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出産直後、赤ちゃんが「おぎゃあ」と泣いて肺呼吸をはじめてすぐ、助産婦さんが
ポンと赤ちゃんを私の胸の上に置き、お乳を飲ませるように促してくれた。
でもどうやったらいいか良く分からない。
とりあえず赤ちゃんの口元に乳首を持って行って、何とか唇に触れさせる。
するとほんの少し、乳首の先から黄色味がかった白色のトロリとした液体が出てきて、それが赤ちゃんの口の中に入ったようである。
これが出産直後の母親から出てくるという「初乳」である。
この初乳には分泌型免疫グロブリンAという物質が含まれており、赤ちゃんののどや腸の細胞に免疫力を与えるそうである。
分泌型免疫グロブリンAは異種のタンパク質を吸収させないので、牛乳アレルギーを予防するらしい。
さらに初乳には殺菌力もあって、初乳を飲んだ赤ちゃんは、はじめからミルクを与えられた赤ちゃんと違って
腸内の大腸菌が少なく、有益なビフィズス菌が多いそうである。
赤ちゃんの免疫力を高めたり、細菌を防いだりするいいことづくめの初乳だが、母乳の役割はそれだけではない。
母乳を与える行為そのものが母と子の絆を確実なものにしていく。
母親としての仕事の第一歩は授乳することだと言っても過言ではない。
ところがこれがまた誰も事前に体験したことはなく、かつ、実に動物的な行為なので、
普通、女性は誰でも「本当にお乳が出てくるのかしら」「うまく飲ませることができるのかしら」と不安で一杯になる。
やっと出産を乗り越えたと思ったら、次のハードルは「授乳」なのである。
私は幸い出産の翌日からよく母乳の出る体質で、お乳の出が悪くて困ることは無かったが、
それでも「若葉マーク」の母としては、授乳するときの赤ちゃんの抱き方、吸わせ方などは最初勝手が良く分からず、
看護婦さんの助けで何度か練習してようやく体得した。
一方赤ちゃんの方も、最初から上手に吸ってくれるわけではなく、はじめは看護婦さんに
唇がちゃんと乳首に触れるよう頭を動かされ、ようやく吸い付いてもすぐ離してしまったりして、
お互い何度かの練習のうちに、上手に吸える向きとか角度とかのコツを覚えていく。
こうした共同作業の中で絆はますます強くなり、
うまく出来るようになると、授乳の時間は母と子どちらも満ち足りた限りなく幸福なひと時となる。
実際、小さな赤ちゃんが母親の指を握り締めながら力いっぱいお乳を吸っているとき、
母親は命そのものを自らの身体から与えている。
赤ちゃんは身体の外に出てきても、こうして母親から惜しみなくエネルギーと栄養を奪っていくのだが、
そこからどんどん赤ちゃんが目に見えて大きくなっていくのを目にするのは母の喜びである。
そして母乳はまた妊娠中に太ってしまった身体を、無理なく元の体型に戻す役割も果たしているようである。
赤ちゃんは生まれたときは約3kgだが、1年後には10kg前後になる。3倍以上に成長するわけだが、
その半分は母乳からの養分によるとすれば、いかにたくさんのエネルギーを、母親が母乳という形で
供給しなくてはならないか分かるだろう。
(さかな)
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