休憩してから、今度は来た道と逆の方から坂を降りていくことにした。 ”ここでさっきの犬ともお別れだな、パンでも持ってたらあげれたのにな” そう思いながら、頂上にある階段でぐったり寝ころがったさっきの犬を残し、坂を降りていった。 秋空が広がるバルパライソの街は、赤や黄色に染まった紅葉がとても綺麗で、雪化粧したアルプス山脈とのコントラストがとてもはえて見えた。 さっきの犬はもうついて来なかった。”何ももらえない” そう思ったのだろう。人なつこい犬だから、誰かにまた拾われるといいな。 あんなに賢い犬だしな。 などと思いながら黄色く染まったメイプル落ち葉をザクザク踏みながら坂を降りていった。 丘を半分位降りてた頃には、10人くらいの観光客と20匹以上の野良犬にすれ違った。どの犬も私の事など気にするわけもなく、日なたぼっこをしたり、ただ道路に座ってジーッと遠くを見ていたりとしていた。 ”さっきの黄ばんだ犬に餌くらいあげたかったなー” そう思いながら野良犬達を通り過ぎ、山のふもとに向かって坂道を下っていくと、突然“ダダッ”という音が後方から聞こえた。 振り返ってみると、さっきの黄ばんだ犬がハーハー言いながら私の方へ駆け下りてきた。 犬は、”休憩している間に置いていきやがってー!”と思ったかは知らないが、また私の表情を伺うように見上げて、何も無かったかのように、また私の前を誘導したり、”さっさと歩けよな”と言わんばかりに、私の真後ろを歩いたりした。 私は勝手にこの犬を”ガイドさん”と名付けた。私について来たというよりは、私を誘導してくれるからだ。帰りの下り坂でも、何人もの人にすれ違ったり追い越したり追い越されたりしたのに、ガイドさんは私意外には目を向けない様子だった。 ガイドさんは私が急に立ち止まったり、意地悪をして方向転換して歩き出しても当たり前のようについて来たし、私がベンチで休憩をしたときは、彼も私の足元で休憩し、私が公衆トイレで用をたした時は、彼は私が出てくるのを建物の前で待っていた。 そうこうしている間に、私とガイドさんは山のふもとに到着し、来る時に通り抜けた控えめな門に到着した。 ”もうホテルに戻らないといけないから、あっちに戻りなよ” 私はそう言いながら、降りてきた坂道を指さしてみたが、ガイドさんは私の表情をうかがうようにじーっと見上げたかと思うと、今度は私の前を歩き出し、まるで私の行き先を案内するようにゆっくりと歩き始めた。 山のふもとからバス停まで20分ほど歩いたが、ガイドさんは私から一瞬たりとも離れることなく、私の前を歩いたり、横に並んであるいたり、後ろについて来たりしているうちにバス停に到着した。 バス停でバスを待っている人が、私とガイドさんを見てクスクス笑っている。“あんたの事が気に入ったみたいだねぇ。”などというおばさんもいた。 そう言われると何だかセンチメンタルな気分になった。 “せめてバスに乗る前に何か餌をあげたいな。”そう思ってはみたものの、店どころか民家もほとんどなかった。私も喉が乾いていたので早くホテルに戻りたかったが、バス停のベンチに座った私の足元でガイドさんは寝転びだして、居眠りし始めた。 私とガイドさんがバス停に到着して20分ほど経った頃、こっちに向かってバスが来るのが見えた。 どうやら私が宿泊しているホテル方面に向かうバスらしい。 私は”あのバスに乗るからね” そう伝えるために早めにベンチから立ち上がると、ガイドさんも同じように立ち上がって、私の方を見上げた。 目があってしまうと、なんだか急に悲しい気持ちになった。 動物相手にセンチメンタルな気持ちになったのは人生これが始めてかも知れない。 不思議な感覚だ。 バスが目の前に停車し、バス停で待ってた人々が次々にバスに乗り込んでいくと、私の横で一部始終を見ていたおばさんがにっこり笑って私にこういった。 ”本当に忠実な犬だねぇ。その犬をあんたの所で飼ってあげなよ。 きっとその犬、屋根がある家と愛情を取り戻したいんだよ。 きっと、それだけなんだよ。” すごく心に響いた言葉だった。 私はジーンとなって、次のバスが来るまで待つことにした。 その間ガイドさんは昼寝したり、時々半分目をあけて、私の表情をうかがってまた昼寝の続きをしたりした。こうして私はさらに30分ガイドさんと無言でバス停で時間を過ごし、次のバスが到着した。 “気付かないうちに辺りも随分暗くなってきたし、今度はこのバスに乗らないと・・・。“ そう思いながらガイドさんに話しかけてみた。 ”バスに乗らないといけないんだ・・。じゃあね、もうついて来たらだめだよ・・。” 私はガイドさんにそう言って、到着したバスに乗り込もうとすると、ガイドさんもバスに乗り込もうと両足をバスステップにかけたところ、バスの運転手さんに怒られてしまい、その後すぐバスは出発した。 私はガイドさんが最後まで見えるようにバスの一番最後に席を陣取ると、ガイドさんがゆっくりバスを追いかけながら走ってきたのが見えた。まるで映画かドラマのシーンのようだった。 私はいたたまれない気持ちになってどんどん小さくなっていくガイドさんをずっと見届け、ついに角を曲がってガイドさんが見えなくなったとたん、とても悲しい気持ちになった。 ”見知らぬ野良犬なのに、変だなこんな気持ち。ガイドさん早く誰かに拾われるといいな。” 私はバスの中でガイドさんの事ばっかりを考えていた。これがシドニーの出来事だったら、獣医に連れて行って色々検査してもらって、それから家でシャンプーしてやるのになぁ。と色々起こらない想像までしてみた。 その夜、ホテルに到着してからもガイドさんの事が頭から離れなかった。朝起きたらホテルの前にいたらどうしよう。それはないと思うけど、居たらちょっと嬉しいな、でもそれは困るか・・。 翌朝“もしかしたら・・・”そう思って部屋の窓からホテルの入り口を覗いてみたが、ガイドさんの姿はなかった。 私はちょっとがっかりした気分のままタクシーにスーツケースを押し込み、サンチャゴの空港に向かった。 空港までの道のりで、昨日ガイドさんと過ごしたサントドミンゴの丘が遠くに見えた。昨晩はかなり寒かったのか、サントドミンゴの丘にも雪が積もっているのが見えた。 ”ガイドさん、どこか暖かいところで寝れたかな・・。” こうして私は南米世界遺産の旅で、ガイドさんからなにか大切な気持ちを学び、ガイドさんとの思い出を胸に収めて帰国した。 今度またチリに行く機会があれば、またガイドさんに会いたいな。 今度はあそこのキオスクはあいてるといいのにな。 私の胸の中の世界遺産がまた一つ増えた気がした。 (終)
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チリのバルパレイソ市内 |
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