10年前の2002年、オーストラリア人の渡航先ベストテンは、1位はニュージーランド。何といってもお隣で近いから当然ですね。2位は、英国で、3位は米国でした。それがいまでは、1位のニュージーランドは別として、英国が5位に落ち込み、インドネシアが2位に、3位は変わらず米国で、顕著なのが、タイが6位から4位に、中国が8位から6位に、そして欄外のインドが10位に入ったことです。
特にタイ、中国、インドは13〜15%の伸び率を示すほど急成長している訪問先です。そして中国が英国の後を襲い、ニュージーランドに次ぐ訪問先になるのは確実な勢いです。「オージー観光客は、ビッグ・ベンよりも万里の長城を目指す」という記事が掲載されるほど、オーストラリアにおける中国パワーの影響は大きいようです。
2011年にオーストラリアを訪れた中国人観光客は54万2,000人で、中国を訪れたオーストラリア人は35万人です。また、オーストラリアを「絶対に行きたい国」と考えている中国人は64%に上っています。
もちろんこの背景には、このところの資源ブームにおける中国の存在があります。貿易では輸出入ともに中国が1位となり、また多くの資源会社がオーストラリアに進出していますし、鉱物資源のみならず、農業や食品分野でのオーストラリア企業の買収事例は、中国が47.2%とダントツです。最近では、中国企業によるオーストラリアの農地買収が問題になっていますね。
シドニーの街を歩いていても、アジア人の顔をよく見かけます。行き交う人のほとんどがアジア系というのが実感ですね。そんな中国パワー、かつてのバブルの時代の日本パワーのような雰囲気ですが、はたしていつまで続くのでしょうか。
いま、オーストラリアはアジアの世紀に突入しているわけです。しかし、距離は近くても文化的には遠い存在のアジア、「近くて遠い国」のアジア諸国にどう向き合っていくのかが問われています。文化的、社会的な結びつきを深めるのは、石炭や鉄鉱石を輸出するようには、そう簡単なことではないわけです。ましてアジア市場をターゲットにオーストラリア企業が進出し、サービスを展開するのは至難の道です。
2011年9月に発表された政府の「アジア白書」では、アジアの世紀に向かってオーストラリアは進まなければならないと示唆していましたが、資源ブームに沸くオーストラリアが文化的にもアジアとの距離を縮めていく方策はそれほど簡単ではありません。教育現場における中国語の学習も、それほど伸びているわけでもなく、Non-backgroundの子どもたちの学習者は減っています。先日、もっとアジアの言語教育に力を入れるべきだと、ラッド前首相がコメントを出していましたが、どうも経済にばかり偏ったアジアの世紀のようです。
これは、経済的にオーストラリアは「二速経済」だということと同様に、文化的、社会的にも経済と比べると「二速現象」が現れているようです。「二速経済」は急激に進展する資源業界と、追いつくどころか落ち込んでしまっている非資源業界。つまり、産業界は経済発展のスピードが大きく異なる業界で二分され、そして経済格差が生じているのが現状です。
それが、経済と文化や社会とを比べてみた場合、発展や理解のスピードが大きく異なる「二速現象」が生じているというわけです。はたして経済発展と同様に、文化的にも追いつき追い越せるくらいのアジア理解が進んでいくのでしょうか。そして、そのアジア理解は中国やインドが中心で、日本は取り残されてしまうのでしょうか?
(水越)
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