売春婦と父 in ハワイ
私が始めて海外旅行に行くことになったのは、高校生活最後の夏休みに両親と姉とでハワイに行ったときである。
当時インターネットなどといったシャレたものはなかったので、“ハワイ=フラダンス”程度の知識しかなかった私の家族は、目がチカチカするような蛍光色のウエストポーチを腰に巻き、パイナップルの形をしたサンダルを履き、
きわめつけには、“VIBA Hawaii!”と書かれたTシャツを、何故か姉とペアルックでホノルル市街を横行したものである。
田舎者&海外バージンな我家族にとって、ハワイは未知の世界であり、某大手旅行会社さん発行のガイドブックはバイブル、いや命綱と言っても過言でなかったと思う。
我らの命綱は、ハワイ到着前からカラフルな付箋やら折込でかなりくたびれていたが、計画通りにお約束のプラネットハリウッドで巨大なバーガーを食べ、ハナウマ湾に訪れ、そしてエルビスプレスリーのそっくりさんショーにまで参加させて頂く事になった。
そっくりさんのショーでは、頬のこけたエルビスプレスリーと、ちょっと太目のマドンナまでは良かったが、何故か最後に和田アキ子のそっくりさんが登場した時はさすがに驚いた。
皆それぞれ“何かが違う事”を感じながら、何も言わないのが大人な我が家である。
ちなみに我らの命綱には注意事項も記載されていて、“目抜き通りのカラカウア通りを夜歩いていると、現地の売春婦が声をかけてくることがありますが、被害にあわないよう『ノーサンキュー』と断りましょう。日本人の男性は人気があるので注意しましょう。“と書いてあった。
京都の田舎で育った我家族にとって、売春婦なんてものは遠い外国のお話だと思っていたけれども、よーく考えれば現在私達は遠い外国に来ているので、売春婦がここにいてもおかしくないのだ。
早速私と父は、“日本人の男性は人気がある“という不確かな情報にもとに、ウエストポーチのベルトをギュッとしめ、嫌がる母と姉を夜のカラカウア通りへと誘導する事に成功した。
当時私が持っていた“売春婦”のイメージと言えば、やはりジュリアロバーツ主演映画のプリティーウーマンである。
ということは、必然的に私と父は和風リチャードギアということになるが、リチャードギアがパイナップルのサンダルは履かないであろうことは、当時の私でもわかったし、父とリチャードギアの共通点は“同じ男性“である事以外はみつからなかった。
そんな私達がカラカウア通りの横断歩道をわたっていると、ゆうに190センチはあろう巨大な女性が前から歩いてきたのが見えた。 この巨大な女性は全身ブルーのスパンコールで出来たミニのドレスを着ていて、彼女の立派なオッパイは私の頭2つぶん程あった。
この巨大な彼女は、私が想像していたジュリアロバーツというよりは、ジュゴンのハーフに似ていたし、女優というよりは怪獣に近かった。 それよりも何よりも怪獣が男だった事は言うまでもない。
そんな怪獣を見て驚きを隠せなかった私の父は、“あっ!おったー!売春婦おったどー!”と怪獣に指を指した。
余計な事をしてしまった父は、横断歩道を渡ったところで巨大怪獣にあっさりつかまり、強制的に彼女のオッパイにグイグイ顔を押し付けられ、おでこにチューまでされ、あっという間に通行人の笑いものとなった。
それでも父はオッパイで押しつぶされたメガネを片手に、“あろぉーはぁー、サンキューぅ”と怪獣にお礼の言葉を残し、それを見た母は、“アロハーって言うより、ありゃりゃーだねぇ・・・。”と横でため息をついた。
こうして我ファミリーは、斜めになったメガネをかけた父と、それを必死に直そうとする母、そして殺人的に笑わされた私と姉は怪獣を囲んで記念撮影をし、ハワイの最終夜を向かえたのであった。
後に父が親戚中の笑いものになったことは言うまでもないが、“余計なメガネの修理代がかかった”と母に怒られ、“あの怪獣が男であった”ことを今でも認めない父を横に、本ブログエッセイを終えるとしよう。
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