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和牛生産牧場ベルツリー・オーストラリア 鈴木 崇雄さん インタビュー

GO! 豪!! メルボルン URL: http://www.gogomelbourne.com.au/

和牛生産牧場ベルツリー・オーストラリア 鈴木 崇雄さん インタビュー

 

【プロフィール】

鈴木 崇雄 Takao Suzuki

千葉県出身。1991年より日本の商社が経営する牧場で16年間勤務。2006年よりニュー・サウス・ウェールズ州のブルー・マウンテンの麓でヤンブーン・パーク(Yamboon Park)和牛生産牧場ベルツリー・オーストラリア(Belltree Australia)を経営。牧場は甲子園球場37個分相当の広さがあり、肥育業者(育てて太らせる業者)への牛の販売だけでなく、自ら穀物肥育も行っている。またレストランにも肉牛を直接卸している。

※ヤンブーン(Yamboon)

アボリジニの言葉で「水の出る場所」を意味する。

インタビュアー:長谷川 潤

Q. 現在の牧場を経営されるようになったきっかけは何ですか?

A. 日本で農業系の短大を卒業後、NSW州北部の日本商社経営の肥育農場で働いているときに、現在私が経営している農場を所有されていた方と知り合い、2006年にその方から借り受けました。もともと「カウボーイになりたい」という夢もあり、牧場をやりたくてオーストラリアに来ました。

オーストラリアの和牛は1992年以降に、日本からアメリカを経由して輸入されました。1995年頃から本格的にオーストラリアでの和牛の肥育が開始され、また同時期に日本へ向けて、オーストラリアからの子牛の生体輸出が始まったこともあり、一気に和牛生産がブームとなり、火がついた形となりました。

狂牛病問題が露見した際には生産が下火にはなりましたが、それでも「高級牛肉」の需要があったのと、韓国や中国、ロシアなどの日本以外からも牛肉輸入の所望が増えたため、2006年の後半までは“和牛ブーム”が続きました。

残念ながらオーストラリアでの干ばつや世界的な経済不況もあり、牛肉全体の消費が減ってしまったのと、干ばつによる穀物飼料の価格高騰により、オーストラリアでの高級牛肉の生産は滞った状態が続いています。

Q. 現在の主な仕事は何ですか?

A. 農場での和牛の繁殖が主な仕事です。日本人として和牛に携わるからには和牛の血統管理や品質管理に少しでも貢献できるようにと、自分で繁殖を始めました。牛肉の生産と言うよりは、和牛の血統遺伝子を販売することが主な仕事となります。生きた牛を販売することもありますが、精子や卵子の販売も行っています。

またオーストラリア国内向けの和牛販売を目的に、和牛の肥育も少しずつ始めています。今年初めに、去年から肥育していた1頭が牛肉として食べられるようになり、シドニーのレストランの社長と一緒に食べていただきました。そのとき「完成品ではないけれど、可能性はあるのではないか。やっていることは間違っていない」と確信し、これから徐々にオーストラリア国内販売のための和牛の生産も増やしていきたいです。

 

Q. そもそもオーストラリアで「WAGYU」と言われているものは、どういったものになりますか?

A. もともとは日本からアメリカ経由で輸入された50頭ほどの和牛が基本となります。アメリカで繁殖交配を繰り返した牛が、オーストラリアへ入ってきていますので、遺伝子(血統上)は100%和牛となります。ただし、オーストラリア国内で流通している和牛牛肉の9割ほどは交雑種の和牛肉です。つまり、和牛の遺伝子をオーストラリアの牛(アンガスなど)と掛け合わせた牛を肥育し、その牛の肉を「WAGYU」として販売しています。

Q. 農場で飼育されている和牛は何頭いますか?

A. 現在、130頭の牛を肥育しており、その中で100%の和牛は30頭です。それ以外は交雑種の牛です。私は100%の和牛の頭数を増やすことを目指していますが、来年でいきなり200頭になることはあり得ません。和牛の繁殖を始めた時は14頭から始め、2年でやっと30頭になりました。

ただその中でも残すべき牛、残すべきでない牛もいますので、販売した牛もいます。今後極端に頭数が等倍に増えていくことは難しいので、それよりもきちんとした血統を受け継いだ牛を残しながら、逆に肥育をして食べられる牛も生産しようとしています。現在はまだ遺伝子販売の方がメインなので、自分の農場の遺伝子からほかの牛を生産することを目標としています。肉牛を生産することは目的も違ってくるため、両方の目的を目指す繁殖の仕方をしないといけません。

Q. 手ごたえはいかがですか?

A. こればかりは、まだ良い時と悪い時がありますので…。ただ去年肥育した牛のお肉を食べていただき、そのときにはかなりの手ごたえを感じました。

 

Q. “良い”肉の判断基準は何ですか?

A. お肉は特に“見た目”が重要です。牛肉は“さし(赤身肉の間に入った脂肪)”という基準ではかられることが多いです。“さし”の見た目がきれいであると高級感が増します。和牛の一番の特徴が“さし”になります。

次に“味”がありますが、日本で消費されている牛肉は、基本的にトウモロコシを与えて育てた肉が中心です。ところがオーストラリアで肥育されている牛は、トウモロコシを使用することはあまりあまりありません。肉の味は与える穀物の種類によってとても左右されます。

私の農場では肉の味に注目した肥育をしています。それは「食べて美味しいお肉」「確実に美味しいお肉」を目指したいからです。見た目ももちろんありますが、それ以上に“味”を求めるというのは、食べ物を作る生産者としての責任であると思うからです。“オーストラリアで肥育された他の牛より、明らかに鈴木の農場で育てられた牛のココが違う”というのが出せるとしたら、“味”にこだわっていることだと自負しています。

また、ここ数年オーストラリアでは「WAGYU」と名のついた牛肉がたくさん出回っていますが、極端に言えばこれらはオーストラリア向けに生産された肉ではなく、全体的な牛肉生産量が減り、さらに経済不況も相まって、オーストラリアが対輸出向けに作った商品が輸出できなくなり、それが国内に流通しているからです。

Q. その中でも一番の難点は何ですか?

A. 自然条件との折り合いですね。洪水と干ばつを繰り返す不安定な天候ですので、その中で、常に安定した飼料の管理や、牧草の確保はものすごく難しいです。日本のように完全な屋根の下で、購入した飼料だけで育てるのが最良方法なのかといえば、そうではないと思います。やはり与えられた自然があり、その環境に合った牛を作っていかなければならないと思います。天候のパターンが読めないので、それにきちんと対処していきながら、安定したものを作っていくことが大切ですね。

また同様の気候条件の中で、どうしても飼料穀物の値段が激しく上下します。私にとって利益の取れるものでなければいけないですし、もちろんお客にとっても利益があるものでなければなりません。

Q. オーストラリアのマーケット事情はいかがですか?

A. オーストラリアの和牛肉のマーケットはきちんと確立されていないため、今後どこで線を引き、どの程度お金をかけて生産をするのか、またお金をかけたから請求する、というわけにもいけません。日本では枝肉(内臓や皮など除去し、脊髄で左右に切断したもの)を食肉市場で競りにかけて、値段や評価が決まりますが、オーストラリアにはそういった食肉市場はありません。ほとんどの場合が、売れているから高くなる、売れていないから安くなるといった状況で、そこに肉質が良い・悪いは関係ありません。

そういった不安定なマーケットですので、オーストラリア国内向けの和牛の生産もほとんどありません。これからマーケット環境を整えていくことも大事なことです。現在は一時的に品質が良く、安価なものが流通しています。それでも和牛はオーストラリア国内で広まっているので、次のステップとして和牛の流通システムを確立すれば、他の農場でも和牛を生産することができるのではないか、また和牛業界の低迷が少しでも良くなるのではないかと感じています。

また農場の規模にも限度があるため、安定供給を保つための頭数確保なども大切です。農場を大きくしたから、販売業者に売るという訳にもいきません。現在のマーケット状況を詳しく知った方と話をしながら、「これぐらいの肉を作る必要がある。これぐらいの品質なら売れる」といったことを見極め、肥育牛を生産していく必要があります。

難しいといえば難しいです。オーストラリアで同様のことをやっている方は他にはいませんね。

 

Q. 高級レストランなどでもWAGYUのメニューが見かけられるようになっている現在、オーストラリアでのWAGYUの地位はどのように感じられていますか?

A. レストランによって和牛に対する評価がかなり違うため、レストランで和牛のメニューをオーダーしても、必ずしもすべての人が満足できる状況ではないと思います。「あそこのレストランの和牛は美味しい」となっても、ショッピングセンターなどで販売されている和牛は、“WAGYU”とは書いてあるが「これが本当に和牛なの?」というものもある状況です。現在はすべて押し並べて“WAGYU”と呼ばれています。

流通量が増えて、和牛を目にする機会が増えたことにより、どこまでが本当の和牛なのか、といった品質の不安定感が生まれてきています。そういう意味では最初に統制を取るべきだったと思いますが、現段階では売ることが先に来てしまい、“WAGYU”と書くだけでお金が取れるという状況だと思います。名前だけで消費者は「これはいいものだ」と期待をするわけですよね。その期待を裏切る“WAGYU”も、現在はあると思います。本当にピンからキリですね。すべての人が和牛のことを知り尽くしているわけではないので、ブームにあやかって販売をしている状況もあると思います。

オーストラリアの和牛業界には、品質管理や等級付け、流通の時点での表示の制限が現在はありません。草を食べて育った牛であろうが、穀物を食べて育った牛であろうが、「和牛の遺伝子が使われていればであれば和牛である」といった風潮が続いています。オーストラリア和牛協会においても、どこまで踏み込んで管理をするのかを決められない状況も続いています。やはりこういった管理をしっかりして和牛の市場評価を確立しなければ、現在は和牛肉が輸出向けに生産されているからその余剰分が流通をしていますが、輸出が回復することによってある日突然市場に出回らないということも起こりうるかもしれません。

今後長く続けるためにも、少しずつではありますが、本物の和牛を流通させていこうと思っています。日本人だからかもしれませんが、先祖が汗水かけて試行錯誤を繰り返し、品種改良をしてきたものなので、「和牛」という名前を付けて売るからには、中途半端では失礼だと思います。

日本の和牛農家にしてみれば、オーストラリア産の和牛は煙たい存在なのかもしれません。逆にそれはオーストラリアで生産されている和牛が、日本の和牛とかけ離れたものになってきているからだと思います。もちろん飼養環境がだいぶ変わってきているため、まるっきり同じものになることはないですが、こちらの環境に合った和牛の生産はできると思います。

Q. オーストラリアと日本の牛の肥育の方法の違いは何ですか?

A. 一番の大きな違いは親牛と子牛をいつ離すか、という離乳のタイミングが違います。オーストラリアの牛は9ヶ月以上、なるべく長く一緒にいることが多いですが、和牛の場合は、もともと繁殖能力に重点を置いた品種ではないため、離乳のタイミングはもっと早いですし、その分子牛に対する手間もかかります。またそうすることによって、和牛の持っている能力を引き出すことができます。

和牛という品種は思ったより丈夫な牛です。田畑を耕したりするために使用され、山間部の急こう配の場所で使われたりしていた牛ですので、足腰が丈夫です。そのためオーストラリアの自然の中でも問題なく対処できる牛です。

ただ、和牛の能力の中でも「産肉能力(美味しいお肉を作るための能力)」と「繁殖能力(ミルクをたくさん出して子牛を育てる能力)」はどうしても相反するものがあり、どちらかに優れ、どちらかが劣るという性質があります。日本の場合は生まれたら直ぐに子牛を母牛から離し、手間をかけて面倒を見るため、以前は日本の農家1件当たりの平均使用頭数6~9頭でした。そのような環境で作られてきた牛ですので、オーストラリアの牛と同様に放牧して、子牛が生まれたら9ヶ月間は母牛と一緒にしておくと、うまくいかないことも多いですね。オーストラリア人が和牛の肥育を始めた時の一番の難点はそこだったのではないでしょうか。

Q. 鈴木さんから見られて「オージー・ビーフ」はどう思われますか?

A. 日本ですごく注目されていますね。日本のスーパーの牛肉の陳列棚の3分の2ほどがオーストラリア産であることもあります。それはアメリカ産の輸入が減ってきていることも一因です。そして「オージー・ビーフ」というブランドイメージがどこに置かれているのかというと〝柔らかく、ヘルシー、なおかつ美味しい”というイメージと、オーストラリアという国に対するイメージが〝安全”だからというのもあると思います。また肉自体も脂肪が少なく、赤みが多いため確かにヘルシーであると言えます。

こういうことから考えると、オージー・ビーフというのは非常に成功していると思います。日本人もこういうお肉を普通に自宅で食べるようになったんだなぁと思います。今までオーストラリアでも穀物肥育をされてきたのですが、それらの牛は「オージー・ビーフ」ではありませんでした。〝オーストラリア産=オージー・ビーフ”ではなく、「オージー・ビーフ」というブランド名を使用して、日本にアピールしている牛肉は、ほとんどが〝グラスフェッド”と呼ばれる牧草で育った牛で、赤身が多く、脂肪が少ない肉です。穀物肥育の牛はどちらかというと、商社や精肉店が独自にオーストラリアに牧場を所有し、そこで肥育した牛を精肉にして販売していました。そしてそれらはたいがい日本ハムや伊藤ハムといった業者のブランドの名前が付いていました。その状況下でオーストラリア産の牛肉であるといことが判りづらかったのだと思います。

日本では狂牛病や偽装事件などもあり、原産国表示が義務付けられ、それ以降、日本ハムや伊藤ハムのブランド牛として販売されていたものが、“オーストラリア産”というラベルが張られるようになり、今までもシェアは同じだったのですが、急にオーストラリア産牛肉のシェアが目に見える形で増えましたね。

 

Q. 将来の夢や目標は何ですか?

A. 私が育てた牛の肉を専門に扱うお店を出してもらうことですね。やはり生産者として、「自分が肥育した牛の肉がこのお店で食べられる。ココなら間違いなく美味しい肉を食べることができる」、和牛を生産する限りはぜひ実現したいですね。

オーストラリアでの和牛生産の中で、最初に日本からアメリカ経由で入ってきたオリジナルの牛を超える和牛はまだできていません。そのオリジナルを超える牛を生産することも目標です。オーストラリアの牛肉業界では、日本から新種の和牛の遺伝子が出てくるのを、ある意味待っている状況です。そういうことではなく、オーストラリアにも充分バラエティに富んだ品種の牛がいるので、その中からそれらを超える高級牛肉を生産することも大切です。

この二つができれば、遺伝子的にもきちんとした和牛を残すことができますし、肥育としても上手くいくのではないかと思っています。面白いことに肉質が良いと、遺伝子の評価も上がります。遺伝子もきちんとしていないと、良い肉も生産できないということになります。「あそこの遺伝子だったら安心で良い肉ができるから大丈夫だ」と使ってもらえるような遺伝子、「あそこの牛だったら間違いなく美味しい肉だ」といってお肉屋さんにも使ってもらえるような牛を生産することですね。

一頭の牛の肉を骨から外して商品にするには、さまざまな方法があります。例えばミンチにしてしまうような肉をきちんと解体して食材にするのは、本当に特殊な技術が必要です。そういう技術を持った職人を唸らせる牛肉を作ることも一つの夢です。

Q. メルボルンの印象はいかがですか?

A. 今回で5回目の訪問になります。やはり好きですね。色で言うと、シドニーは原色、メルボルンはアースカラーという印象です。気候がやや曇りがちなのもあると思いますが、その分大人な街という感じがします。食べ物にしてもカフェにしても、根付いている感がものすごくあります。そしておしゃれですよね。いろんな国の文化がメルボルンにはあるので、ちょっとしたレストランやカフェに入ってもきっちりしています。そんなに大きなマーケティングではなく、派手さはないものの、一つ一つがきちんとしているというイメージがあります。また街の中を歩くのも好きですね。

Q. ユーザーへのメッセージをお願いいたします。

A. まだまだ成熟していない和牛マーケットですが、オーストラリアで美味しい和牛を作っている人間がいると知っていただき、多くの人に食べていただけるように頑張りますので、期待をして待っていてください!

Australian Wagyu Forum

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