日豪プレス 2012年6月号 掲載記事
▶▶▶フィジオセラピーは、筋肉や関節の痛みや機能障害、神 経系機能障害や呼吸器系疾患などの治療やリハビリを行う専 門家で、必要に応じてMRIや専門医に紹介し、包括的な治療を 行っている。さまざまな体の機能を知り尽くした奥谷先生に、 体の痛みの原因や改善法について聞いてみよう !
ヒザに最もよく見られる疾患
シドニーはもうすぐマラソンの季節ですね。今月はランナーに多いヒザの疾患をご紹介します。Rさんは43歳の男性で、ジョギングが趣味でマラソン大会への出場を目標に週3日は走っていましたが、ここ数日、急激にトレーニング量を増やしました。すると階段の上り下りや走っている時にヒザの皿の周辺に痛みを感じるようになったとのことで来院されました。
診察の結果、Rさんは膝蓋大腿部痛症候群と呼ばれる、ヒザに最もよく見られる疾患でした。これは、膝蓋大腿関節(ヒザの皿と大腿骨でできている関節)が過度の刺激を受けることによって炎症が起こり、ヒザの皿の周りやヒザ前深部に痛みを生じるという疾患です。
通常、大腿筋が歩行中にかかとから受けるショックを吸収してくれるのですが、ランニング中は大腿筋がショックを吸収しきれなくなり、膝蓋大腿関節にかかる負荷が大きくなります。負荷が増えると 関節の表面を覆っている軟骨が過剰に圧迫されたり、削られたりして炎症が起こり、痛みを感じるようになります。
男女によって原因にも違う傾向
原因は主に以下の2つのタイプに分類されます。
(1)下肢の柔軟性の欠如
(2)下肢の安定性の欠如
(1)のタイプは、一般的に男性に多く、太ももの外側部の腱と筋肉部分などの柔軟性の欠如によってヒザの皿がヒザの外部に過剰に牽引され、関節軟骨に過度の負担を強いることによって生じます。
(2)のタイプは一般的に女性や運動不足の人に多く見られ、大腿筋、臀部の筋肉、ふくらはぎの筋力が弱く、かかとから伝わるショックを筋肉で吸収できないことが主因です。
Rさんは(1)のケースに当てはまりました。この場合、炎症を抑えるために筋肉のリリース・マッサージ、鍼治療を行いながら、腱と筋肉を伸ばすストレッチをリハビリに取り入れることが肝心です。急性期にはテーピングなどで一時的にサポートすることも効果的です。
ランニングの中断期間は、水中ウォーキングやランニングで低〜中負荷の痛みを伴わないリハビリを開始します。炎症が治まった後は、痛みが出ない程度に理学療法士の指導の下、ランニングを早期に再開することが大事です。これは、体力を低下させないためでもあり、腱、筋組織の軟化を防止してほかの症状を併発させないために大切なことです。
*同コラムは、一般医療情報の提供を目的としています。症状や治療法は人によって異なりますので、必ず専門家の指示に従ってください。
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