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ハリウッドや国内エンターテインメント業界で活躍する俳優・宇佐美慎吾氏が語る、オーストラリア、役者、映画制作(俳優/ボイスアーティスト)

「あっ、この人見たことある!」写真を見てそう思った人もいるだろう。

最近ではアンジェリーナ・ジョリー監督作品『Unbroken』や『ウルヴァリン:SAMURAI (The Wolverine)』にも出演、シドニーを拠点にハリウッドやオーストラリアのエンターテインメント業界で活躍する俳優・宇佐美慎吾。

この業界に身を投じておよそ20年、オーストラリアで流れるCMや映画などで、兵隊やビジネスマンや父親役として日本人を演じてきた彼が、映画やテレビでは描かれないオーストラリアで暮らす日本人の日常を描く短編映画『RICEBALLS』の制作を手掛けた。

オーストラリアを、役者を、映画制作を語ってもらった。

 

日本語教師として、アメリカ、そしてオーストラリアで活動

オーストラリアに来る前はアメリカに3年間住んでいました。ウィスコンシン州での日本語教師アシスタントのプログラムに参加して、その後大学院に入学、「この後、仕事どうしようかなー」と考えていたときに、ジャパンファウンデーション(国際交流基金)でオーストラリアとニュージーランドに日本語教師を派遣するプログラムがあることを知って応募したんです。

1996年にオーストラリアに来て、2年間の日本語教師の派遣プログラムに参加した後は、キラウィー高校にある日本語たんけんセンター(http://guides.education.nsw.gov.au/tanken_centre)で、「初代・日本のお兄さん」として、生徒たちといっしょにいろいろなアクティビティをしていました。

 

まさかオーストラリアで役者をすると思っていなかった

子どもの頃から演じることに興味があって、日本でもちょっとやってたんですよ。学生の時に養成所のようなところにも行ったし、社会人の素人劇団に入って、年に1、2回芝居をやってました。

オーストラリアで初めて舞台に立ったのは来豪して2年目に、モスマン高校で日本語を教えているときでした。新聞でアジア人の俳優募集の記事を見て、オーディションに行ったんです。「利益が出たらみんなで折半しよう」という感じのかなりゆるい芝居だったんですけど、それをたまたま見ていたエージェントが拾ってくれて、その後の俳優活動のきっかけになりました。まさかオーストラリアで役者をするとは思っていなかったんですけど、やってみたらおもしろかったんですよね。

日本語たんけんセンターで働いている間も役者関係のことをやっていたんですけど、フルタイムで仕事をしていたのでいろんなオーディションに行けなくて、いろいろとフラストレーションがたまっていたんです。それで、2000年に永住権が取れたことをきっかけに、2001年に仕事を辞めて、役者の仕事を本格的にやっていこうと思って…。すぐにはいろいろな役はつかなかったですけど、細々とやっていましたね。演劇の学校に行ってみっちり勉強した経験がないので、実地でいろいろ学びながらやってきたって感じですね。仕事を辞めた当時はすでに30歳を超えていましたから、けっこう遅いスタートだったんですけどね。

よく「フルタイムの仕事を辞めたときは思い切りが必要だったんじゃないの?」と聞かれるんですが、当時はそういった感覚はなかったように思います。今考えたら不安になって当たり前だと思うんですけどね。とりあえずやっと永住権も取れたし、別に縛られていることもないのかなって、とりあえずやってみようと思ってたんでしょうね。仕事を辞めた後も、小学生や大人に教えたりとか、国際交流基金のシドニーセンターでちょくちょく仕事をさせてもらったりしているので、結局日本語教育から足を洗えていないんですけどね。

 

人種の多様化が遅れているのはオーストラリアの映像業界でも

日本人がオーストラリアで俳優として活動していくっていうのは、今でも難しいですよ。日本人の男って兵隊役とかビジネスマンくらいしかないですからね。もう兵隊は嫌っていうほどやりましたから。でも女優さんたちから言わせると兵隊の役があるだけマシだと言われます。

やっぱりいまだに白人以外の役者さんは使われないんですよね。アメリカとかイギリスでも言われるんですけど、オーストラリアはそれに輪をかけて業界内における人種の多様化が遅れているんです。

たとえば大手企業のCMやPRビデオを見てもみんな白人で、でも実生活ではそのサービスや商品を利用しているのは大多数が白人以外だったりもするわけで。オーストラリアの多様性のある社会と業界がかなり隔離しているんですよね。そういった、どうしても越えられない壁が最初にあって、さらに言葉や文化の壁もある中でやっていくっていうのは、正直賢いとは言えないなと自分でも思います(笑)。

 

さまざまな壁に風穴を空ける「自主制作映画」

日本人の男性も、もちろんオーストラリアの社会で普通に生活しています。現地の人と結婚したり、子供が産まれたり。でも、そういったオーストラリアで暮らす日本人の日常の姿っていうのはテレビや映画で描かれていない。待っていても誰かが書いてくれるわけじゃありませんから、「じゃあ自分で書くしかないかな」と思って、最近は自分で映画を作っているというのもあります。 やっぱりチャンスが少ないと言っているだけではいけませんからね。いろんな人の目に触れるチャンスを作りたいと思っています。

ずっと前から作らなきゃと思ってはいたんですけど、たった10分の映画を作るだけでも1年はかかるし、お金もかかる。役者や制作スタッフを集めるのも、かなりの労力がいるんですよね。今までは誰かの企画に協力していろんなことをやってきたんですけど、これからは自分が主体となって作っていくことにも力を入れたいと思っています。

監督、プロデュース、脚本、主演を務めた短編映画『RICEBALLS』は、シドニーで暮らす日本人の健二と息子のジョシュが、昔ながらのおにぎりをきっかけに心を通わせていく話で、オーストラリアで生活する普通の日本人の姿を描いています。先日(2016年4月下旬)カナダで行なわれた「トロント国際こども映画祭(Toronto International Kids Film Festival)」で上映することができたのですが、「ぜひ、うちでも見せたい」と言ってくれている業界関係者もいくつかあって、いろいろな広がりが見えてきたことがうれしいですね。

 

これだから俳優はやめられない!

俳優をなんでやっているのか…、なんででしょうね? やりたいからやっているんですよね。ただ子供の時から好きだったんでしょうね、演技をするっていうのが。役者の仕事っていうのは、たとえすごく売れている人であっても、そんなにしょっちゅうあるものではないんです。だから仕事が入った時の「お! 取ったー!!」ていうよろこびがあって。CMにしろ、映画にしろ、好きなことをやっている時間ってすごい幸せなんです。それがあるから、ずーっと仕事がなくて、もうだめだと思うことがあっても、やっていけるんだと思います。

 

役者以外の顔

普段、自分でもどういう生活してるかわからないんですよ(笑)。役者の仕事をやってると、いつどんな案件が入ってくるかわからないので、予定が立てられないんです。だからちょこちょこ仕事をやるって感じで。でも、ラッキーなことに、いろんなところに首を突っ込んでいるので、SBSのラジオや、ボイスオーバーの仕事などをいただけたりしています。以前勤めていた日本語たんけんセンターにカジュアルで働くこともあって、そこでの仕事も結局はパフォーマンスなので、演じることにつながっていますね。それから、じつは最近、マッサージセラピストとしても働いています。

 

国境を越え、挑戦することもひとつの案に

オーストラリアはいろんな文化の背景を持った人たちが暮らしているので、いろんな体験ができるのがおもしろいですよね。でも、ずっとシドニーにいていいのかなー、ってのもあります。生活の基盤ができていて、それは大事なことなんですけど、そこに甘んじちゃっているのではと思うこともあって。別のところに行ってチャレンジしたほうがいいんじゃないかなっていうのも考えたりします。でも、いろんな人脈を細々と作ってきたから仕事ができている部分もあるし、それを大事にしたほうがいいのかなとも思うし。そのあたりは悩むところですね。でも、基本的に仕事があるところだったらどこでも行きたいと思っています。

 

 

宇佐美 慎吾(うさみ しんご)/俳優・ボイスアーティスト

1997年からオーストラリアや日本の映画にテレビ、舞台などのマルチメディアで活躍。出演代表作に、映画『Unbroken』や『ウルヴァリン:SAMURAI (The Wolverine)』、舞台『ミス・サイゴン』のオーストラリアツアーなどがある。2015年に自ら監督、プロデュース、脚本、主演を務め、トロント国際こども映画祭(Toronto International Kids Film Festival)に出品された短編映画『RICEBALLS』では、日本の文化に誇りをもちながら、多文化社会のオーストラリアで暮らす在豪日本人の姿を描いた。 http://www.shingousami.com/

 

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