インドネシアへの生体牛輸出の禁輸措置が解除されました。これでようやく肉牛飼養業者も輸出業者もホッとしているのかと思うと、そうでもなくて、この間の禁輸措置によるかなりの経済的損失に頭を抱えているようです。
そもそもの事の発端は、5月下旬に、オーストラリアのABCテレビの時事報道番組「Four Corners」が、インドネシアの屠殺(とさつ)場での実態を放映したことです。番組では、インドネシアに輸出されたオーストラリア産の牛が屠殺される際に殴打されるのですが、それがあまりに残酷なもので、番組を観たオーストラリア国内の動物愛護家や一般の方からの猛反発を受けて、連邦政府がインドネシアへの生体牛輸出の停止を決定したというものです。
当初は12カ所の屠殺場への輸出禁止だったのですが、6月7日には、インドネシアへの生体牛輸出の全面禁止が発表されました。生体牛輸出の経済規模は3億1800万ドルです。牛肉生産の3分の2が輸出に向けられているので、この禁輸措置は生産農家にも輸出業者にも大きな打撃を与えました。ですから政府の発表以来、関係業者による猛烈なロビー活動が展開されました。
そして、昨夜、農業大臣が禁輸解除を発表したというわけです。これで、輸出ヤードに集められていた牛が徐々に船に乗って送り出されることになりますが、この間、牛の肥料代や輸送代などかなりな負担となっていたわけですし、以前の状態に戻るまでまだ数カ月かかるわけですから、まだまだ安心できない状態が続くようです。
禁輸の解除には、屠殺場の改善措置と、牛の輸出経路の把握(トレーサビリティ)が条件になっています。これらの条件を整備して、当初は1、2カ所の屠殺場への輸出再開が、8月1日から始まる予定です。
さて、今回の牛騒動、発端は牛を非人道的な方法で食肉処理しているということですが、これってオーストラリア人が日本の捕鯨に反対する理由と同じですね。テレビにクジラが捕鯨船に引き上げられて、真っ赤な血を流しながら解体処理される様子が映し出され、クジラがかわいそうというイメージが伝えられましたが、まさに今回の牛騒動と同じものです。
そう考えると、オーストラリア人の態度には一貫したものがあります。残虐、非人道的、動物愛護の精神を踏みにじるものには断固として反対するというものです。(国の象徴であるカンガルーを殺して食べることは、非人道的な方法であるかないかの違いで、正当化しているようです。)
ところが問題はそう単純ではなく、牛の食肉処理という点では、宗教的な問題にまで発展する可能性があるんです。
イスラム教徒やユダヤ教徒は、戒律に基づく屠殺方法によって食肉処理された肉(ハラールミート)しか基本的には食べません。ですから、以前、マレーシアがオーストラリアから牛肉を輸入していたのですが、オーストラリアの食肉処理業者が牛を迅速に処理するための新たな加工技術を導入したところ、ハラール認定を取り消して、ほかの国から輸入したことがありました。(イスラム教やユダヤ教では、牛の意識がある状態で食肉処理を行います。)
また、オランダでは、6月28日、イスラム教やユダヤ教の戒律に基づく食肉処理を禁じる法案を可決しました。気絶させたり麻酔で眠らせていない家畜の食肉処理を禁止するというものです。
もちろんインドネシアの屠殺場で行われていた殴打による残虐な屠殺や、そもそも一般の牛肉とハラール肉との違いなど、問題は異なりますが、牛に痛みを与えない方法での屠殺が、ある人たちには宗教的に受け入れられないものでもあるということです。
私たちは、いま、多様な文化、人種、社会、宗教に囲まれている地球世界に生きているんだなということを感じさせる出来事です。解決はそう簡単ではないでしょうが、現実にそういうことが身近な周りで起きているわけです。
でも、美味しくビーフを食べたいだけなの、そんなややこしいこと考えたくない…というのが本音ですよね。
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