Y子
31歳。ものごとをあんまり深く考えていないのでストレスは少ない。自分の身に危険が迫ると恐怖のあまり脳がヒートしてしまい、笑い出してしまうクセがある。以前バンジージャンプをした時、飛び降りた瞬間からケラケラ笑っていた。お化け屋敷でも笑い出すので、お化けにビックリされてしまう。19歳でメイクアップアーティストに憧れて専門門学校へ。その後ファッションショーなどの現場で働くが、給料が安すぎて、家の電気、ガス、水道を止められる。それでもコンビニのトイレや銭湯に通いながら粘り強く続けるが、毎日ツナ缶だけで生活していたため、体重が40kgを切ってしまい最後は栄養失調で倒れてしまうという経験を持つ。彼氏ができると何よりも優先してしまうため友達はほぼいないという残念なタイプ。現在セカンドWHでシドニー滞在中。
大好きなバイロンベイの海を見た後にドラマが…
せっかく車を購入したのに最近は家と作業場の往復しかしていないことに気がついた私は、意を決して遠出をすることにした。かといって車を購入した時に道に迷って大変な思いをした経験もあるので(その13参照)、知らない土地は避けたい。日帰りできる近場で良い場所がないか考えてみたところ以前住んでいたバイロンベイが思い浮かんだ。バイロンベイは、ブリスベンを抜け、ゴールドコーストからさらに1時間ほど南へ向かったところ。そこならなんとか行けそうだ。さっそくファームで仲良くなった3人を引き連れて旅をすることになった。早朝からお弁当を作り、日が昇る前に集合。みんなこの旅行を楽しみにしていたようだ。道中サンドウィッチで腹ごしらえ。音楽が流れる車内のテンションはMAXに達していた。ガトンから運転すること3時間ほど。いよいよバイロンベイの海が見えてきた。この街は信号もなく、開放的。裸足や水着で歩いてる人も多く独特の雰囲気がある。う~ん、ハワイに似ていて好きだ。アイスを頬張りながらのショップ巡り。地元の人が『こんにちは』とか『日本大好き』など声をかけてくれる。そう、なぜかバイロンベイの人たちはフレンドリーで暖かい人が多いのだ。ビーチへ行き、フィッシュ&チップスを食べながらゴロゴロと昼寝をする。お気に入りの街なのでもう少しステイしたかったが、日も暮れ出したのでそろそろ帰ることにした。そして、ここからがドラマの始まりだ。駐車場に戻るとエンジンがかからない…。どうしたことか、みんな車の知識がまったくといっていいほどないので原因がわからない。だが不幸中の幸いか、駐車していた場所が以前通っていた学校だったので、仲のよかった先生を呼び出して見てもらうことに。なんとバッテリーが上がってしまったという。なんてこった。先生の車と私の車をブースターケーブルでつなげて充電が始まった。よかった~、これで帰れる…。先生に何度もお礼を言い、いざ出発。早朝からの旅で疲れがたまっていたのか、各自睡眠タイムとなった。みんなに少しでも寝てもらおうと安全運転しながら走っていると、突然パンッっという破裂音が聞こえた。何ごとか?! 次の瞬間、ハンドルが遊び始めコントロールが効かない。車は右に左に蛇行している。すでにハイウェイに乗っていて、ビュンビュン飛ばしていたので揺れも半端ではない。とりあえず道の傍らに車を止めて外へ出てみると、なんとタイヤがパンクしているではないか…。この非常事態にパニックを起こし冷静さを失ってしまった私とはうらはらに、冷静な友達であるN美がトランクに入っていたスペアタイヤを見つけ出し、自力でタイヤを交換することになった。タイヤを固定するネジは長年いじってなかったようで錆びて硬くなっていたが、なんとか交換することができた。オイルで汚れた手を見ていると、映画のワンシーンのようで感動してしまった。さすがオーストラリアだ。再度出発。車は走り出し、無事ゴールドコースト、ブリスベンを通り越した。あと1時間もしないうちにガトンに帰れるだろう。私たちは陽気に歌など歌いながら残りの帰路を楽しんでいた。しかし、あることに気がついてしまった。なにやらボンネットから煙がでているような…。気のせいだろうと見て見ぬふりをしていると、隣に座っていたN美が『煙出てない…?』と聞いてきた。『やっぱりそうだよね…』と私が言った瞬間、車がプスプスと音を立て始めた。そして、だんだんスピードが落ちていく。これは本当にやばいと思い、また道の傍らに止めることに。だが、この時は誰もが確信していた。もうタイヤ交換のレベルではなく、私たちの手に負える問題ではないということを。これは大変な事態だということを…。車を止めたはいいが、怖くてボンネットには誰も近づけない。日も落ちて辺りは暗くなっている。なんてことだ、今夜はこのハイウェイで過ごすのかと誰もが思っていたが、怖くて口には出さなかった。そしてこの数々のトラブルに疲れきって誰も良い案が浮かばなかった。車を購入して道に迷った時の悪夢が蘇ってくる…。しばらくボーッと突っ立っていると、一台の乗用車が私の車の前で止まった。車にはオーストラリアの国旗がついている。国旗…政治家? と思っていると、車からおじさんらしき人が出てきた。疲れきった私には車のライトを浴びたおじさんがスローモーションでこっちに向かって来るように見えた。そう、あのダイハードのブルース・ウィルスのように。そのくらいおじさんが、まぶしく英雄に見えたのだ。事情を話した後、おじさんは親切にボンネットを調べてくれたが、やはり手には負えなかったらしくレッカー車を呼んでくれた。そしてレッカー到着後も、英語がままならない私たちの代わりにレッカー車の人と話しをつけてくれたのだ。さらに、なんと私たちをガトンまで運んでくれるというではないか。夫婦で旅行中だったおじさんは本当にいい人だった。無力な私たちは、申し訳なく思いながらもこのご好意に甘えるしかなかった。無事、家まで送り届けてもらったがどうやってお礼をしたらいいかわからない。とりあえず家にある野菜を手渡すことしかできなかったが、おじさん夫妻は喜んで受け取ってくれた。なんて素晴らしい人たちだろう…、こんな夫婦になりたいと思ってしまった。本当にありがたかった。感謝、感謝だ。それにしても、購入して間もない愛車が、こんなポンコツだとは思わなかった。300kmほどでこの様だ…、オーストラリア一周など夢のまた夢の話しとなった。なにはともあれ、オーストラリアの国旗を付けたブルース・ウィルスは、現実の世界でも人助けをする良い人だった。
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