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Y子
31歳。ものごとをあんまり深く考えていないのでストレスは少ない。自分の身に危険が迫ると恐怖のあまり脳がヒートしてしまい、笑い出してしまうクセがある。以前バンジージャンプをした時、飛び降りた瞬間からケラケラ笑っていた。お化け屋敷でも笑い出すので、お化けにビックリされてしまう。19歳でメイクアップアーティストに憧れて専門門学校へ。その後ファッションショーなどの現場で働くが、給料が安すぎて、家の電気、ガス、水道を止められる。それでもコンビニのトイレや銭湯に通いながら粘り強く続けるが、毎日ツナ缶だけで生活していたため、体重が40kgを切ってしまい最後は栄養失調で倒れてしまうという経験を持つ。彼氏ができると何よりも優先してしまうため友達はほぼいないという残念なタイプ。現在セカンドWHでシドニー滞在中。
いやな予感が的中してしまった送別パーティーでのワンショット(中央の人が透明になっている)
人は死んだらどこへ行くのだろう。これはよく聞く言葉。死んだら天国か地獄、どちらかしかないのだろうか。おそらくどちらにも行っていない霊は存在し、その霊はこの世を彷徨い続けていると、私は思う。なぜそう思うのか…、じつは私は非常に霊感が強いのです。子供のころは風邪をひいて体の免疫が落ちる度に家の中や病院で死んだ人を見ていた。私にとってはごく当たり前のことだったが『あそこのおじいちゃんがこっちを見ているよ』と言うと周りにいる人は奇妙がっていた。学生のころパリへ旅行に行った時には、滞在先のホテルの部屋で大勢の兵隊さんが行進していた。窓から入ってきてドアの方に向かって歩いているのだ。おそらく戦争か何かで大勢亡くなったのだろう。外人の霊を見たのはその時が初めてだった。ずいぶん昔の人たちだったので大変な衝撃を受けた。OLの時は、オフィスのトイレでいつも髪の長い女の人が鏡越しに私を見ていた。霊感の強い同僚も、同じ人を見たと言っていたので間違いないだろう。それくらい私には日常茶飯事なことなのだ。嫌なことに見えるだけではなく、その霊の感情まで察知してしまうことがある。ここで感情移入してしまったら最後、離れなくなってしまうのだ。常に毅然とした態度でいなければいけない。絶対に突き放さなければダメなのだ。そんな私がガトンでも強烈な悪霊と出会うことになった。これは私を含めた何人かの送別会が催されることになった時のこと。ガトンに来てからもうすぐ3ヵ月になるので、少し早いが同じ時期にここを旅立つ人たちの送別会をしてくれることになった。場所は私の住んでいた家から少し離れたシェアハウス。自分のための“催し物”はあまり好きではなかったが、せっかく機会だし手土産にワインを持って訪れることに。ガトンはねずみが多いせいか、ねずみ返しの付いた高床式の家が多く、その家もそういう造りだった。なぜだか着いた時から湿気を含んだ嫌な空気が漂っている。いわゆる一階の床下部分には雑草が生い茂り、くもの巣がびっしり張っていた。長い間手入れがされてないのがひと目でわかり、それだけで薄気味悪い。階段を上ったところにバルコニータイプの玄関があった。バルコニーにはなぜか古い日本人形が置いてある。髪の毛の長さが疎らなのが気になった。家の奥の方に目を向けると、キラッと何かが光った。次の瞬間、それは黒い猫だとわかった。聞くと、だいぶ前からこの家に住み着いているらしい。瞬時にここを離れたいと強く思った。バスルームの辺りから嫌な空気が漂ってくるのだ。殺気のようなものまで感じられる。しかも年配の男性らしいことまで感じられた。しかし、来たばかりですぐに帰るわけにもいかず、送別会のパーティーで楽しい雰囲気を壊すのも申し訳ないので黙っていることにした。しばらくの間おとなしく飲んでいたが、アルコールを摂取しているためトイレに行きたくなってしまった。しかし、そっちの方へは行きたくない…。だがこの生理現象は止められず、仕方がなく薄暗いトイレで用を足した。トイレから出ようとすると、突然電球がバチンと音をたてて切れてしまった。嫌な予感が脳裏を横切る。すぐ背後で人の気配がするのだ。しかし振り返ることができず、手も動かないし声も出ない。そう、金縛りにあってしまったのだ。これはまずい…、とっさに“ブッカンセイキ”という言葉を心の中で繰り返し唱えた。これは昔、霊感の強いおばあちゃんから教わった呪文で悪霊が寄ってきたらこの言葉を繰り返し唱えなさいと教えられた。心の中でこの呪文を何度も繰り返す。加えて、私に憑かないでくれと心の中で祈った。“かわいそう”とか“助けてあげる”という同情は絶対してはいけないらしい。そんなことを思ったら、頼って憑いてきてしまうのだ。だんだん手に力が戻ってくる。怖くて目は開けられないが、思い切ってドアを開けた。暗闇から出たばかりで目が慣れるまで時間がかかったが、みんな何ごともなかったように、お酒を飲んで騒いでいる。よかった…、助かった。この以前と変わりのない光景を目にして少し気分が落ち着いてきた。しかし、とにかく早くここを出たい。きっとまた来るに違いない。急いで同じシェアハウスに住んでいる娘のところへ行き、帰ろうと促してみたが、あと30分待ってと言われてしまった。一人で帰る勇気がない私は、仕方なく待つことに。すると誰かが『これどうしたの?』と聞いてきた。むし暑い日だったので、キャミソールを着て肩を出している私に向かって指さしている。何のこと?という顔をしていると、彼女は言った…。 『肩のところに手の跡があるよ』
数日後、わかったこと。あの家は大魔人が破格の安さで借りている家だった。その破格の安さには理由があった。以前、あの家で殺人事件があったのだそう。殺されたのはその家に住んでいた中年男性だという。その遺体は家の下に埋められていたのだそうだ。供養などされていないのだろう。その霊は何かを訴えたかったのだろうか…。しかし、私にはどうにもできない。どうか、誰も苦しめずあの世といわれる場所へ旅立ってくれることを心から祈った。ガトン最後の思い出はこうやって幕が閉じられたのだった。
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