♦電車でギャーッ!♦
先日、某雑誌の撮影の関係で東京に2週間滞在することになった。
今回の撮影はタレントさんの撮影という事で、どうやら田舎者の私は緊張していたようで、打ち合わせ前夜はホテルのベッドで寝返りを5000万回繰り返し、結局ほとんど寝付けることが出来ず朝がきた。
理由はどうであれ眠れなかった事は変わらないので、 なつかしのオロナミンCをグイッと一気飲みし、久しぶりの満員電車に乗ることとなった。
”最近の東京って、シドニーやNYよりぜんぜん怖いらしいよー” と、シドニーの友人M子にさんざん脅された私は、M子の忠告を素直に受け入れ、”優しそうな人” が多そうな列に並んで、電車の到着を待つ事にした。
ちなみに私の中の”優しそうな人”というのは、プラットホームで本を読む人がそれらの部類だ。 朝早くから熱心に勉強している姿は、向上心と社会への順応性、そして協調性の表れだと勝手に解釈したのである。
久しぶりの満員電車を体験した私は、これでもかと言うくらいグイグイと押されては ”うぅーうぅーー” と唸り、 ”チカンと間違われてはいけない” と、両手でつり革をつかんでみたり、恐ろしいお兄さんと変に目が合って、 "何みとるんじゃーー、この野郎ー!!” などとイチャモンをつけられてはいけないので、可能な限り目を閉じたりしていた。
”やっぱりM子は大げさだなぁー、東京なんてへっちゃらさー” などと余裕をかましていた瞬間に事件が起きた。
”キキーーッ!”と大きな音を立て、品川駅直前で電車が急ブレーキをかけて停車したのだ。 ”油断は禁物”とはこの事である。
あまりの急停車に、つり革を持っていた私の両手はびよーんと伸びる程度で済んだのだが、車内では倒れる人までいて、横に立っていた50歳くらいの白髪の外人さんは”OH MY GOOOOOOOOD!!!!”と、大きな声であげて、周りを見回した。
電車が停車すると同時に車掌さんからのお詫びのアナウンスが流れ、「今ほど人身事故がありました。皆様には多大なご迷惑をおかけしますが、早急に対応します・・・」といった内容だ。
電車の中では、時計を気にする人や、携帯メールに専念する人、”何も朝のラッシュにしなくても、いいのにねぇー”などと、言う人までいた。
そんな中、私の横に立っていた白髪の外人さんは、どうやら日本語のアナウンスがわからなかったようで、満員電車の窓に顔を近づけて外を見てみたり、周りをキョロキョロしたりして、普通以上にパニック状態に陥った様子だった。
”きっと、日本語のアナウンスが分らなかったんだろうなぁ・・”と、大体の予想はついたが、そのまま外人さんの様子を見守ることにした。
電車が停車してから5分も経過しないうちに、彼は誰かに電話をかけ始め、英語でこういった。「訳: 何かわからないけど、急に電車が停車して出られないんだー みんな怖い顔して何かを待ってる感じだー テロリストかもしれない、キッドナップされたかもしれないー!」
「えらい、話が大げさになってるなぁ、このおっさん・・ テロリストって・・・ ドラマ24じゃあるまいし・・ 皆怖い顔なんかしてないし、余裕で本を読んだり、立ちながら寝てる人もいるのに・・・・」 彼のアクセントからすると、どうやらアメリカ人のようである。
この辺りで、「ええとですねぇ・・」と説明してあげればよかったんだろうが、そんな間もなく今度はさっきと同じ人から電話電話があり、彼は急に身の回りの物をキョロキョロと見渡した。
”何を探しているのだろう・・・ まさかサリンのありかを探してるんじゃ・・・”
そんな私の予測をよそに、彼は電話の相手にこう叫んだ。
「訳: な、ないぞー、そんなものー!FXXK! 窓を割るようなトンカチも取り付けられてないし、消火器もなーーいっ!くぅーーーっ!!」
”ほぉぉーーーーっ! さすがアメリカ人、災害大国だけあって、緊急時の対策には慣れたものである。” などと悠長なことを言ってる場合ではない。
このままでは、前に座っているお姉さんのコロコロスーツケースを持ち上げて、「うりゃぁーーーー!」と窓に向けて投げつけてしまうかも知れない・・・
そう思った私は、私はつたない英語で話しかけた。
「訳: あのぉー・・・ テロリストもサリンも消火器もあなたの想像の範囲をかなり超えてます・・ どうやら人身事故で、今掃除中みたいですけど・・・ あと車内は携帯電話禁止ですよ・・・ほら・・・・」と、”マナーモードに切り替えましょう”のステッカーに指をさして教えてあげた。
彼は”はっ!”と一瞬我に返ったようにも思えたが、それでも私の忠告を無視して、携帯電話を取り出し、”人身事故だから安心しろ”とだけ伝えて電話を切った。
こうして私達は、白髪のじじいによる2次災害を避けることに成功し、約20分後電車は無事に開通した。
友人M子の言っていた ”恐ろしい東京” を初日にして体感した私はやっとの事で品川駅に到着した。
そんな私を、プロダクションの山木さんがわざわざ迎えに来てくれた。 山木さんは、私の顔をみるなり
”カツさん、何だかお疲れの様ですけど、大丈夫ですか・・・?”と心配そうに私の顔をじーっとみられたので、 ”えぇ、大丈夫です・・。でも東京は恐ろしい街ですねぇ・・”とわけのわからない返事をし、ますます山木さんを心配させ撮影現場に向かったのであった。
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