Y子

31歳。ものごとをあんまり深く考えていないのでストレスは少ない。自分の身に危険が迫ると恐怖のあまり脳がヒートしてしまい、笑い出してしまうクセがある。以前バンジージャンプをした時、飛び降りた瞬間からケラケラ笑っていた。お化け屋敷でも笑い出すので、お化けにビックリされてしまう。19歳でメイクアップアーティストに憧れて専門門学校へ。その後ファッションショーなどの現場で働くが、給料が安すぎて、家の電気、ガス、水道を止められる。それでもコンビニのトイレや銭湯に通いながら粘り強く続けるが、毎日ツナ缶だけで生活していたため、体重が40ｋｇを切ってしまい最後は栄養失調で倒れてしまうという経験を持つ。彼氏ができると何よりも優先してしまうため友達はほぼいないという残念なタイプ。現在セカンドWHでシドニー滞在中。

果たして私たちの思いは届いたのだろうか…

ブロッコリーニの作業を開始して3日目、とうとう作業終了後、現場責任者のRさんに呼び出されてしまった。目立たないように行動していたつもりなのに、なぜ私にだけ辛くあたるのか…。 開口一番『あんたはこの場を乗り切ることしか考えてない。ここで適当に3ヵ月作業してセカンドを取ることしか考えていないでしょ』。 私、『…』。 『この作業は何のためにやってるのか考えたことある？　こんな汚い部分を商品の中に入れて誰がこのブロッコリーニを買うの？』 私が先ほど束ねたブロッコリーニを持っていた。 『私たちの仕事はこの商品を買ってもらうために、より良い状態で出荷させること。その気持ちが持てないなら、もうここには来なくていい』 厳しい言葉だったが確かにRさんの言うとおりだと思った。セカンドを取るためここに3ヵ月滞在するという目的だけで、仕事の内容のことなど一切考えていなかったかもしれない。この体育会系のノリに合わせていれば乗り切れると思っていた。自分のことしか考えていなかったことが情けなくなり悔しかった。ガトンに来て最初の作業であるネギ抜きをしたときのことを思い出した。あの作業の時も、私が抜いて束ねたものは大魔人の愛人に汚いからやり直せと怒られた。あの時は彼女が仕事に対して責任を持っているなんて考えもせず、ただの意地悪な女だと思い込んでいた。その日は夕飯後、A子とも話す気になれず、玄関の灯りの下でひとりチビチビとワインを飲んでいた。昔OLになりたてのころ、不遜な私に対し尊敬する上司に言われたことがある。 『仕事とは責任を持ってやることで報酬がもらえる。仕事に上も下もない。どんな仕事でもやると決めたなら最後まで責任をもってやれ』 当たり前のことだけど、すごく身に染みる言葉だった。だいぶ前のことなのに社会人になりたての私の中にこの言葉は深く刻まれていた。蒸し蒸しと暑い夜だった。玄関のライトの周りには虫が群がっていた。中には大嫌いな蛾もいる。その真下でワインを飲んでいた。ライトの灯りを見つめながらボーっとしていた。もうこのデカイ虫たちにも慣れてきたのだろうか。私が生きているのはここだ。今ある生活を一生懸命生きてみようと思った。思い立ったらすぐ行動してしまう私はRさんに電話していた。反省した気持ちを伝え『明日からまたお願いします』と言った。次の日Rさんを観察していると、彼女がしていることが見えてきた。出来高制の作業は短時間でより多くをさばくことが大事。体育会系のノリで声を出させていたのはチームワークを高めるため。厳しく怒るのは、セカンド目的のために来る人たちがほとんどが3ヵ月という期間限定で適当にやればいいと思っているから。責任をもってやる人なんてほとんどいない。しかしRさんや愛人たち現場責任者は、適当では済まされない立場にいるのだから厳しくするのは当たり前のこと。レギュラーになれる人＝自分の仕事を責任もってできる人、だったのだ。作業の帰りコールス（スーパー）へ寄ってみた。野菜売り場をうろついているとオージーの主婦が手に取ったブロッコリーニを買おうかどうか悩んでいる場面に遭遇。結局ブロッコリーニは買い物カゴに収まった。その瞬間『やった！』と心の中で叫んでいた。仕事をする喜びとは、自分が精一杯やったことが誰かに届いたと実感できた時ではないだろうか。すべてのことにはたくさんの“思い”がある。作る人、育てる人、束ねる人、出荷する人、店頭に並べる人。その人たちが丹精こめて仕事をしてくれたおがげで美味しいご飯を食べることができる。すべてに感謝することを教えてもらった。

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