ゼロックスグループは世界160カ国をカバーし、その中で富士ゼロックスは日本、アジア、オセアニアを担当する。オーストラリアでは約20カ所の拠点を通じて、プリンター、複合機、デジタル印刷機、ドキュメント・アウトソーシングのビジネスを行なっている。2012年6月から富士ゼロックスオーストラリアに駐在している山川裕士(さんがわ・ひろし)氏に、2016年4月の3カ国目の駐在先シンガポール渡航を前に、4年間の駐在生活を振り返っていただいた。
海外で働くつもりで入社しました
大学時代にバックパッカーでヨーロッパ、アジアを回っていたので、何となくですが海外で働きたいという思いはありました。富士ゼロックスを選んだのは米国のゼロックスの資本が入っていて海外で働けるチャンスが高いのでは、と思ったのが強い理由でした。入社して以来、海外勤務希望だったので希望が実現し、会社に感謝しています。
富士ゼロックスの海外駐在は一般的に2〜4年くらいですが、会社の方針によって多少短くなったり長くなったりします。私はもうすぐ駐在丸4年になります。富士ゼロックスの海外現地法人の運営は基本的に現地に任せます。大きなグローバル戦略はもちろんありますが、海外ビジネスはその国の人とやり方に任せる‘現地化’を長年徹底しています。各国のお客様のニーズにすばやく対応するにはやはり現地化が一番です。
2003年から2006年までフィリピンで最初の海外駐在を経験し、日系企業営業支援とフィリピン人営業への営業教育がそのときの主な業務でした。その後東京に帰任し、日本を代表する超大手企業の営業を6年務めました。2012年にオーストラリア赴任の辞令を受けた時はビックリしました。どちらかというと、ワイワイと活気があって高い成長が見込まれるアジアの新興国に行きたいと思っていました。
オーストラリアでの現在の業務は在豪日系企業への営業支援と、富士ゼロックス全社重点施策「言行一致」の推進リーダーを務めています。
※言行一致とは、富士ゼロックスが販売する製品(ハードウェア、ソフトウェア)をまず自社内で使い、業務効率化やコスト削減を自社で実現し、そこで蓄えたノウハウや活用術を製品と合わせて顧客に提供する活動。顧客は製品導入後に本当に効率化できるか、従業員が使いこなせるか不安なもの。いいことばかりではなく失敗談も惜しまず提供することで導入後の不安を解消し、顧客に安心して製品導入に踏み切ってもらう、という施策。
飲みに行くのも大事なコミュニケーション
一般的に日本では海外駐在勤務は難しい、ハードルが高いと思っている方は多いのではないでしょうか。でも意外とやってみれば皆さんできるんじゃないかと思います。ただ駐在員として難しいのは、日本の本社からの期待と現地赴任先からの期待が違うということだと思います。両方の期待に沿うようにしたいですが、なかなかうまくいかずいつも悩んでいます。
過去経験をしたフィリピンとオーストラリアでの駐在業務を比較してみると、私の場合、仕事内容はそれほど大きくは変わりません。しかしフィリピンとオーストラリアでは市場特性が全く違いますし、何よりも同僚の働くモチベーションやワークスタイルが全然違います。個人的ですが、コツをつかめば、フィリピンのほうがやり易いですね。やはり同じアジアの国ということでしょうか。
現地の社員たちとは時間をかけて会話を増やしていくと信頼感も高まります。特にオーストラリアでは一緒にお酒を飲むことがコミュニケーション向上に非常に大事なことだと思います。Pubで一杯やりながらスポーツや家族、そのほか他愛もない話をするとその後の業務でのコミュニケーションがとても楽になり、深い会話もやり易くなります。フィリピンでも同僚との‘飲みニケーション’はとても大事でした。フィリピンではビールとラム酒、オーストラリアではビールとワインをたくさんいただきました。二日酔いにもたくさん苦しみました(笑)。
業務でのコミュニケーションはMake Senseが大事
私は決して英語が上手とは言えませんが、昔から英語を話すのは好きで、日本でも英会話学校に通っていました。英語を話すときは全神経を集中させていたので、いろいろな嫌なことを忘れるストレス解消にはピッタリでした。
幸いフィリピンもオーストラリアも英語で仕事や生活ができるので、これまでに致命的に困ったということはありません。ただ、私に都合の悪い内容はフィリピンではタガログ語、オーストラリアではスラングを使って、みんなお茶を濁しますので、詳細はもちろん分かりません。そういうのは気にしないことにしています。
オーストラリアでは、自分の英語力がNative Speakerとはものすごくかけ離れた(低レベルな)ものだと気づかせてくれました。日本ではグローバル化に向け英語教育に力を入れていますから、このオーストラリアのNative力は魅力だと思います。
仕事上、日本とオーストラリアではコミュニケーションの違いは大きいです。オーストラリアでは依頼内容がMake Sense(道理にかなう、筋が通る)しないと相手は納得しません。上司だからとか、偉い人だから、会社の方針だからしょうがない、という日本でよくある理由では人は動きません。以前、悪気があったわけではないのですが、同僚を怒らせてしまいました。どうやってなだめようかと考えて、日本風に謝り続けました。でも許してはくれませんでしたね。(笑) どうして謝るのかきちんと理由を示さないと、つまりMake Senseしていないとダメなんです。最終的には許してくれましたが、いかにMake Senseするかというのが大事ですね。「以心伝心」はないと思ったほうがいいでしょう。
オーストラリアは、治安や経済力、英語、教育水準、インフラという意味では仕事はやりやすいですね。ただ、欧米を中心としたビジネススタイルが染み付いたオーストラリアでは、日本をはじめアジア式のやり方は簡単に受け入れてくれません。オーストラリア人のビジネススタイルにMake Senseするように発信しないといけないと思います。
シドニーでは家族と快適に過ごしています
シドニーには家族で赴任しました。家内と中学生の長女の3人暮らしです。家族が安全に安心して住めるので大変快適に過ごしています。苦労といえば、日常生活でのさまざまな契約(保険、銀行、携帯電話、車、住居)がすべて私の名義のため、手続きにしょっちゅう時間がとられることです。そのほかは、週末ゴルフに出かけるときの家族からのイヤミくらいです。
大きく変わったことは、5時起床22時就寝の早寝早起きになったことです。日本にいた時は帰宅が夜10時を過ぎることも少なくなかったのですが、こちらでは夜7時半には家で家族と一緒に晩御飯を食べます。食事をしながら子どもと学校について話をすると現地の学校でのいろいろびっくりする話を聞きます。そういう学校生活を送ってこういう大人になるんだ、と自分の仕事での同僚の価値観や接し方にとても参考になります。ただし、家族の会話が増えるということは、喧嘩も増えるということで困ったことです。
実はオーストラリアは田舎だと思っていました
十数年前の新婚旅行の行き先で家内はオーストラリアを強く希望しましたが、私はあんな田舎には行きたくないと押し通し、結局新婚旅行は英国でした。そのくらい私にはオーストラリアのイメージは強くなかったですね。街を走る車にボロボロの中古車が多いと思っていましたし。ところが来てみると、ピカピカの新車ばかりで本当にびっくりしました。
こちらはゴルフ場が近くにたくさんあり、しかもリーズナブルなので気が置けない友人たちと毎週プレーを楽しんでいます。オーストラリアならではとなるとサーフィンにチャレンジと言いたいところですが、泳げないし水もサメも怖くてできません。オーストラリアに来る前はもっと釣りをしたいと思っていましたが、まだ両手に少し余るくらいしかやっていません。五目釣りよりもターゲットの魚を狙った釣りをしたいです。
オージーの前向きな生き方を日本に輸出したい
駐在員は一時滞在者です。つまりその国に住まわせてもらっていると考えています。「日本のやり方はこうだ」とか「日本のほうが優れている」と考えるのはナンセンスです。その国の良いことを見つけ、持って帰れるものは持って帰りたいと思います。そういう意味で感じる点ですが…
「苦労は買ってでもしろ」という考えはオーストラリアにはなく、いかに上手にショートカット(近道)するかという発想から生まれる業務効率主義は、日本人は参考にするところはあると思います。日本では社内の打ち合わせ資料作成にすごく時間を費やす場合があります。でもオーストラリアでは分厚い資料は使わず会話中心で、資料はあっても箇条書きのメモ程度です。
異なる他人の価値観を認め、差別・いじめを解決しようとする学校・職場・社会の取り組みは素晴らしいです。細かなことを気にせず、嫌なことはすぐ忘れる、自分の人生はHappyと信じる前向きなオーストラリア人の生き方は日本に輸出してもらいたいです。
日本に帰ったら…
実は、日本語字幕スーパーの映画が恋しいんです。こちらでは映画(英語)に必死についていかないといけないので、疲労度が違います。日本語字幕があれば中国、フランスどこの映画でも楽しめますし。
でも、日本に帰ることになったら、まず温泉とEXILEのコンサートに行きたいです。
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