オーストラリア政府は1990年代に移住者の受け入れを、家族中心から技術中心にシフトしてきて、現在、年間で約17万人の移住者を受け入れています。
移住者にとってオーストラリアはあこがれの新天地、自由と幸福を求めて世界中から人々がやってきます…と、そんなイメージを持っていましたが、どうもそうではないようなんです。
もちろん多くの移住者にとっては、オーストラリアは新しい生活をスタートするのにふさわしい国としてあります。母国に比べると生活満足度も高いわけで、それはそうですね、内戦や経済不安な国を逃れてやってくるわけですから、新天地オーストラリアの生活は十分満足に値するものです。
ところが、移住者に聞いてみると、人種差別や犯罪におびえている姿が見えてきました。抱いていたイメージとは逆に、オーストラリア人はそれほど親切でも、フレンドリーでもないというのです。
これはモナシュ大学による調査で、移住者の多くが夜のひとり歩きや、犯罪に巻き込まれることを不安に思っているのが明らかになりました。(Mapping Social Cohesion Report 2013, Monash University)
調査によると、オーストラリア国民と比べて、最近20年間に移住してきた人々は、自身の肌の色や信仰などで、ほかの人との違いによる疎外感を感じているというのです。
最近の移住者が新しい家やサービスの質に満足度を示す一方、オーストラリアの国民性を問う質問には、「(オージーは)世話好きで、親切で、寛容だ」と答えた人はわずか3%(インド・スリランカ4%、英国3%、米国・カナダ7%、ニュージーランド1%など)で、1990年代の同様の調査から大幅にダウンしています。
移住者でも、英語圏からと、非英語圏からの人々とでは、オーストラリアの生活になじむ度合いが違うようです。中国やインド出身者は、英国や北米からの移住者よりも、オーストラリアの市民権を取得する率が非常に高いです(中国94%、英国71%、米国・カナダ70%、ニュージーランド45%など)。また、「人種差別を感じたか?」という質問では、英語圏の出身者より、非英語圏出身者のほうが約2倍も人種差別を体験しています。
経済的に満足しているかどうかの質問に、オーストラリア人の平均では71%が「非常に満足」または「満足」と答えているのに対し、移住者は43%しか満足していません。また、オーストラリアは一所懸命働けばよい暮らしができ、長期的に経済安定していると考える人は、オーストラリア人の平均(82%)より12ポイント低い70%です。
この違いは当然、生活の満足度にも現れていて、「昨年1年間を振り返ってあなたは幸せでしたか?」の質問に、「非常に幸せ」・「幸せ」と答えた人は64%で、これは全国平均の87%よりかなり低い数値です。移住者はかなり悲観的なのでしょうか?
「オーストラリアのどこが好きか?」の質問に、以前は「フレンドリーな人々」(36%)、「気候」(33%)、「ライフスタイル」(20%)と答えていたのが、最近の移住者は「ライフスタイル」(24%)、「生活の質」(18%)、「自由」(12%)と答えています。
興味深いのは、各種機関や職種に対する信頼度です。移住者にとって最も信頼できるのは、医者(82%)、病院(80%)、医療保険(メディケア)(79%)、警察(75%)ですが、テレビのニュースや会社の社長は58%と半分強の信用しかありません。移民局に対しては53%とさらに信頼度が下がります。不動産業者の25%や政党の21%は、やはりどこの国もそうなのかと思ってしまいます。
この信頼度をオーストラリア国民の平均と比べてみると、特に会社の社長の信頼度が76%に対して57%と低く、また政党(39%/21%)、連邦議会(46%/31%)、労働組合(48%/36%)と、いずれも平均より大きく信頼度が下がっています。
また、「ほかの人を信用できますか?」という質問に最近の移住者の31%が信用できると答えていますが、これは全国平均の45%と比べてかなり低い数値です。移住者はオーストラリア人のことを信用していないのでしょうか。
国別では、英国・アイルランド出身者の41%が信用できると答えていますが、インドネシア・マレーシア(20%)、ニュージーランド(22%)と、出身国により信用の度合いに差があります。ニュージーランド人は国民性の質問でもオーストラリア人をよく思っていないようですし、お隣の国をあまり信用していないことが明らかになりましたね。近すぎる隣国だからこそ、愛憎の感情も深まるのでしょうか。最近の日韓、日中の関係にも現れているようですね。
さて、移住者も長年生活していると次第に「オーストラリア人」を意識するようになってくるのかなと思うのですが、自分自身をどう規定するかという質問には、「オーストラリア人」(74%)、「個人としての自分自身」(73%)、「いま住んでいる地域の人」(64%)、「出生国の人」(57%)、「世界市民」(54%)などと答えています。ただしこの回答は1990年代に移住した人たちの回答で、2000年代の移住者は、「個人としての自分自身」(67%)、「出生国の人」(64%)が高く、オーストラリア人はまだ52%と低い数値です。移住してきて10年以内なので仕方ないのかもしれません。
アイデンティティの確立には少なくとも10年以上の年月が必要なのでしょうか。
残念ながらこの調査では、日本人は母数が42人と非常に少ないため、回答結果として現れていません。それでもこの結果を見て、日本人として皆さんはどう感じられますか?
市民権取得率がニュージーランド人と同様にかなり低いとは思いますが、国民性に関しては、日本人の多くがオーストラリア人を「世話好きで、親切で、寛容」なフレンドリーな人だと答えることでしょう。
(水越)
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