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国際化が進むにつれて世界中の国境を越えた移動や国際結婚が増加する中、それに伴い、子どもを持ったのち、一方の親が国境を越えて子どもを連れ去ってしまうことが大きな問題となっています。一時帰国や離婚などの理由があっても、国境を越えて子どもをもう一方の親の承諾を得ないまま連れ去った場合、「ハーグ条約」の対象になる可能性も。
この連載では、国境を越えた子どもの連れ去りによっておこるさまざまな悪影響から、子どもの利益を守ることを目的として定められた「ハーグ条約」について、『外務省ハーグ条約室(日本中央当局)』監修のもと、全4回にわたって詳しくご紹介しています。
第1回の内容は、「ハーグ条約の大まかな概要」と「ハーグ条約の手続きの流れ」。第2回は、参考事例をもとに「ハーグ条約適用の対象とされた場合の対策や支援」と「家庭内に問題を抱えている時の相談先」をご紹介していきます。
今現在は当事者でなくとも、自分自身や未来の家族のためにも「ハーグ条約」について正しい知識を身につけましょう。
以下は、日本国籍とオーストラリア国籍のカップルに発生した子どもの連れ去りの事例です。
リーガルエイド(裁判費用を払えない困窮者への法律扶助、無料の法律相談)やDV被害者に対する支援などのQ&Aもあります。
日本人女性Aさんとオーストラリア人男性Bさんの事例
① 日本人女性Aさんは、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアに渡り、オーストラリア人男性Bさんと出会いました。その後、ふたりはオーストラリアで結婚。子どもも誕生し、家族3人のオーストラリア生活を始めました。
② ところが、次第に夫婦の関係が悪化。Aさんはオーストラリア現地での支援も少なく、5歳の子どもを連れて日本に戻ることを決意しました。
③ その際、AさんはBさんの同意を得ぬまま日本に帰国してしまい、「子どもは日本で育てます」とのメールから事情を知ったBさんは、それきり日本にいる子どもと電話もできない状況が続くことに。
④ Bさんは子どもをオーストラリアに取り戻そうと、「ハーグ条約」に基づき、子どもの返還をオーストラリア中央当局(司法長官省)に申請。
⑤ その申請書は日本中央当局(外務省ハーグ条約室)に送付され、日本中央当局によって子どもの外国返還援助が決定されました。
母親が子どもと日本で生活することを決断する前に「子どもはどの国に住むのか」について、父親の同意を得ておくことが最善です。
また、父親との約束を破って日本に子どもを留置した場合(父親と期限付き滞在の約束をして子どもを連れて日本に戻り、約束の期限を過ぎても子どもをオーストラリアに帰国させないこと)も、「ハーグ条約」適用の対象になります。
子どもを留置してしまう可能性がある場合、日本に戻る前にオーストラリアの弁護士や法律相談所にまず相談しておくことをお勧めします。
中央当局(外務省ハーグ条約室)による外国返還援助決定=返還決定、ではありません。援助が決定された後に当事者間の話し合い、または子どもの返還裁判によって、子どもを元いた国に返還するかどうかを決めることになります。
日本弁護士連合会を通した弁護士紹介、裁判外紛争解決手続(ADR)機関の紹介、子どもの返還裁判を行う裁判所に提出する資料などの翻訳(一定限度まで)、子どもとの面会交流支援機関の紹介および費用の免除(一定限度まで)などを受けることが可能です。
日本の裁判で子どもの外国返還決定が出たにも関わらず、上記の母親が決定に従わない場合、父親は裁判所に「間接強制の申し立て」と「代替執行の申し立て」を法的に行うことができます。
「代替執行の申し立て」が取られると、日本の裁判所の執行官らが子どもが滞在している家などに出向き、子どもの外国返還を強制的に執行することになります。
「ハーグ条約」は、親子の国籍のいかんに拘わらず適用されます。上記事例の父母双方が日本国籍であっても「ハーグ条約」の対象となり、原則として「子どもが元いた国」であるオーストラリアに子どもを返還することになります。
父母が離婚していたとしても、父親が子どもの監護の権利を有している(共同親権など)にも拘わらず、その権利が侵害されている場合、原則としてオーストライリアに子どもを返還することになります。
子どもが連れ去られる直前に住んでいた国=常居所地国になるとは限りません。住んでいた期間、目的、住んでいた時の就学状況など、さまざまな事柄を子どもの返還裁判を行う裁判所が総合的に勘案して、子どもの常居所地国を判断します。
オーストラリアと同様のリーガルエイド(裁判費用を払えない困窮者への法律扶助、無料の法律相談)は日本にありません。しかし、弁護士費用などの貸付制度である民事法律扶助制度を利用することができます。民事法律制度の詳細については、日本司法支援センター(通称:法テラス)公式ウェブサイトをご覧ください。
「ハーグ条約」では、原則として子どもを元いた国に返還した後、その常居所地国にいる状態で、子どもの監護権について判断することとしています。
例外として、「子の心身に害悪を及ぼすこととなる重大な危険(子の返還拒否事由)」がある場合、子どもの外国返還裁判所の判断によって返還拒否が認められることがあり、その場合、子どもの外国返還拒否の事由を主張している連れ去った親もしくは留置した親は、それを裏付ける資料を裁判所に提出する必要があります。
なお、子どもの外国返還拒否の事由があったとしても、「ハーグ条約」自体の適用対象外となるわけではなりません。
日本の在外公館では、以下のようなサービスを提供しています。
詳しくはお近くの在外公館にご相談ください。
一方の親の同意のない子どもの連れ去りは、その子どもにとって生活環境が急変するのみならず、他方の親族との交流が強制的に断絶されてしまう他、異なる言語や文化にも対応せざるを得ないなど、大きな影響を与える可能性があります。
今回の事例のように、ハーグ条約について詳しく知らなかったことによって、後々大きな問題になってしまうケースがありますので、しっかりと「ハーグ条約」について正しい知識を身に付けておくことが重要です。
「ハーグ条約」は、① 監護権の侵害を伴う ② 16歳未満の子どもの ③ 条約締約国間の国境を越えた移動を適用対象とし、子どもを元の居住国に迅速に返還するための手続きや、国境を越えた親子の面会交流を実現するための締約国間の協力について定めています。
「ハーグ条約」の仕組みや手続きなどで不明な点がある場合は、下記の『外務省ハーグ条約室』へ相談することができます。
【今回紹介した支援団体の参照ページ・サイト】
日本の民事法律制度の詳細について:日本司法支援センター(通称:法テラス)公式ウェブサイト
在外公館で入手できる具体的な情報提供支援の一覧:在外公館における情報提供・支援
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または、オーストラリアの在外公館(大使館・総領事館)でもオーストラリアに住む日本人からの相談を受け付けています。海外暮らしにおいて、国際結婚や国際離婚による子どもの問題のほか、何らかの事件や事故被害、DVや家族問題など困ったことがあれば、こうした機関へすぐに相談することをお勧めします。※受付時間は全て現地時間です。
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