サイコロジストの谷野が誰にどのようにカウンセリングと心理療法を習ったのか、ご関心がおありの方もいらっしゃるでしょうか。バックグラウンドをお話しますね。これは、私が直接お会いして心理臨床の教えを受けた、私の尊敬する先生たちについて書いています。その逆の、この先生方がみんな私を推薦しているなどという意味ではありませんので、その点は誤解のないようにお願いいたしますね。
<小谷英文、国際基督教大学心理学元教授>
大学の法学部を卒業して、臨床心理学をどうしても学びたく方向転換し、心理学の大学院に入り直すためにまずは国際基督教大学(以後、ICU)教育学科教育心理学専攻の研究生になって、心理学の単位を一年間で一生懸命とっていた時から教えていただいたのが小谷教授でした。当時四十代の新進気鋭アメリカ帰りの「精神分析・精神力動学」の助教授で、「集団精神療法学会」の理事、「一般システム論」や「ロジャーズ派のカウンセリング」も守備範囲でした。
小谷ゼミで1989年から1991年まで博士前期課程、修士論文の作成、博士後期課程の途中までと本当に鍛えられ、心理療法(小谷先生流に言うと「精神療法」。精神力動学なので)の基礎を徹底的にしこまれました。大学院付属の心理相談室でケースを担当し、先生の前でプレッシャー満々のグループ・スーパービジョンもこなさなければなりませんでした。夏休みのグループ心理療法で、長野県菅平で小学生グループのチーム・リーダーを任されたりもしました。
小谷先生に学んだ精神力動学の基礎は、その後の私の興味の中心である、心理的にトラウマティックな育ち方をしたクライエントの、その体験のワークスルーの作業による人格変容の心理療法をするのに、とても役立ちました。その基礎の上に、交流分析を乗せて現在でも応用していると思います。
<故・都留春夫、国際基督教大学心理学元教授>
同じくICU大学院で教えていただいたのが、都留先生でした。退官間近の円熟したカウンセラーで、戦後のICUの設置当初から在職の、名物先生でした。ICUは全ての先生がクリスチャンでそして留学経験があったので、私は西洋国の学問に大変な親近感を植え付けられました。都留先生も私にそれを吹き込んだ一人でした。都留先生からはやはり「カウンセリング」の基礎と「エンカウンター・グループ」、実存主義カウンセリングでフランクルが創始の「ロゴ・セラピー」を学びました。
都留先生がICUを退官されて、聖路加看護大学大学院に移られてから、築地の聖路加までうかがって教育分析(臨床家になる人が自分も心理療法を受ける体験をして、自分の問題を整理しておく)も受けました。
お亡くなりになられたのは、私がシドニーに来てしまってからでした。私は都留先生が天国で、今私がシドニーで日本語心理臨床開業を何十年もやり続けているのを見て、「あなたにしては本当に良くやった」とほめてくれているような気がするのです。あの厳しくもある先生にほめられたら、本当にうれしい。・・・自分勝手な妄想なのですが、そんな気がしてなりません。
<平木典子、日本女子大学心理学元教授>
ICU大学院の講義を受け持たれていた平木先生からは、「カウンセリング」と「家族療法」、「アサーション・トレーニング」を学びました。ロール・プレイをたくさんやりました。
このICUで教えていただいた小谷先生、都留先生、平木先生、なんとカウンセリングの祖ロジャーズに会ったことがあり、アメリカでのPearson Centered Approach(PCA)のエンカウンター・グループで三人知り合っていたんですよ〜!
当時カウンセリングや心理療法の流派の中でも、ヒューマニスティックなカウンセリング、ロジャーズ派の来談者中心療法が一番好きで基礎だと思った私は、三人からむさぼるように学びました。
<故・佐治守夫、東京大学心理学元教授>
日本・精神技術研究所の、佐治先生のグループ・スーパービジョンに足しげく通いました。佐治先生は、ロジャーズ派カウンセリングを日本にもたらした方でした。先生の、地面に水が吸い込まれるように、うれしそうに私たちの話を聞く姿勢から、先生流のクライエントへの対し方やカウンセリングの姿勢を学びました。
他にも「モラトリアム理論」で有名な故・小此木啓吾先生の主催する慶応心理臨床セミナーに1993年から1995年の二年間通って、精神力動的精神療法を学びました。なま故・河合隼雄先生のお話も、心理臨床学会で何度もお聞きすることができました。関西弁の、本当に話の面白いくだけたおっちゃんで楽しかった・・・(失礼)。学会でお会いして勉強させていただくだけなら、有名な先生はほとんどすべて網羅していると思います。北山修先生、馬場禮子先生、神田橋條治先生、狩野力八郎先生、成田善弘先生etc・・・。
私はカウンセリングと心理療法を80年代後半から90年代にかけて日本で学ぶことができたので、「戦後日本にカウンセリングをもたらした第一世代や第二世代」である先生方からも直接教えていただけたことを、今でもとてもラッキーだったなあと思います。お一人お一人の先生方のカウンセリングのスタイルは、今も私の中に尊敬するモデルとして生きています。
<杉山恵理子、明治学院大学心理学教授>
ICU大学院博士後期課程の同級生です。彼女は研究者人生を全うし、私よりすっかりえらくなりました。彼女とは大学院時代から普通に話していてもピア・カウンセリングにピア・スーパービジョンが止まりませんでした。彼女とシェアして学んだ事柄がたくさんあります。今も臨床感覚がシェアできる貴重な仲間です。
<平尾美生子、元昭和女子大学心理学教授と、岡昌之、首都大学東京心理学元教授>
平尾先生には、都留先生と同様、教育分析を受けました。また私が臨床に出てから、スーパーバイザーとしてお招きして、ケース検討していただきました。母性的で、そして普通の人でもある治療者としての私の理想的なモデルを、先生からいただいたような気がします。
また岡先生のあたたかで臨床感覚あふれるスーパービジョンに感動し、私が日本で勤めた二つの教育相談室で、私は二カ所とも先生をスーパービジョンにお招きしてご指導を受けました。先生のフェアな態度から学ぶものがたくさんありました。
1999年に私がオーストリアの技術独立永住権を目指している時に、職業点認定のために、豪心理学の職能団体Australian Psychological Societyの正会員になる必要がありました。この提出書類の中の私を日本でスーパーバイズした証明書に、小谷先生、佐治先生、平尾先生、岡先生がサインをしてくださいました。この先生方との出会いがあって、私のシドニーでの日本語心理臨床人生が導かれていたのだと、その道筋を不思議に思うとともに、たいへん感謝しています。
<コンセプトのヘレン・ツァモロウス先生、ACISのサバース・バン・ビーカム先生、ピア・スーパービジョン・グループのサイコロジストたち>
ヘレンは私が豪で日本語による発達アセスメントをし始めた時からのスーパーバイザーで、もう十年以上のおつきあいです。私よりも若いですが、その腕を尊敬しています。今でも発達検査をとり、アセスメント・レポートを書く時は彼女が強い味方です。ケース・スーパービジョンにも行きますし、豪での心理臨床業界のあり方について質問できる頼りになる存在です。
サバース先生は、私の尊敬する交流分析の先生です。“Iam OK. You are OK”でいつも接してくださるその態度を尊敬しています。私の精神力動学とカウンセリング・心理療法の知識と経験を、交流分析で統合できる道筋を見せてくださった方です。これからますます学びを深めて行きたいです。
それから月に一度のピア・スーパービジョン・グループで、頭を寄せ合ってケースのことを相談できる、同じくアジアン・バックグラウンドのサイコロジストの仲間たち。彼女たちの中に、私と同じようにサイコロジストとして生きていく人生を見、ケースを担当して万全を尽くそうと努力する姿、迷う姿、模索する姿、私の経験する全てを共有することができます。大事な仲間たちです。
<私自身、谷野>
自分を自分の先生と呼ぶのもおこがましい話ではありますが、私自身の体験から学ぶことが、本当に多かったです。私が今何で食べているかと言えば、私自身が主に二十代のほとんどを使って、臨床心理学を大学院レベルで学びながら、教育分析も受けながら、自分の問題をワークスルーしてプロセスしていったその実体験によって、心理的作業の中身やそのプロセスやその機序が実感として分かるから、それを使って仕事をしているのだと思います。自分自身も悩んで突き抜けたあの体験がなければ、私が臨床家になることもなかったし、できなかったと思います。そして今も私自身の心理的発達のプロセスから、多くを学んでいると思います。
<たくさんのクライエントたち>
クライエントとの共有体験の中から学んだことは本当に多いです。頭で知っていたことを、実感として学ばせていただいたこともたくさんあります。クライエントはまさに「私の先生」でもありました。
さてあなたも、あなたしか歩めない旅路を歩んで、その先を私といっしょに発見していきましょうか?・・・私でよけれは、喜んでおともいたします。
そんなこんなで、今の私です。心理臨床現場に出てから早二十年以上、ちょっと複雑な気がしますが、いよいよ熟女になって来ちゃいました??