【プロフィール】
長谷川 晋 Susumu Hasegawa
昭和30年10月14日生 出身地 青森県。
戦争と平和、安全保障の問題に関心を持ち、外務省へ入省。その後、自ら希望し防衛庁に出向(課長)経験も。フランス、イスラエル、タイでの赴任を経て、2007年12月、在メルボルン日本国総領事として赴任。
在任一年半になりますが、振り返ってみていかかですか?
あっという間に一年半が過ぎ、忙しかったなぁというのが正直な感想です。私が来てから新しく始めたことに、総領事館HPに活動報告などの写真やいろいろな情報を載せるなど、開かれた総領事館づくりを進めるということがあります。外務省や総領事館が普段どのようなことをしているのかわからない方も多いと思いますので、総領事館の活動を知ってもらうというのが先ず重要だと捉えているからです。あとは、私の重要な任務の一つで、オーストラリアの政治家や経済人、文化人など幅広い人との交流を深めるべく、週に二回ほど公邸でビジネスランチ・ビジネスディナーを行っています。これらは(写真下)タスマニアや南オーストラリアなど各州の首相や大臣、総督などの写真、こちらにあるのは、今までに会食に招待した方々からの御礼状の数々です。またスピーチや挨拶などの機会も多く、この一年半で約60回を数えました。原稿は殆ど自分で作成するので大変です。
在任一年半の中で世界情勢が経済面で大きく変わりましたが、総領事館としては官の立場から見ていかがでしょうか。
経済関係では2010年からトヨタ・オーストラリアがハイブリッドのカムリを生産するということが去年のラッド首相が訪日の際に発表となりましたが、昨年来の経済危機により日本の自動車・エレトロニクス関係は現在大変厳しい状況です。日本企業の方からも「大変厳しい」という声を実際聞いています。しかし、それにも関らず、日本と豪州の経済関係をみると、日本からの投資は相変わらず大変盛んです。ビクトリア州の関係では、今年に入ってからも日本製紙のオーストラリアンペーパー買収、アサヒビールのシュエップスオーストラリア買収、そしてつい最近では伊藤忠がビクトリア州での淡水化プロジェクトに出資など、経済危機以降も対豪投資は大変活発です。また、こちらのラトローブ地域は褐炭の埋蔵量が多く、連邦・州政府も援助するクリーンコールプロジェクトというものがあり、日本の企業も関心を持っています。
一年半の中で最も印象深かったことは何ですか?
それは、「人と人との交流」英語で言うところの“People to people links”ですね。オーストラリアと日本との関係ではこれが大変深いという印象を受けました。私は仕事でいろんな人に会うわけですが、日本に縁があるオーストラリアの方が多く、日本に御子息・御子女が仕事などでいらっしゃる、自身が日本で暮らした経験がある、ご家族の一人が日本人の方と結婚されているなど、極めて多く、その点は大変驚きました。統計を調べてみると、日本人のオーストラリアへの旅行者数はニュージーランド・イギリスに続く第三位で、年間約45万人となっています。また、外国に住む日本人の総数でも、オーストラリアはアメリカ・中国・イギリスに続く第4位です。これは2007年のデータで、イギリスとは僅差の違いですから第三位になるのも時間の問題かもしれません。経済でも関係が深く、輸入・輸出の合計として、2007年は中国が一位でしたが、2008年はまた日本に戻りました。人と人との交流を総領事館としても推進するべく、メルボルンで日本に在勤・在住経験のある公的関係・学校関係に勤めているオーストラリアの方々を公邸に呼び、ジャパンナイトというレセプションを三月に開きました。来年も開催予定です。このような方々との絆を維持・強化していきたいという思いから開催のイニシアティブをとりました。
ビクトリア州には400を超える学校で日本語が勉強されていますし、その点も交流に一役買っているのでしょうか。そういえば総領事は教育の現場にもよく顔を出されていますよね。
その点で私が感激したのが、日英バイリンガルの教育のハンティングデール小学校で、かぐや姫の劇が昨年9月に上演されたことです。現地の子供たちが日本語で行うという劇で、これには大変感激しましたね。相当練習し、準備には半年以上かけた模様で、今年はコーフィールドの学校でも行うようです。皆さんも見ると感激すると思いますよ。機会があったら是非見て頂きたいと思います。
それでは、先日行われたお茶会について、総領事の手ごたえ・感触をお聞かせください。
経緯的に言うと、茶道を長く嗜んでいますのでNGVの様な立派なところで現地の人を対象に手前の披露を行ってみたいと思っていました。開催迄はなかなか容易ではありませんでした。ですがある日、NGVのアジア美術関係の夕食会に出席したところ、たまたまNGVの館長と同席したので直接働きかけてみると、よい返事を頂くことができました。まずは成功だったのではないかと思っています。NGVでは来年の4月にもTea and Zenという展示会が開かれ茶器などを展示するようです。その際にまた、茶道のデモンストレーションをするかもしれないですね。
そうなんですか!楽しみにしています。茶道以外に何か趣味など打ち込まれているものはありますか?
そうですね、オーストラリアのワインでしょうか。一年ぐらい前から勉強しています。仕事の食事の際のワインは私が直接選んでいます。夜暇なときはワインの本を読んで研究しています。
ワインの種類ではどういったものがお好きですか?
私はもともと白ならシャルドネ、赤ならブルゴーニュのピノ・ノワール系が好きなのですが、こちらのピノ・ノワールは誰かも言っていたのですが、フランスのものと比べると少々パンチがない気がします。ただこちらで有名なシラーズはやはり味わい深いものがあるなと思います。
お薦めのレーベルは
どこでも買えるのはペンフォールドですね。値段もリーズナブルです。あまり売っていないものだと、バスフィリップ。赤は結構高いですが、白だったらシャルドネが36ドルぐらいで買えます。質との比較で考えるとなかなかいいと思います。なかなかお店で売っていないのでワイナリーで直接買った方がいいでしょう。でも忙しいので私はなかなかいけませんが。
総領事は戦争と平和に関心が高いとお伺いしましたが、最近の核軍縮の動きに関してはいかがですか?
私は直前の勤務地がウィーンで、国際原子力機関IAEAなどの関係の仕事でしたが、そのときの直属の上司の天野大使が、IAEA事務局長の選挙に当選されました。被爆国日本からの選出には感慨深いものがあります。イランや北朝鮮の核問題にもIAEAは深く関わっています。また安全保障という戦争を防ぐためのプロセスも非常に重要だと認識しています。そもそも戦争が起きなければ核を含む軍事力を使う必要がないわけですから。なお、安全保障面ではオーストラリアと日本は、日米同盟・米豪同盟と、いずれもアメリカの同盟国で、アジア太平洋の平和と安定に深くかかわっています。外務大臣と防衛大臣とが集まって開かれる閣僚会議を、日本はアメリカとオーストラリアとの間でのみ有しています。そして、オーストラリアはアメリカ・イギリス・日本の三ヶ国との間でのみ、この外務・防衛閣僚会議を有しています。経済面では中国の台頭が目立ちますが、政治や安全保障の面においては、日豪両国は大変緊密な関係を築いており、日本とオーストラリアが戦略的パートナーといわれるのはこのためです。
最後になりますが、ビクトリア州在住の日本人の方にメッセージをお願いします。
ビクトリア州は今年、ブッシュファイアーに見舞われ、また新型インフルエンザも猛威をふるいました。総領事館としては在ビクトリア州の日本人の安全を第一にということで危機意識を持って対応しましたが、幸いなことにブッシュファイヤーで日本人の被害者はでておりません。また、インフルエンザも現段階では大事に至っていません。今後とも、このような自然災害、日本人が巻き込まれるような事件事故等に際し、日本人の安全・保護について全力で対処していく所存です。
また、話は変わりますが、メルボルンには現在約一万人の日本人がいます。これは外国にいる日本人の数では、世界で16番目です。これは2007年の数字ですが、ヨーロッパと比較するとメルボルンより日本人が多い都市はロンドンとパリのみとなっています。これを反映して、メルボルンでは日本関連のイベントが多く開催されています。しかしながら、その行事等に必ずしも日本人が多く出席しているかといえばそうでもないような気がします。情報に接する機会がないのかもしれませんが、総領事館のHPやGO豪メルボルンさんをみるなどアンテナを張っていただきたいですね。そのような催し物に出席されると視野が広がり、メルボルンの生活がさらに充実することでしょう。姉妹都市の交流も盛んで、昨年は大阪とメルボルンが30周年、来年は愛知県とビクトリア州が30周年記念です。それを記念し、来年初めには愛知県議会の代表団がいらっしゃいます。総領事館ではこういった交流も支援していきたいと考えています。
インタビュアー:長谷川 潤 岩本 英恵 倉地 亜矢美
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