♦お金持ちの城田くん♦
私が城田君に初めてあったのは、中学1年生の時である。
私が通っていた小学校は、どこの田舎にもある普通の公立小学校で、”たまたま近所に住んでいたから・・” と言う理由で、そこの小学校に通っていた子供達がほとんどであった。
ちなみに私が進学する事になった中学校も、当時私が通っていた小学校から目と鼻の先の距離で、”この小学校に通った子供達は、今度はこっちの中学校に進学するんですよ、一番近いですからね。” と、自動進学システムになっていたように思う。
勿論私の姉も2年早く同じ中学校に通ったし、私も”そういうものなんだ” と何も疑わず、社会の流れに沿って一番近くの中学校に進学したが、そんな中、城田君だけは違った。
城田君は東京出身のシティボーイで、当時お父さんの仕事の関係で、急に京都の宇治に引っ越してくる事になったという。
当時、城田君は4段ギアの付いた自転車に乗っていて、子供なのにいつもお母さんの香水をつけていたのが印象的だった。
そんなある日、テレビドラマのような東京の言葉で話す城田君は、”最新のファミコンカセットを買ったから遊びにおいでよー” と、私を彼の家に招待してくれた。
当時、私はファミコン大好き少年だったので、ドンキーコングだとか、マリオブラザーズなどのカセットを10個位持っていたが、そんなしょっちゅう新しいゲームを買ってもらえるわけもなく、同じゲームで何回も何回も遊んでいたものだ。
特に一番古いドンキーコングなどは、何度も何度もやったので、大福もちを食べながらでも、よそ見をしながらでも、ゴリラを檻に入れて降伏させては満足していたものだ。
ドンキーコングのゴリラも、”また君が相手かい? 宇治のかっちゃんにはかなわないなぁー・・ まいったよぉー ”と嘆いていたと思う。
そんな私は、学校の帰りに、城田君の家に遊びに行くことになった。
城田君の家は、高級そうな2階建ての豪邸で、庭にはツバキの花が咲いていて、まるで平等院でも思わせるような、石畳と丸石で出来た立派なお庭があった。
そのお庭には、学校の池と同じニシキゴイが優雅に泳ぎ、大理石で出来た表札は、我が家のテレビよりも高そうだったし、入り口の玄関は、我が家の風呂場よりも大きかった。
私を含めて周りの友達はみんな団地住まいだったので、テレビドラマで見るような2階建ての豪邸や、お庭にコイを買ったりしているような家は、テレビドラマのセットだけだと思っていたので、”いつも一緒に遊んでいる城田君がこんな家に住んでいるのかぁ” と思うと、急に城田君を遠く感じた。
”城田君、すごい家に住んでるねぇ、城田君の家では3時のおやつとか出るの?”
私が子供の頃、お金持ちの家には、松坂慶子似のキレイなお母さんがウグイス色の着物を着て、”召し上がれー”と首を横にかしげながら、高級そうなケーキをおやつに出すものだと信じていたからだ。
”うん、3時じゃない時もあるけど、おやつはあるよ” と 彼は私の妄想を裏切らなかった。
城田君の部屋はきれいに整頓されていて、ガラスのドアがついた本棚には百科事典がずらりと並べられていたり、”さぁ、勉強してくださいね” と言わんばかりに机の上もキレイに片付けられていた。
机なのか、ガラクタ市のテーブルなのか分からない私の勉強机と、ドラえもんや筋肉マンのコミックがズラリと並んだ私の本棚とは、あまりにも違ったが、そんな事はここでは重要ではない。
気持ちを切り替えて、本日のメインイベントのファミコンをする事になった。
”どれがいいー?” と、まるでファミコン屋さんのようなセレクションのカセットをケースから取り出した瞬間、”いらっしゃーーい” と、城田君のお母さんがお盆にケーキとオレンジジュースをのせて部屋に入ってきた。
”やっぱり、お金持ちの家にはケーキが出るのかー、すげーなーー”と感動した私は、お礼を言おうと城田君のお母さんの顔を見上げた瞬間、愕然とした。
城田君のお母さんは、松阪慶子というよりは、松阪投手似で、丸々太った体に出っ歯の金歯をきらっと光らせながら、"ウホウホッ・・”と下品に笑った。
私は動揺を隠せなかったが、ちゃんとお礼を言って、早速ケーキに手を出した。
ケーキの上には、砂糖で出来た金の飾り玉が散らばっていたのだが、それが城田君のお母さんの金歯のかけらじゃないか心配になったが、失礼に当たってはいけないので、”おいしいです”と言ってそのままグイッとケーキを飲み込んだ。
”あーら、良かったわー! おばちゃんが作ったのよー!!”
”えっ・・・・・・・・。”
私はその後おばさんの金歯を食べた気がして、肝心なファミコンに集中できず、どんよりした気分で豪邸を後にする事になった。
それ以来、私は今も金の飾り玉を見ると、城田君のお母さんを思い出すようになり、金の飾り玉だけでなく、金粉も金歯も苦手になったのだった。
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