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娼婦と兄ちゃん

♦娼婦と兄ちゃん♦

先日、私がシドニーに移住してからの10年来の付き合いとなる友人M子とランチをする事になった。

今から約10年ほど前、私たちはポッツポイントの小さなスタジオに住んでいて、

ご近所づきあいをしていたものだが、ポッツポイントに住むと、どこに行くにも”キングスクロスのメイン通りを通らなければいけない”というのが難点であった事を思い出した。

今はキングスクロスも舗装され、随分綺麗になって、昔ほどポン引きのお兄さんや、

歩道でカスクワインパーティーを開催する浮浪者、突拍子もなく”ギャーーッ!!ファーーーーック!!!”

などといったオタケビを聞く事もなくなったが、当時は”キングスクロス=南半球最大の歓楽街!!”と

日本人男性旅行者の下心を躍らせるうたい文句でガイドブックにエロチックな写真を載せてみたり、

某大手旅行会社も歓楽ツアーを催行していたものだ。

そんなキングスクロスを通らずにはどこにもいけないポッツポイントに住んでいた私達は、

毎日のようにキングスクロスのメイン通りを通り、

その度に、”オネーチャン、オオキー オッパイー カモーンイン!!”

と英語なのか日本語なのか訳のわからない言語で、ポン引き兄ちゃん達たちに誘惑されていたものだ。

そんなポン引き兄ちゃんたちも3ヶ月もすると”あぁー、またこいつらか・・”と言わんばかりに、

丸無視するようになり、私達は半年もしないうちに快適にメイン通りを歩けるようになった。

と思ったのもつかの間で、ポン引き兄ちゃんによっては、

”アイノーユー、カモン イン フリー フォー ユー”などと、”友人ご優待券”もしくは”顔パス”まで頂ける事もあり、年老いたゴジラに似た前歯の溶けた50歳前後のオバサン娼婦を指差し

”あの娼婦が一番いいぞー!”などと余計な情報まで頂ける様になった。

そんなある日の朝、いつものようにメイン通りを歩いていると、いつものポン引き兄ちゃんがビジネスマン

らしき30歳前後の兄ちゃんと話をしていた。

”あっ、このお兄さん歯抜けゴジラのポールダンスショーを見せられて、裏の部屋でぼられるー!”と心の中で、”無駄遣い反対”のプラカードを上げていた私達をよそに、ためらう様子もなくビジネス兄ちゃんはそそくさと店に入っていった。

そんな私達をよそに、私とM子は”あれくらいの人だったら、あんなとこ行かなくてもいいのにねぇー、

よっぽどお金が余って仕方がないのかねぇ”などと、よそ様の貯金の心配までしていると、5分もしない間にストリップクラブからビジネス兄ちゃんと歯抜けゴジラと出てきた。

”あらまぁ、お持ち帰りまであるのかね?最近は何でも便利になったねぇー”老人のような会話をしている私達に気付く事も無く、歯抜けゴジラとビジネス兄ちゃんは、まっさらのアウディの車に乗りこみ、歯抜けゴジラは助手席に座りスーッと窓を下ろした。

そんな余計な心配をして呆然としている私たちにいつもの顔パスポン引き兄ちゃんが寄ってきて、こういった。

「あの、二人は仲のいい親子なんだよなぁ。いつも息子がお母さんを迎えに来てやるんだぜー、優しいよなぁーー」

「ひぇーーーーーーーーーーーっ!」私達二人は絶叫した。

この時”おたけびをあげる”という意味がどういう状況なのか初めて解った気がした。

ポン引き兄ちゃんによると、どうやらビジネス兄ちゃんは歯抜けゴジラの息子で、

朝晩母の過酷な労働のお見送り・お迎えをするというのだ。

どうやらロシアから移民していたらしく、もう何年もお見送り付きだと言う。

ビジネス兄ちゃんがブルンと車のエンジンをかけたとおもうと、前歯2本が抜けたロシアのゴジラは、

「がはははははーーーー!しーーゆーーーーうぅーーーー ともろぉーーー!わははははぁー!」と下品に笑い、タバコを持った左手を口元にもっていったかとおもうと、私達に向かって歯の間から飛び出すように投げキッスをした。

私は瞬間的に”ぐっ”と口をつぐんで震えながら手を振りながら横目でM子を見ると、彼女の口も一文字に張り詰めていた事を確認した時、私とM子の友情を再確認した気がした。

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