竹若敬三シドニー総領事に聞く
このほどシドニー総領事として着任された竹若敬三(たけわか・けいぞう)総領事は、これまでイタリアやインド、フィリピンに赴任され、シドニー着任前は国際協力局審議官(地球規模課題担当)・NGO担当大使を務められていました。馴染みやすく開かれた総領事館を目指し、何でも気軽に相談してもらいたいと話す総領事に、日豪関係や、シドニーの印象、日系コミュニティーへのメッセージなどを伺いました。
-シドニーは美しい街
10月30日に着任してまだ3週間ほどですが、これまでオーストラリアに来たのは、1991年に出張でキャンベラに数日滞在したのみです。赴任する前から、オーストラリア人は親日的だということは皆さんから聞いていましたが、シドニーの印象は、まず美しいこと、治安が良いこと、そして親日的という3点ですね。
美しいというのはこの港と海と、都市ということもありますが、空気がきれいだと感じます。日本人にとってはありがたいことですね。
-世界の開発課題でNGOと対話
シドニーに着任する前は、国際協力局審議官(地球規模課題担当)兼NGO担当大使を務めていました。地球規模課題というのは、保健や防災、環境など、地球規模で問題となるような課題に対応するというものです。例えばエボラ熱がアフリカで発生した際に、地球全体に影響を及ぼしますから、国際社会全体でどのように対応するか、各国がそれぞれどのくらいレベルアップしなければいけないのか、ということを検討します。また、気候変動も手遅れにならないうちに対策を講じましょうということです。
これらの地球規模課題を総合したのが国連の「アジェンダ2030」です。2030年までの世界各国の開発目標ですが、防災や温暖化対策、都市のインフラ開発、妊産婦の死亡率の低下など、世界各国の課題を横断的に見ていくということです。
今年はG7の「伊勢志摩サミット」で重点的に取り上げられた保健の分野に関して担当していました。このサミットでは、さまざまなNGOの方々と対話をしてきましたが、非常に勉強になりました。今ではNGOと政府との関係も開かれたものになってきていますし、外務省としても意識して取り組んでいるところです。
-最も印象的だったのはミンダナオの和平合意
2011年にフィリピンのマニラにある日本大使館に赴任しました。フィリピン南部のミンダナオ島では1970年頃からイスラム教徒とキリスト教徒の人たちとの間で紛争が表面化して武力衝突が起きていました。この和平合意が2014年に達成できたのは、日本政府がその仲介をしたからです。2011年に日本でフィリピンのアキノ大統領とモロ・イスラム解放戦線(MILF)のムラド議長による初めてのトップ会談が行われました。この会談が和平交渉の大きな転換点になりました。交渉当事者間の信頼関係を築く上で、トップ会談は非常に画期的なことでした。日本としては非常に大きな貢献をすることができたのです。
マニラに着任した頃は、ミンダナオで夜、出歩くということは危険な状況でした。それが2014年夏に現地に出張しましたら、雰囲気がまったく変わっていました。夜間に女性が歩いているなど、和平が達成できて生活がガラッと変わっていました。まさに和平合意の成果を肌に感じることができました。
-現場に足を運んで、皆さんと交流をしたい
日本企業の皆様が活躍されている場所ですとか、歴史上由緒のある場所など、いろいろな場所に実際に足を運んでお話を伺いたいと思っています。私自身、現場が好きです。皆様から、こういうところに来てほしいという要望があれば行きたいと思いますし、できるだけ多くの場所を回りたいと思っています。
着任してからの3週間の間でも、さまざまな会議や会合に出席させていただきました。また、名古屋市の方、日本武道館の方が来られました。非常に多くの方々が来られているのだなと思いましたし、そのような人と人との交流に関わりたいと願っています。
シドニー赴任の辞令を受けてから出発までの間に、いろいろな政府機関や財界へご挨拶に伺いましたが、そのなかで日本とオーストラリアの関係が密接で深いということを非常に勉強させていただきました。
経済面でのオーストラリアとの関係は非常に重要だと認識しています。さらに人的な交流、あるいは文化交流、またスポーツの交流といった面に特に力を注ぎたいと思っています。また、こちらでは日本語の教育も熱心だと伺っていますし、そういう人的な交流はもっと伸びる潜在性があるのではないかと考えています。このような交流を深めるためにも、総領事館として努めていきたいと思います。
もとより3万人以上いらっしゃる日系コミュニティーの皆様の安全と安心のために、精一杯尽力したいと考えています。総領事館の敷居を低くして、皆様からお話を丁寧にお伺いし、相談を受けやすいようにしたいと考えています。総領事館に対して、ご質問やご意見などありましたら、ためらわずになんでもお気軽にお声がけをしてください。皆様にとって馴染みやすい総領事館にしたいと思います。
-日豪関係をさらに高いレベルに発展させたい
日豪関係は、日本にとって非常に重要な関係に高まっていると思います。例えば外務省内ではオーストラリアは「欧亜局」というヨーロッパを担当する部局の管轄でした。それが1990年代に入って、オーストラリア、ニュージーランドは「アジア大洋州局」になって、オーストラリアを見る位置付けが高まったといえます。これはやはりオーストラリアにとって、日本を含めてアジア・太平洋は非常に重要な市場だということでもありますし、日本にとってオーストラリアが資源・エネルギーや食料での重要な輸入先だということも反映されています。
日豪両国にとって今年は日豪友好協力基本条約締結から40周年を迎えました。さらに高いレベルに発展させることができるのではないかと思います。
地元の要人とこれまで会う機会を得ました。その際、みなさん日本に対する期待や信頼感というものを口にされます。日本の評価や信頼感を高めるために、私としても努力したいと思いますし、少しでも皆様のお役に立てるように耳を傾けたいと考えています。
-もっと自信を持つべき
日本社会はこれから人口が減少していくので将来の見通しに不安があると言われています。しかし、私たちは日本についてもっと自信を持つべきだと思います。
例えば、日本の観光資源は非常にいろいろな地方に広がって多くありますし、日本の魅力は、和食もそうですし、アニメもそうですし、スポーツなど、さまざまな魅力があります。私たちはそれを自信を持って発信していきたいと思います。
日本武道館歓迎レセプション(左)、西武シンガポール シドニー支店開設レセプション(右)など、着任早々さまざまな催しに出かけられて挨拶される総領事。
日系コミュニティーとの対話を大事にされる総領事は、早速、シドニー日本クラブ役員との懇親会を開催。
(2016年11月22日 シドニー総領事館にてインタビュー)
(プロフィール)
竹若敬三・在シドニー日本国総領事
1960年生まれ 一橋大学法学部卒
1984年 外務省入省
2001年 アジア大洋州局北東アジア課企画官、日韓経済調整室長
2003年 国際情報局分析第二課長
2004年 経済局経済安全保障課長
2005年 在イタリア日本国大使館 参事官
2007年 在インド日本国大使館 経済公使
2011年 在フィリピン日本国大使館 政務公使、2012年 総領事兼次席公使
2013年 国際協力機構(JICA)総務部長(2014年ミンダナオ平和構築特別代表)
2015年 国際協力局審議官(地球規模課題担当)・NGO担当大使、世界エイズ・結核・マラリア対策基金理事
2016年10月 在シドニー日本国総領事に着任