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東京に原発を

今回の福島原発の事故により、改めて原子力発電所の建設や運用が見直されています。

原子力発電は、その安全性が議論されて、過去には建設地の住民の間で、大きな反対運動が起こってきました。そのため電力会社は「未来のエネルギー、原子力は安全」キャンペーンを展開し、政府も後押しして、官民一体の原子力政策が推進されてきました。

その後、世界では、特にドイツのように、緑の党の政界進出で、原発廃絶方針が決定して原子力発電所の建設中止、廃止が進められ、一時期は新規建設が行なわれないような状況にもなりました。

ところが、原油価格の急騰など、安定したエネルギー源の確保を目的に、数年前から、原発政策の見直しと新たな建設の動きが見られるようになり、「原子力ルネサンス」と呼ばれる事態になってきました。

そんな中での今回の福島原発の事故は、世界に衝撃を与えたわけです。

もともと原子力は大きな危険性を抱えているのですが、もちろん専門家は、技術的な安全性や、たとえ放射能が漏れても人体に害のない範囲ですと説明します。でも、万が一の場合は甚大な被害を与える事故のリスクは厳然とあるわけですし、廃棄物の最終処分の問題もあります。

そこで思い出すのが、いまから四半世紀前に出版された「東京に原発を」(1986年、広瀬隆)です。その書名からかなり注目を集めた本です。

当時は、そんなに原発が安全だというなら、なんで東京に建設しないんだ、という意見は至極もっともだと感じたものです。結局、電力会社は、そうは言っても、万万が一のことを考えて、過疎地に建設するんだと言い、政府もまた地元にお金が流れるからと、電力会社、土建業者と一体となって原発建設を推進してきました。

ちなみに、東京に原発を建設できないのは東京の地盤が弱いという理由があったようですが、そんなことを言ったら、静岡県の浜岡原発は、まさにかなり高い可能性で地震があるとされている東海地震の予想地域のど真ん中に立地しています。どう説明するんでしょうか。

原発事故といえば、スリーマイル島(米国)やチェルノブイリ(ロシア)、そして日本の東海村と柏崎がありますが、今回、福島の原子力発電所が加わってしまいました。

原子力委員会の委員だった専門家に言わせると、原発の専門家は原子炉の安全性、原発施設の安全性は考えるが、その周りの地域の安全性はそれほど重要視していないといいます。

典型的なのが、新潟の柏崎刈羽原子力発電所です。2007年の新潟県中越沖地震で変圧器に火災が発生し、全面停止になりました。このとき、建屋から火災が発生して黒煙が上空高く立ち上ったのですが、専門家は、原子炉自体は緊急停止しているので安全だ、建屋の火災は問題ない、などという発表をしました。

原子炉を取り巻くインフラ環境がダメージを受けてトラブルになっていることで、冷却設備や電源の問題など、関連の問題が生じるということに思いが至らない、また、周辺の住民への迅速な説明や避難の指示などがすぐされなかったわけです。

このときの教訓を東京電力は、今回の福島原発の事故にまったく活かすことができていないと感じます。

地震によって電源系統や消火設備、その他のインフラがダメージを受けて、原子炉の危険性が明らかになった先例があったのにも関わらず、今回もまた、東京電力は同じ事態にその対処が後手後手になっているように見受けられます。

もはやわたしたちは「原子力は安全なエネルギー」などという言葉に惑わされることなく、安全でない原子力は一切許さないという気持ちを強くもつべきではと思うのです。(安全な原子力って、あるのかな?)

 

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