11人目の駐在員は、自治体国際化協会(CLAIR)シドニー事務所に北海道庁から出向された鈴木基大(すずき・もとひろ)所長補佐に登場していただきました。北海道に生まれ育ち、北海道庁に就職して根室振興局などに勤務してきた鈴木さんですが、これまで海外はもちろん東京にも出たことがありませんでした。そんな鈴木さんが自治体国際化協会のシドニー事務所に派遣されることになり、初めて北海道から出るということでシドニーにやってきました。そろそろシドニー生活も1年となり、任期の半分が過ぎる鈴木さんに、仕事のことやシドニー生活のことをお聞きしました。
北海道から出たことがなかったんです
北海道庁に勤務したのですが、初任地は根室市で、税務課に配属されました。シドニーに来る前は札幌で労働委員会に所属していました。
一応、上司には東京に赴任できますし、海外勤務もできますという希望は出していたのですが、まさか地方公務員で海外に赴任することになるとは、思ってもいませんでした。
海外在住は初めてですし、北海道から出たこともなかったので、最初に異動の話しを聞いた時は不安もありましたが、外から北海道を見ることができるというのは興味がありました。海外赴任に妻は不安に感じていたと思いますが、最終的には私の希望を叶えてくれました。
赴任する前の半年間は東京にある自治体国際化協会(CLAIR)の本部で研修を受けて、2016年の4月にシドニー事務所に赴任という形でシドニーに来ました。
JETプログラムでオージーを日本に派遣
CLAIRは海外に7カ所、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、ソウル、シンガポール、シドニーに事務所があります。
CLAIR海外事務所の仕事としては、大きく「姉妹都市交流」と「JETプログラム」の2つがあります。姉妹都市交流では日本が締結している姉妹都市の数はオーストラリアが4番目ですし、オーストラリアとしては締結国として日本が一番多いのです。それだけ姉妹都市交流が盛んですし、日本から学生や議員が来られて、こちらの市長や議員の方々と面会することも多いのですが、オーストラリアの方は非常に気さくですね。フレンドリーですし、英語が苦手な私の話を一生懸命聞いてくれます。
私はこちらでは主にJETプログラムを担当しています。
※JETプログラムとは、「語学指導等を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略称で、地方自治体が総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施している。JETプログラムは主に海外の青年を招致し、地方自治体、教育委員会及び全国の小・中・高校での国際交流業務と外国語教育に携わることで、地域レベルでの国際化の推進を目的としている。2016年には30周年を迎え、世界40ヵ国から約5,000人が参加している。
日本の各自治体への派遣や配置先、研修会などをCLAIRが担当しています。シドニー事務所では出発前の研修を行っていますし、プログラム参加者がオーストラリアに戻られてからも、JETAAという参加者の同窓会組織があり、その連絡調整やイベントなどの広報も行っています。このプログラム参加者は20代、30代の方が多く、みなさんフレンドリーに接してくれますし、仕事はやりやすいですね。オーストラリアからはこれまでに4,000人ほど参加していますし、規模としても米国、英国、カナダなどに次いで大きいです。最短1年で最長5年まで滞在できますが、通常は、1年〜3年です。
「日本はよかった」と言ってもらうのが嬉しい
2016年はオーストラリアから約150人が参加しています。世界中の参加者が日本全国の市町村に派遣されるのですが、「以前派遣されたオーストラリア人がよかったので、今回もオーストラリア人を」と希望される自治体もあります。
参加者にはできれば3年間は滞在して、日本をいろいろ知ってもらい、戻られてから「日本はよかったよ」と言ってもらえればありがたいですね。私が日本に戻った時に「オーストラリアはよかった」というと、みな、オーストラリアによい印象を持つと思いますので、同じことをJETプログラムの参加者にも感じてもらいたいと思います。
北海道に行っていたという元参加者にも会いますが、みなさん寒かったけど楽しかったと話してくれます。「寒かったけど」と、必ず「けど」がつくのですが(笑)。
CLAIRとしてはもっと日系企業にこのプログラムを知っていただきたいです。参加者がオーストラリアに戻られてからも私どもの仕事ですので、日本体験者の活躍を期待しています。プログラム参加者は日本語だけではなく、日本に住んで、日本の文化を実際に体験しているのが強みだと思います。その点を企業の方には理解していただきたいですね。日本人以上に日本的な方もいますし(笑)。
オージーに北海道をアピールしたい
やはり北海道出身ですし、北海道庁に勤務していますから、どうしても北海道をオーストラリアの方には知ってもらいたいですね。
JETプログラムでは出発前にオリエンテーションを行なうのですが、「どこがいいですか?」と聞かれると、やはり「北海道がよいですよ」と答えてしまいます(笑)。
2015年の数字ですが、北海道にはオーストラリア人観光客が4万6,500人も行っています。前年度比20%増です。
「クール HOKKAIDO」という北海道の物産や観光をプロモーションするプロジェクトがあるのですが、是非、オーストラリア人に北海道をアピールしたいです。2016年にダーリングハーバーで開催された日本の祭りには北海道にブース出展の話を打診したのですが、実現しませんでしたので、今年の祭りにはと思っています。
決断が早いので仕事はやり易いです
オーストラリアの方と仕事をしていて感じるのですが、決まるのがわりと早いですね。「やりましょうか?」「じゃ、やります」と、すぐ返事をしてくれる感じです。私は公務員ですので、役所ではかなり上のほうまで話を上げていかないと、決定するまで難しいのですが、こちらではメールで「どうですか?」と送るとすぐ電話で「オーケー」と返ってきます。ただし、細かい点を詰めたりすると、応対に時間がかかるところがありますが。
困るのは、ホリデーシーズンの年末年始に連絡がつかなくなることです。12月に入ると2週目からみなさんどこかにホリデーで行ってしまっているようで、まったく連絡がつかなくなりますね。
もっと何もない国かと思っていました
こちらに来る前は白人ばかりの国というイメージをもっていましたが、思ったより色々な民族や人種の方が多いと感じました。英語にしても、もっとネイティブスピーカーが多いかなと思っていましたが、実際はそれぞれの出身国の訛りのある英語ですし、ですから私の英語でもなんとかなっています。もっと通じないかと思っていましたが、意外とみなさん聞いてくれますね。
妻は、もっと何もないところかと思っていたと話しています。生活に困るのではないかと思っていたようです。しかし、物価は高いですね。日本から来るとびっくりしてしまいます。それにブリスベンやメルボルンに比べて、シドニーが一番、物価が高いと感じます。
それでもシドニーは住みやすい街です。雪が降らないですし、冬といっても10度くらいあるので、北海道出身の私には暖かいぐらいで、快適です。居るあいだに一度はこちらのスキー場に行ってみたいですね。ニュージーランドも近いですし。それに雪かきをしなくていいのは楽です。北海道に戻った時が心配ですが…(笑)。
子どもや家族に優しい街だと感じます
まだ子どもが小さいので、いつもベビーカーで移動しているのですが、日本ですとベビーカーに対して冷たい視線があります。こちらでは席を譲られたり、みなさん優しく対応してくれます。家族連れの対応がすごく温かいですね。電車でも見知らぬ人が手を貸してくれたり、日本とはかなり違うということを感じます。
これまで家族で、ケアンズやブリスベン、ゴールドコースト、メルボルンに行きましたが、どこも公園が多いという印象です。家族連れに優しいですし、街自体がそれほど大きくなく、徒歩圏でいろいろなところに行けます。車がなくても非常に楽ですね。ちょっと郊外に行くと自然がいっぱいですし。
シドニーしか駐在していませんが、もしシドニーに来られるなら、非常に仕事がやりやすい環境で、何も心配なく来られて大丈夫ですよ、と言いたいです。細かなことをいうと、物価が高いとかいろいろありますが、基本的には何も心配ありません。お子さんが小さくても快適に過ごせます。シドニーはもう一度駐在したいところです。
大陸縦断ドライブに挑戦!
家族からは止められているのですが、オーストラリアにいる間にスカイダイビングをしようと思っています。また、ダーウィンからアデレードまで車で走りたいですね。かなり過酷な旅になると思うので、家族は家に残して、今年は是非、友人と大陸縦断ドライブを実行したいと思っています。
オーストラリアでロードバイクをはじめて、先日はウロンゴンまで自転車で行ってきました。ケアンズではシュノーケリングを楽しみましたし。みなさんフレンドリーなので、何かをやりたいと思った時に、アドバイスをくれたり、手助けしてくれたり、非常にやりやすい環境だと感じます。
日本を恋しく思うことですか…?
まだ1年ですのであまりないですが、ご飯に焼き魚と納豆、味噌汁という定番の日本の朝食が食べたい時や、温泉に行きたいと思う時がありますね。日本に帰って真っ先にしたいことは? 多分、温泉に行きますね(笑)
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